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メゾン・ド・モナコ  作者: 茶野森かのこ


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11. それから2



サキの病室を後にしてから、なずなはどういう事だと春風(はるかぜ)を問い詰めたが、春風はどこかもったいぶった様子で詳細を教えてくれなかった。


「うちに帰ったら、ちゃんと話すよ。何せ、これには皆の協力が必要だからね」


楽しそうな春風の様子に、勝手に決めてだ何だと言おうとしていた文句が、するりと手から零れ落ちていくようだった。

普段、面倒くさがりな春風が、ここまで前向きに楽しんでいるのだ、見ているなずなまで何だかワクワクしていた。



アパートに戻ると、春風は早速皆をリビングに集めた。イベントが終わったので、レストラン仕様は終わり、どこかガランとした、いつものリビングの姿がそこにある。


「なんだよ、俺早く風呂に入りたいんだけど」

「おや、猫なのに風呂が好きとは感心だねぇ」

「俺をその辺の猫と一緒にすんな!」

「ナツメ君、落ち着いて」


牙を剥くナツメをフウカが窘めたが、ハクは小さく悲鳴を上げて、なずなに抱きついた。


その様子を見て、「ハクが怖がってるぞ」とは、ギンジの言葉だ。ナツメは渋々ソファーに戻ったが、その様子を見て、そういえばとなずなは思い出す。なずながこのアパートに来て間もない頃、共に囲った食卓で、なずなを煙たがって声を荒げたギンジにハクは怯えていた。

そのギンジが、ハクの為にナツメを制するなんて、ちょっと感動である。


「…なんだよ」

「な、何も!」


しかし、油断するとギンジの睨みが飛んでくる。以前よりは怖くないが、ほどほどにしなければまたハクが怯えてしまう。


「春さん、それで何の話なの?」


マリンが先を促すので、なずなはほっとして春風を見上げた。

春風は一つ咳払いをして、サキに語っていた店の事について話し始めた。


「ここで、店をやろうと思うんだよ。一日限定じゃなくね。昔、なずな君の曾祖母にあたるヤヱという女性と約束したんだ、彼女は帰って来なかったけれど、その思いはずっと変わらなかったと知って、ようやく決心がついたよ」


この土地を守り、ヤヱの帰りをずっとこのアパートで待っていた春風。

ヤヱも同じ夢をずっと持っていたと知った今、その夢の続きを叶えたいと思った。


「ふふ、レストランなんて楽しそうね」

「まぁ、どんな感じかは、この間やったから何となく予想つくけど…でもさ、資金はどっから出てくるんだよ。やるなら、家の中とか弄んないとだろ?さすがにアパートの援助金じゃ賄えないだろ」

「援助金?」


ナツメの言葉に、なずなが首を傾げた。なずなの給料も含め、皆の食費や光熱費等、どこからお金が出ているのかずっと不思議だった。仕事組から徴収してたとしても、それでやり繰り出来るものなのか、だが、春風達からは、お金の悩みは聞いた事もなかった。

そんななずなの疑問に、「レイジっていうあやかしがいると言ったでしょ?」と、春風が説明してくれた。


「当時はスズナリというあやかしも居たんだけど、二人のあやかしが僕にこのアパートの管理を任せた話はしたよね?

そもそも彼らは、マリン君を避難させる場所を探していて、それで、神である僕の力があればマリン君を隠せると思ったそうだ。しかし、管理するのもタダとはいかない、レイジ君は一時スーパースターにもなっていたけど、それ以前からお金儲けは得意でね、今も彼から援助を受けてるんだ」


だから春風は、普段働くでもなくのんびりしていたのかと納得する。お化け屋敷と呼ばれる所以は、春風の術のせいだったと以前分かったが、そうであってもマリンが平穏に過ごせているのは、やはり春風の力あってこそ、その為の対価なのかもしれない。

それにしても、レイジというあやかしは、やり手なんだなと、なずなは感心した。スーパースターという言葉が、以前日本中を虜にして、人気絶頂の最中に姿を消したアイドルの姿が脳裏を掠めたが、まさかねと、打ち消した。今はそれよりも、このアパートの事、店の話の方が重要だ。


「それで資金は」


ギンジの問いに、春風はにこりと笑んだ。


「この間、イベントで古美術に詳しい人がいてね」

「あ!久世(くぜ)だろ!よくテレビに出てる!」


ナツメもその場にいたのか声を上げた。


「そうそう、そうしたら、よくわからないけど、壺やら皿やら掛け軸やらが結構な物らしくてさ」

「あの倉庫にあった物ですか?」


フウカの問いに頷くと、春風はニコニコとしてフウカを見つめた。


「だから、資金はどうにかなる。フウカ君に店をやってほしい」

「…え?」

「このリビングを少し改装しよう。メニューは、ロールキャベツを入れて欲しいな、ヤヱさん料理は下手だったけど、あれだけは得意だったんだ。そうだ、紫乃(しの)君にも一声掛けてみようよ」


春風の言葉に、なずなは目を輝かせ、フウカを見上げた。


「わ!凄いじゃないですか、フウカさん!お店やってみたいって言ってましたもんね」

「あら、フウちゃんのお料理が、また皆に食べて貰えるのね」

「ぼ、僕も何か出来る?」

「勿論よ、皆でお手伝いしましょう」


ハク、マリンと続く言葉に、ナツメも珍しく瞳を輝かせ挙手をした。


「あ!店のBGMなら任せろ!」

「…花の事なら手伝えなくもない」


ナツメに続き、ギンジが少しぶっきらぼうに言う。皆が乗り気なのが嬉しくなって、なずなも、はい、と挙手をした。




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