風邪で寝ている安西さん
「断れずに来てしまった」
町さんに案内されて着いた先は二階。靴を脱いだ先は、外見からは想像できない白い壁で、ボトルシップや砂時計など、オシャレなインテリアが飾られていた。
「どうしたの? さ、入って」
「……おじゃまします」
町さんに背中を押されて中に入る。後ろでガチャッと扉を閉める音がした。
「杏里の部屋はすぐそこだから」
町さんが奥の方へと歩いていく。
……確かに杏里って書いてある板はあるけど。
部屋の前にはピンク色の丸文字で杏里と書かれた木の板がかけられている。
「……」
こういうのってお母さんに言われて入っていいものなのか? いくら手伝って面識はあるとはいえ、クラスメイト。しかも俺は男で、安西さんは女の子だ。普通安西さんに許可が必要なんじゃ。
「あら、まだここにいたの? さ、入って、入って」
「……えっと」
「杏里も待っていると思うから」
お粥をトレーにのせて戻ってきた町さんは、そう言って安西さんの部屋の扉を開けた。ベッドと勉強机くらいしかないシンプルな部屋でベッドに寝ていたのはもちろん安西さん。おでこには冷却シートがはられていて、顔はほんのり赤くなっていた。
「杏里。机にお粥置いておくから後で食べなさいね」
「わかったぁ、ありがとうお母さん」
「斉藤くんも来てるから、ゆっくりしてるのよ」
「うん、わかったぁ」
「じゃあ、頑張ってね、斉藤くん」
そう俺に耳打ちして、町さんは俺と安西さんを部屋に残して扉を閉めた。
……しまった、何か誤解されてる気がする。
ひとまず持ってきたものは渡すべきだよな。
「……えっと安西さん、これ持ってきたんだけど、必要だったら」
俺はスポーツドリンクが入った袋を、ベッドの近くに置いた。
「……」
って、寝てるし。
いつも学校で寝ている安西さん。
『眠り姫』と呼ばれていて、男子から人気がある。そんな彼女の部屋で、今、寝顔を見せてもらってる。寝顔を――。
「いや、何考えてるんだ俺」
安西さんはクラスメイトだ。今日は見舞いに来ただけだろ。ノートを渡したら帰って――。
「――いかないで」
「えっ?」
帰ろうと立ち上がろうとした瞬間、俺は安西さんに手を掴まれた。ベッドでは安西さんは咳をしながら、苦しそうに寝ている。
「もう少しくらいいていようかな」
辛いときは誰かが一緒にいた方がいいと、前に保育士の人から教えてもらった。数分くらいはこうしてあげよう。
そう思って、掴まれた方の手をベッドに置いて座ろうとした。
「ふわぁ、ん……?」
その瞬間、隣で大きなあくびが聞こえた。 安西さんと目が合う。それもばっちりと。
「……えっと、おはよう、安西さん」
「……え、なんで斉藤くんがいるの⁉」
あれ?




