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安西さんと体育祭

どうしてこうなってしまったんだろう。バトンを持った瞬間、身体はそのまま前に倒れた。膝を擦ったのか、足がヒリヒリと痛む。放送は「白組早い! 橙組がんばれ」と橙組を応援していた。


何人かが横を通りすぎていく。先輩からバトンを渡されたときは3位だった。今はたぶん5位か最下位か。どちらにせよ、走らないとこのまま最下位だ。 数メートル先では安西さんがバトンを待っている。でも、このまま走っても――。


「斉藤くん!」


そんなとき、どこからか俺を呼ぶ声が聞こえた。地面に手をつき、立ち上がりながら、声がした方を見る。そこには、安西さんがいた。安西さんが口元に手をあてて叫んでいた。


「斉藤くん、頑張って!」


ああ、もう、何で応援されてるんだ俺! カッコ悪くてもいい。不格好でもいい。負けたらあいつのせいだって思われてもいい。今、この瞬間、安西さんが応援してくれているんだ。走らなくてどうする。


すぐに立ち上がり、落ちていたバトンを拾う。そのまま俺は全速力で走った。前には5人、つまりは最下位。


「ごめん、遅くなった。あとはお願い」

「まかせて!」


安西さんにバトンを渡す。そのまま俺はレーンの外で倒れた。


「がんばって、安西さん」


数分後、パンッと空砲がなった。


「優勝は――」


  *  *  *


『これを持ちまして、体育祭を終了いたします』


閉会式が終わり、生徒たちが教室へ戻っていく中、俺は安西さんを探した。

あのとき、声をかけてくれなかったら、絶対に走れなかった。優勝だってできたかどうか分からない。


「……いた! 安西さん、あのときは―――って、やっぱりそうだよな」


 安西さんはテントの中で椅子の背中に身体を預け、首を横にちょこんと傾けて目を閉じて寝ていた。

 ああもう、こんなところで寝ちゃってどうすんだよ。誰かが戻ってきたりするかもしれないだろうに。

 でも――。


「今日は起きていたもんな」


体育祭の最中、安西さんは起きているところしか見なかった。400メートルリレーも全員リレーも安西さんは全員が驚くほど、他の人を何人も抜かして見せた。

そんな安西さんを起こすことなんてできない。


「おやすみ、安西さん」


 誰かがくるまではこのままで。

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