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メゾン・ド・モナコ  作者: 茶野森かのこ


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3. 新しい日常11


「あの、すみません、ご迷惑をおかけして」

「良いんですよ、それに、それはこっちの台詞です」


こちらに少し顔を傾けて、フウカは申し訳なさそうに言う。


「あなたが標的にされかねないと分かってはいたのに、こんな風に怪我をさせてしまって…本当に申し訳ありません」

「そんな、フウカさんの責任ではないですから!」


なずなは、フウカに責任を感じてほしくなくて焦って声を掛けたが、フウカは「いいえ」と、なずなの言葉を受け入れようとはしなかった。


「僕達の責任ですよ、人間のあなたを巻き込んだのは、僕ら、あやかしなんですから」

「……」


なずなは返す言葉に迷い、口を閉じた。

フウカの声は、先程も感じたような固い声で、なずなはその声に、言葉以上の拒絶が含まれているように感じてしまった。

人間である自分と、あやかしであるフウカ達とでは同じにはなれないと、境界を引かれてしまったような。


あやかしだと言っても、襲ってきたあやかしとフウカは違うのに。


けれど、その思いは言葉にする事なく喉奥に押し込めた。無理に押し込めたからか、その思いは胸につかえて苦しくなるけど、それでも、フウカに否定される事を思えば、その方がまだ良かったように思う。


なずなは、控えめに乗せていたフウカの肩に視線を落とした。

まっすぐ前を見て歩くフウカの足取りは、いつにもましてゆっくりと穏やかだ。恐らく、なずなの体の負担にならないよう、ゆっくり歩いてくれているのだろう。それから、いつもは感じない汗の匂い。それだって、きっと、心配して急いで来てくれたからだ。


それも、襲われたのが、人間である自分だからだろうか。


そう思えば寂しくて、いつもは心強いフウカの背中が、今はどうしてか遠く感じてしまう。その背中に、肩に触れているというのに、どうしてそんな風に感じてしまうのだろう。


アパートの皆とも打ち解けてきて、勝手に仲間に入れたような気でいたけれど、もしかしたら、そう感じていたのは自分だけだったのだろうか。


そう思ったら、苦しい胸がぎゅっと痛みを伴うようで、なずなは唇を引き結び、膨らむ寂しさに、ただ耐えるばかりだった。





そうして、少しだけ重たい空気を引き連れながら、二人はなずなのアパートにたどり着いた。


「ありがとうございます、ここで、」

「僕も、部屋の中を見てもいいですか?」

「え?」

「安全の為です、何者かがいないとも限らないので」


そう言うと、フウカはなずなの返事を待つ事なく、そのまま階段を上っていく。なずなは、背中から降ろして貰う気でいたので、慌ててフウカの肩にしがみついた。そして、またもや慌てながら、肩に掛けた手を添える程度にする。重い空気が流れていたって、背負われる気恥ずかしさは消えた訳ではない。

いや、それよりもと、なずなは新たな不安を巡らせていく。部屋の中の荒らされ具合を思えば、恥ずかしいも何もない気がするが、散らかり放題の部屋をフウカに見せるのは、少し抵抗がある。


「でも、部屋の中、本当に酷くて…」


うっかり変な物が転がっていたらどうしようと、言い淀むなずなに、フウカははっとした様子でこちらに顔を傾けた。


「勿論、部屋の隅々を見たりしません。あやかしの気配を感じ取る事は暗い中でも出来るので、その、なるべく部屋の中を見ないようにしますから!」


フウカの背中の上からでは、その表情を見る事は出来なかったが、それでもフウカの焦った様子は伝わってくる。もしかしたら、困ったような申し訳なさそうな表情を浮かべているのでは、と、そんな想像が出来て、なずなは少し安心してしまった。今のフウカからは、固い声も、距離も感じない。いつもの優しいフウカだと思えたからだ。


さっきまで、寂しいとか感じていたのに。拒絶された気がして、勝手に苦しいとか思っていたのに。こんなフウカの一言で、噛みしめた唇は思いがけず緩んでしまう。


「…はい、よろしくお願いします」


なずながほっとして返事をすれば、フウカもどこか安心した様子で、そっと笑みを返してくれたようだった。




「この部屋です」


だが、緩んだなずなの心は、やって来たドアの前で緊張に変わってしまった。


先程のあやかしはギンジが捕まえてくれたが、フウカが言うように、別のあやかしが潜んでいたらどうしよう。そう考えたら、先程の恐怖が甦ってくるようで、なずなは知らず内に、フウカの肩に触れていた指先に、きゅっと力を込めた。



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