嘘が下手な安西さん
しまった。なんで天江が居酒屋に。安西さんといるところはあまり知られたくなかったけれど、まさか一番バレたくない相手に見つかるなんて。
安西さんの居酒屋でバイトをしていることがバレてしまった俺は、ひとまず天江に、明日話すからと説明し、その場は事なきを得た。忘れてくれないかと思いながら迎えてしまった翌日、定期テスト2位の実力者は忘れているはずもなく、俺と安西さんは、空き教室に呼び出され、立たされていた。
「で、芳樹、どういうこと?」
「気のせいじゃないか?」
「今さら隠しても遅いから! 昨日見てるし、名前だって呼んでたよね」
教室に一つだけ置かれた椅子に足を交差させながら天江がじっとこっちを睨んでくる。
まぁこいつに嘘なんかつけるわけないよな。
天江とは幼稚園のときから付き合いだが、いつも感だけは鋭くて、嘘がすぐバレていた。
どうせ誤魔化そうとしても、無駄なんだろうし。正直に――。
「斉藤くんは……そう、あれだよ、うん、あそこにいただけっていうか……」
安西さん、助け船を出してくれるのは嬉しいけど、誤魔化しきれてないよ。
「でもまさか、眠り姫と会ってたとはね。どうやって出会ったかは知らないけど、どうせまたお節介なことでしょ?」
諦めて、バイトを始めたきっかけだけをさらっと説明すると、天江は「やっぱりね」と妙に納得していた。
「まあそうだけど」
「そうやって眠り姫とずっといたんだね~。それで寝顔まで見てるんだ。クラスで人気な安西さんをね~。ふ~ん」
「おい、その言い方だと誤解を招くだろ!」
気になって安西さんの方を見てみると、なにも分かっていないのか、ちょこんと首をかしげていた。
もしかして、寝顔を見せてるって自覚ない?
「ま、いいや。……えっと眠り姫――じゃなかった、安西さんはうちの芳樹をどう思う?」
「おい、うちのって天江――」
「いい人だよ、斉藤くんは。仕事もちゃんとしてくれるし、いつも助けてくれるから」
天江の問いに、安西さんは少し照れながら即答した。
そうか、いい人か。あまり安西さんから評価されたことはなかったけれど、直接言われると、すごく胸に響くものがある。
「ふ~ん、なるほどねぇ。ま、いいや。他の人には言わないでおいてあげる。幼馴染だしね」
「ありがとう、恩に着るよ」
天江なら言いそうだったが、とりあえず、よかった。面倒事は誰だって避けたい。
「ま、次何かあったら言っちゃうかもだけど」
「おい!」
「冗談だって、冗談。芳樹はいつもそうだなぁ。そういうところだよ?」
自覚はしているけど、天江に言われると、妙に腹が立ってくる。
「じゃあ、安西さん、うちの芳樹をよろしくね!」
「おい、またうちのって――」
「こちらこそよろしくね、天江さん」
 




