6. お茶会7
俯くダイニングで、なずなの味方をしてくれたのは、やはりマリンだった。
「私は賛成よ。ひっそり身を潜めるより、堂々としていた方が、きっと何よりの防御になると思うわ。ここは、人の世だもの」
マリンの笑顔が心強かった。なずなは、ほっとして、うんうんと頷いた。
自分達も人として過ごすなら、隠れるよりも、人に溶け込むべきだ。マリンの言葉に、皆が頭を悩ます中、春風が手を挙げた。
「僕もその勇気に一票を投じるよ。ハク君はどうだい?」
春風が尋ねると、ハクは春風を見上げ、それから戸惑うように視線を揺らした。
「…僕は…」
「ハク、無理しないでいい、まだやるとも決まってないからな」
ギンジの言葉に反論しかけたなずなだが、ハクに無理をしてほしくないのは同意見なので、ぐっと堪えた。
ハクはギンジに頷くと、俯いてしまった。その様子を見て、フウカが仕切り直すように進言した。
「やるならもう少し環境を整えないと。火の玉騒動の犯人の事もありますから」
確かに、真犯人が捕まらない以上、いつどこで襲われるか分からない。元々は無差別に人を襲っていたあやかしだ、イベントに合わせて何かしでかすとも限らない。
「そういや最近騒がないよな、もう何もしてこねぇんじゃねぇの?」
「油断は出来ないんじゃない?このまま何もせず手を引くとは思えないけどな…」
ナツメとフウカが思案気に言葉を交わす中、マリンが軽やかに手を叩いた。
「ひとまず、出来る限り準備を進めても良いんじゃないかしら。犯人が捕まってないからと言って、何もしない訳にはいかないわ。私達が火の玉騒動の犯人じゃないかって疑いは、まだ消えてないんだから」
何もしないで待っていても、時が解決してくれるとは限らない。その前に出来る事をやらなくては、厄介者として人の世に居られなくなるかもしれない。
マリンの言葉に、ナツメ達も思う所があったのだろう。渋々ながらも同意する素振りを見せてくれたので、なずなは思わずマリンと春風を見やれば、二人はなずなの背を押すように頷いてくれた。
「じゃ、早速明日から準備にとりかかりましょう!やれる事は沢山ありますから!」
「…僕もやっぱり手伝いたい」
嬉しそうななずなの様子につられたのか、ハクも幾分元気を取り戻したようだ。
「ありがとうハク君!」
ハクがお礼を言いたい少年、純太は、あの時、ハクと話そうとしていた。友人達が来て邪魔が入ってしまったが、町内イベントなら、彼も来やすいだろう。純太が来てくれる事に期待を抱きつつ、なずなは気合いを入れ直した。
「それで、お前は何をするんだ?」
「え?」
ナツメに問われ、なずなはきょとんとした。
「なずちゃんは、裏方で忙しくなっちゃうんじゃない?それに、ナッちゃんだって何もしないじゃない」
「俺はアイドルだぞ、ばれたら人が押し寄せて大変だろ」
「あら、それはそれで丁度良いんじゃない?」
「確かにねぇ…、いやー面倒そうだけど、人寄せにはぴったりだ」
マリンと春風に言われ、ナツメはきっと二人を睨み、飛びかからん勢いで立ち上がった。
「人のこと客寄せパンダみたいに言いやがって…!」
「ちょっとナツメ、二人もからかわないで下さい」
フウカが止めに入り、更に賑やかさを増すダイニングで、なずなはふと、行き止まりを前に立たされた気分だった。