今日も寝ている安西さん
「って今日も寝てるじゃん!」
安西さんの居酒屋の手伝いをした翌日。無事筋肉痛になり、遅刻ギリギリに登校した俺の隣では今日も安西さんが寝ていた。
「……むにゃむにゃ」
昨日の親子丼の夢でも見ているんだろう。口もとが小さく動いている。
あれだけの肉体労働だったんだ。それも毎日、寝ちゃうのは当然だよ。これまでは寝てるくらいにしか思っていなかったけど、昨日の働きぶりを見たからこそ分かる。重たい料理を運んだり、皿やボトルを一度に片付けたり、お会計をしたり、注文を聞いたり、安西さんはあの時間ずっと動き回っていた。
布団を被せてあげたいけど、学校ではダメだよな。
それにしても、ほんとに気持ちよさそうに寝てる。
「ふわぁ」
ヤバい。安西さんを見てたら眠気が。HR始まったばかりだし、あんまり重要なこともないだろう、少しは寝ても問題ないか。昨日の疲れもまだ残ってるし。チャイムが鳴るから先生が来る前には起きれる気がする。
「……おやすみ」
誰にとは言わない挨拶をして、俺は腕を枕代わりに寝ることした。
ほんと、何でこのときチャイムで起きられるなんて思っていたんだろう。
――斉藤。
「……?」
誰かに名前を呼ばれた気がする。チャイムはまだ鳴っていないから、そんなに時間は経っていないはずなんだけど。もしかして、授業始まってた? だとしても一限は国語の山口先生なはずだし、寝ていたい。
「――斉藤、起きなさい!」
あれ? なぜか鷹先の声が聞こえた気が。数学の授業は二限だし、そんなこと――
「……え?」
少しだけ体を起こして教室を確認したら、クラスメイトが全員こっちを見ていた。
あれ? 今って国語の時間だよね。そんな一時間も寝てるはずが――
「おはようさん。よく眠れたか?」
「……おはようございます。鷹崎先生」
そっと隣を確認する。そこには安西さんではなく、鷹先がこっちをずっと睨んでいた。
「寝ていたってことは、黒板の問題分かるよな」
「……えっと」
……やってしまった。どうするこの状況。
黒板にはぎっしりと数式や図形が書かれていて、どの問題なのかすらわからない。机の上には当然、教科書やノートどころか筆箱すら置いていなかった。
あてずっぽで答えてみるか? いやそんなことできるはずがない。こうなったら隣の子に聞くしか。安西さんは――
「――って、寝てる」
鷹先の横から少しだけ見えた安西さんは、朝と同じ体勢でぐっすりお休み中だった。この状況で、何で寝ていられるの?
「……えっと」
――斉藤も寝てたのかよ。
――あいつ一時間目からずっとだぜ。
そんな笑い声がどこからか聞こえてくる。
ああもう。どうだってなれ!
「3xの――」
キーンコーンカーンコーン。
あれ、チャイムが鳴った?
「よし今日の授業はここでおしまいだ。斉藤、次の授業のときに当てるから、しっかり答えられるようにな」
そう言って、起立礼の挨拶も行わず、鷹先は教室を出ていった。
ひとまずは助かったけど、二時間くらい寝てたとは。