一難去ってまた一難
休憩時間が終わり、店内に戻るとさっきの男性はいなくなっていた。賑やかになった店内に、ほっと安心感を覚えながら、町さんのところへ向かう。机を見ると、伝票が数枚置かれていて、町さんはまだ忙しそうに作業をしていた。
「町さん、休憩から戻りました」
「あら、もうそんな時間なの? じゃあ、斉藤くん少しだけ盛り付け手伝ってくれる?」
「はい、分かりました」
厨房の手洗い場で手を洗う。町さんの隣に向かうと、少し指が震えた。
ヤバい。俺普通に分かりましたって言っちゃったけど、盛り付けなんてやったことなかった。安西さんから教わったのは接客のことばっかりだったし、料理なんて今までほとんど触っていない。ひとまず言った方がいいよな。
「あの、町さん、俺――」
そう思い、話しかけようとしたら、町さんが手を止めて、俺の方を向きながら頭を下げてきた。
「……えっと町さん?」
「斉藤くん、さっきはありがとう、杏里を助けてくれて」
「……いや、そんな。頭を下げることのことじゃないですよ! 別に俺は対したことなんてしてませんから! 安西さんは無事でしたし」
休憩中に灰皿が擦ったところを見てみたが、とくに腫れているようすもなかった。安西さんも今は笑顔で接客してるし、そんなに畏まられても困ってしまう。
「ほんとはね、私も杏里を助けに行こうと思っていたの。でも、火を扱ってたからすぐには行けなくてね。ただ斉藤くんが助けに入ってくれた」
「いえ、そんな、安西さんが危ないと思ったからで――」
「でも、娘を助けてくれたのは事実だから。もう一度言うわ。ありがとう」
「……」
いつもはお節介ばかりで迷惑だと言われたこともあったけれど、こう言われるとやっぱり嬉しい。
「じゃあ、斉藤くんはいつも通り、フロアで接客やってもらおうかしら」
「え? 盛り付けをするんじゃ?」
「あれはこの話をするための嘘よ」
そう言って町さんはうふふと笑った。
『あの、こっち注文いいですか?』
厨房の近くの席でお客さんが手を上げていた。安西さんは――今接客中で手が離せなさそうだな。
「さ、注文入ったわよ。杏里は今別の卓にいるから、斉藤くん行ってあげてちょうだい」
「分かりました、行ってきます」
ということで注文を取りに行ったのだが――
「いらっしゃいませ――って天江?」
見知った顔があり、俺は思わず名前を呼んでいた。
「え、よしき? なんでいるの?」




