勉強できない安西さん
ふと思ったことがある。
「安西さんはいつ勉強してるんだろう?」
お手洗いから教室へ戻ろうとしていた最中、俺はそんな疑問を口に出していた。授業中はいつも隣で寝ていて、ノートを取っているところを見たことがない。もしかしたら違うクラスにノートを見せてくれる人がいるのかもしれないけれど。
この学校ではゴールデンウィーク明けにすぐ定期考査がある。もし勉強してなかったりしたらまずいんじゃないだろうか。
ってなんでそんなことを考えているんだ。一回、困っていた安西さんを助けただけだろ。そんなお節介をうけるほど安西さんも困っていないよな。
――安西、授業中寝るのもいいが勉強はしているのか?
――はい。頑張ってはいます。
「……安西さんと鷹先?」
教室に戻ろうと一歩足を進めたところで、2人の声が聞こえた気がした。
隣は生徒指導室。少しだけ覗いてみたら、安西さんと鷹先が向かい合って座っていた。
教室にいないと思ったらこんなところにいたのか。
いつも安西さんは、お昼ごはんを食べたあともすぐ寝ている。この時間に起きていることなんてまれなんだけど、何があったんだろう。少しだけ気になる。
――じぃーっ。
いや、なにやってんだ俺。いくら鷹先と安西さんでも、覗きと盗み聞きは普通にアウトだろ。
……でも、少しならいい、よな?
「安西の家庭の事情は知っている。しかしだな、提出物も怠り、成績も悪いとなると、留年になるかもしれないぞ?」
「……そうですよね。もっと時間を作って勉強を頑張りますね!」
「……いや、そうじゃなくてだな。もっと授業に参加を――っておい、まだ話は終わってないぞ」
「失礼します!」
そう言って、安西さんは俺のことにも気づかず、教室に戻っていった。
「何をやっているんだ、斉藤」
「げっ!」
そんな声が聞こえて振り返ると、鷹先がこっちをじっと睨んでいた。生徒指導室からいつ出てきていたんだ? 安西さんを目で追っていたから全然気付いていなかった。
「まさか、さっきの話を盗み聞きしていたなんてことは――」
「失礼します!」
俺は先生に怒られることを承知で、全力で廊下を駆けた。
「あの話を聞いた限りだと安西さんは閉店後から勉強してるってことだよな」
教室に戻った俺は、鷹先と安西さんの会話をノートに書いていた。
居酒屋仕事が終わった後に、そんな余力が残ってるなんて不思議だけど、六限まで寝ていることも多いし、そういう可能性が近く感じてくる。
「だったら俺にできることは――」
ってそうじゃないだろ。こういうのが悪い癖なんだろうな。
――でも、あの話を聞いたからには何かしてあげたい。
俺は鞄の中から定期考査用にまとめておいたノートを取り出す。
「これでよかったらだけど」
安西さんが寝ているのを確認して、俺はノートを安西さんの鞄の中にいれた。
「がんばれ、安西さん」
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