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絡まれる安西さん

休憩スペースまで聞こえてきた男性の大声に、俺はすぐ店内へと向かった。


安西あんざいさんに何かあったのか? いや、お客さん同士のトラブル? どっちにしても危ない気がする。なにもなければいいけど。


「……」


 店内に繋がるカーテンを抜ける。休憩前は、あんなに賑やかだった店内が、お客さんが帰られたと思ってしまうくらい静かになっていた。


どうしたんですか?と、近くにいたお客さんに聞ける雰囲気ではなく、俺は全員が注目しているその方向を向いた。


「安西さん?」


そこには安西さんがいた。男性は少し服が濡れている。もしかして――


「ごめんなさい! 気がつかなくて」

『気がつかなくても、くそもあるかよ。お気に入りの服汚しやがってよ。どうしてくれるんだよ』


「まぁまぁ、落ち着いてよ。相沢さん。杏里あんりちゃんもこんなに謝っているんだから」

「そうだよ相沢さん。いくら不幸が続いたからって杏里ちゃんにまで当たらなくても」

『うるせぇ!』


前に安西さんが駅に送り届けていた吉岡さんたちも、男性を落ち着かせようとしているが、男性は怒りが膨らんでいく一方だった。


「ごめんなさい!」


安西さんがもう一度頭を下げる。しかし、男性は安西さんの謝罪を見ず、机に置かれていた灰皿を手に取った。


『ああ、もうお前が――』

「安西さん、危ない!」


男性が灰皿を振るおうとするのが見えて、俺は一歩踏み出し、安西さんの前に立った。灰皿は肩を軽くかすった程度。痛いとは感じなかった。


「お客様、こちらが致してしまったことについては、何度でも謝らせていただきます。もちろんクリーニング代をお出しします。でも――」


隣にいた安西さんは男性を見て、少し怯えていた。ここは、居酒屋だ。酔った客に絡まれることはあると思う。こういうことだって、日常的ではないにしろ、起こってしまうこともあるかもしれない。今回は安西さんの不注意。怒られるのは当然だ。でも。


「スタッフに手を出すのは止めていただけませんでしょうか?」


安西さんを傷つけられたりしたら、俺はお客さんでもこの人を許せなくなる。


『悪かったよ』


そう言って、男性は席に座り直した。


「お客様、お騒がせ致しました」


お客さんそれぞれに一例しながら、俺は休憩スペースに戻った。その途中、安西さんから告げられた言葉は耳に残ったままだった。


「ありがとう、斉藤さいとう

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