テスト前の安西さん
「ふゎぁ~あ……」
風邪をひいた安西さんのお見舞いに行った翌日。俺はまだ誰も来ていない教室で一人、自分の席に座ってあくびをしていた。窓の外を見ても部活動をしている人や登校している人はいない。いつも余裕をもって登校してはいるのだが、今日は違う。中間考査一日目。緊張して眠れず、早く学校に来てしまった。
「今日のために頑張ってきたからな」
一年の最初の内申点にも関わってくる重要なテスト。何かあってもいいように、少しでもいい点数を取っておきたい。
「直前に問題を解くのは、あまり効果はないっていうけれど」
鞄に入れていた国語の教科書とノートを開く。
基本的に家に帰ったら、本を読む前に復習はしているので、本番に活かすだけ。そのはずなのだが、高校に入って初めてのテストなので、対策の打ちようがなく、手が少し震えていた。
「よし、やるか」
そう思って、筆箱からペンを取り出した瞬間だった。バンッと教室の扉が開く音がした。
慌てて教科書から目を離し、扉に視線を向けると。
「安西さん?」
「あれ、斉藤くん?」
そこには安西さんが立っていた。
「安西さん、体調は大丈夫なの?」
「うん、この通り」
辛そうにしている様子もなく、安西さんはその場で一回転をしてみせる。
「良かったよ。昨日は辛そうだったから」
「……うん、ありがとね。斉藤くんのおかげで大分よくなったよ。ゼリーも美味しかったし……あ」
昨日のことを思い出してしまったんだろうか、安西さんの頬がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
しまった。昨日のことは話さない方が良かったかもしれない。どうにか話題を変えないと。
「……えっと、安西さんはいつもこの時間に来てるの?」
安西さんはいつも来たときには隣で寝ている。朝練をしている男子の噂を少しだけ耳にしたが、八時前には学校に来ているらしい。
「いつもはお店の準備があるから、もうちょっと遅いんだけどね。今日がテストだって言ったらお母さんが『今日は、手伝いはいいから』って」
「……そうなんだ」
朝もお店の手伝いをしているのか。ますます起こしてあげるのも気の毒になってきた。どうにかできたらいいんだけれど。
「あ、そうだこれ!」
そう言って、安西さんが鞄から取り出したのは一冊の見覚えのある青いノートだった。
「これのおかげで今日のテスト、良い点数とれそうだよ」
「それはよかった」
もちろんそのノートは、俺が定期考査用にまとめたノート。ただそのノートは、渡したときとは違い、付箋やマーカー、文字が足されていた。
「……あのさ。良かったら、ちょっとだけ勝負しない?」
「勝負?」
「そう、テスト勝負。というか、今どれだけ覚えてるかっていう暗記対決なんだけど」
「いいけど」
これから教科書の内容を一通り読み返して、問題集を解くつもりだった。テスト勝負なら復習にもなる。
それに安西さんには負けたくはない。
「じゃあいくよ。3X二乗の次数と係数は?」
「……え、数学? こういうのって普通、社会とか英単語とかじゃ――」
「分からないなら、答え言っちゃうよ?」
「……いや、ちょっとまってすぐ答えるから」
そうして、何問か問題を出し合うこと数分。
教室に続々とクラスの子が入ってきて、俺はすぐ何もなかったように教科書を開き、安西さんは寝たふりをした。すぐに教室はクラスメイト達の会話で埋め尽くされていく。
「(もうこんな時間だったのか、ごめん安西さん。勉強の邪魔しちゃって)」
「(こっちこそ、邪魔しちゃったね)」
朝凪さんと俺は小さく笑い合い、ノートを開いた。
「(じゃあ、お互い頑張ろうね)」
「(うん、お互いに)」
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