02 王太子・貴族令嬢 誘拐事件
「陛下! 大変です! 殿下が……ヒューバート殿下が賊に攫われました!」
事件の報せが王宮に届いたのは、王太子ヒューバートが賊に誘拐されてから、丸1日も経った後だった。
「……そうか」
「えっ、へ、陛下?」
「なんだ?」
だが報せを聞いた国王は、一切の動揺を見せず、平然とした態度で受け止める。
「ヒューバートは最近、サティーラとは疎遠となり、子爵家の女と近しくなっていると聞く。羽目を外し過ぎている事も知っている。……大方、護衛も最小限にして、王都すらも離れていたのだろう。
自らが王族である事も未だに理解しておらぬとはな。
……そのような有様では、如何な賊とて動きたくもなろうよ。
だが。
余は、例えヒューバートを人質に取られようとも、賊の要求を叶える事はない。
王子が殺されたとしても、だ」
国王は玉座に座りながら、ジロリと配下を睨み付けた。
「は……、はっ!」
「だが。愚かな息子と王族に盾突いた相手については別である。ヒューバートを救う事は二の次で良い。だが、事件の真相は明らかにせねばならぬ。
王子の捜索ではなく、事件そのものを調べあげさせよ」
「「「ハッ! 仰せのままに!」」」
王が事件を調べさせる為に兵を動かすと、たちまち情報が集まった。
どうも誘拐されたのはヒューバルト王子だけではない。
他にも攫われている者達が居た。
筆頭は、王子の婚約者である侯爵令嬢サティーラ・メレンだろう。
王子の誘拐も大問題だが、令嬢の誘拐だって大き過ぎる問題だった。
それも筆頭侯爵家の令嬢の誘拐だ。
彼女の父親である侯爵も、黙ってはいないだろう。
だが……誘拐された令嬢、という事が広まれば、彼女には瑕疵がつく……。
攫われた令嬢は、メレン侯爵令嬢だけではなかった。
ニーナ・シェティ子爵令嬢もだ。彼女は王子の……学園で出来た『恋人』だった。
誘拐された者のリストを見るに、これはどうにも……ヒューバート王子の人間関係に関わる者達の誘拐である事が分かった。
「……なんて事だ! サティーラが……! 赦さん! 赦さんぞぉッ!」
メレン侯爵は一報を聞くと激怒する。
娘愛しさ……とは、どうも違う様子だ。
「王家との縁をせっかく繋いだと言うのに! 誘拐などされおって! 傷物になったと噂がつくだけで、どれだけ面倒なのか!」
「…………」
侯爵の物言いに、使用人達は沈黙を貫く。
メレン侯爵が娘サティーラを政治の道具としか見ていないのは、侯爵家では周知の事実だった。
「お嬢様……お可哀想に」
使用人達は同情する。
だが、所詮は使用人と、雇い主の娘の関係でしかない。
同情だけはするが、当主の方針に逆らう事などはしなかった。
最も彼女に心を配りそうなサティーラ付きの侍女は、サティーラの誘拐事件に巻き込まれてしまっている。
メレン侯爵家には、サティーラを救う為に動く者はいなかった。