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トロッコの先の悪役令嬢とヒロイン。──選ばれたのは誰?  作者: 川崎悠


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13/16

13 すべてが焼けて、消える

「んぐっ……ぐぅ……」


(サティーラ、サティーラ……!)


 無理矢理にこじ開けられた目から涙が零れ落ちる。

 ヒューバートに受け入れ難い現実が突きつけられた。


「くふっ! アンナ。満足したかな?」


(この男! この仮面の男っ! こいつが、こいつらがサティーラを!)


『……いいえ。まだです。まだ殺すべき女が残っている』


「んぐっ!?」


(殺すべき、女? まさか、まさかニーナを!?)


「んぐぅぅ!!」

「おやおや。暴れないでくださいませ、ヒューバート様」


(止めろ! 止めさせろ! 何の為にニーナを選んだと、サティーラを死なせたと思っているんだ! 約束が違う!)



「くふっ! 何をお考えなのやら。そういう事じゃないと思いますよ? ふふふ」


 小柄な仮面の男は、ヒューバートの思考を読んだように笑った。


『……お嬢様を殺し。そして、私もすぐ後を追うのだと約束致しました』


「んぐっ?」


『ですので……ここでお暇させて頂きます』


「そうだねぇ。くふっ。お別れだねぇ、アンナ」


(どういう? なんだ、何なんだ、こいつは……!)



 映像の向こうで黒髪の侍女が、サティーラの腕に嵌められていた腕輪を外した。

 それは今、ヒューバートの腕に着けられている物と同じ物。


 魔力を封じる枷。

 サティーラだって高位貴族だ。本当なら魔力を用いてこのような拘束から逃れる事もできた。


 異常に衰弱していたように見えたのは、封じられているのに無理矢理に魔力を放とうと足掻いた結果かもしれない。



 ──ボッ、と。侍女の手に炎が逆巻いた。



「……!?」

「くふっ! アンナは火魔法が得意なのです。強力なのですよ? 王家の影が死体を焼き尽くす為に用いたような、特殊な火炎さえも使えるとか。ふふっ、ふふふ!」


(死体を焼く!? まさか!)



『……お嬢様。この腐った国に、何一つだって貴方を残して逝きません。あの外道、畜生にすら劣るクズ、ヒューバート・リンデルに貴方の身体を指1本だって触れさせない。

 メレンの家の墓にも、王家の墓にも貴方を埋めさせたりは致しません』


「むぐぅ!!」


(やめろ! やめろ! 彼女の亡骸すら僕から奪う気なのか!? どこまで! どこまで踏みにじる気だ!)



『…………』

「!?」


 そこで、炎を手に纏いながら黒髪の侍女は、ヒューバートの方に振り向いた。

 正確には水鏡の魔道具に、だろう。


『お嬢様の亡骸を、己が悲劇に酔いしれる為に利用する。そのような最低最悪のクズの名前がヒューバートでございます』


「んぐっ!」


『……けっして、あの外道にお嬢様の亡骸を利用させたりは致しません』


(何を! ふざけた事を、この女! くそっ、くそっ……! サティーラを……!)



「……じゃあね、アンナ」

『……………………』


 仮面の男の言葉に、侍女アンナはすぐに答えなかった。


「あっ」

『……ええ。さようなら』


 やや置いて、タイミングがズレたように彼女は言葉を返す。

 それを聞いて仮面の男は、また堪え切れずに笑いを零した。


「くふっ……。これは失敗」

「むぐぅッ!」


(何が失敗だ! どこまでも……僕達を愚弄し、踏みにじって! 愉快そうに笑っている、気狂い!)


 そう睨み付けている間に、侍女アンナはサティーラを拘束していた枷を外していく。

 すべての拘束が解かれてもサティーラ・メレンは動かない。


 炎のゆらめきが、彼女の姿を揺らし、まるでまだサティーラが生きているかのよう映していた。


 けれど、そのドレスは血に塗れ、心臓には剣が貫かれている。

 サティーラ・メレンは死んでいる……。



「さぁ! ヒューバート様! 目を開いて……ああ、閉じれませんでしたね?

 ご覧あれ! 題して『悪女は炎の向こうに消える!』 くふっ!


 ──イッツ・ショータイム! アンナ・ヴェーラの一世一代の炎のショーをお楽しみ下さいませ!」



「むぅぅぐぅぅうッ!」


(やめろっ! やめろぉおおお!)



 ……映像の向こうで火炎が逆巻く。侍女の身体を燃やし、そしてそのまま侍女アンナは、愛おし気にサティーラを抱き締めた。



『ずっと。ずっと一緒でございますよ、お嬢様……』

『…………』


 炎。炎。炎。


 2人の身体を炎が包み込んでいく。

 やがて、彼女達を映し出す水鏡の魔道具の方が耐えられなくなったのか……映像は突然にブツリと途切れてしまった。



「んぐっ……! んんぐぅ……!」

「くふっ。あははっ。いやぁ。楽しかったですねぇ。目に焼き付くような素晴らしき映像でございました。ね、ヒューバート様」


「むぐっ! むぐぅうぅ!!」


「はいはい。まずは目を開いている拘束を外して差し上げますからね。ふふっ!」


 そうして、ヒューバートの目を無理矢理に見開いていた拘束具が外される。

 ヒューバートは痛みで目をぎゅっと閉じた。


 瞼の裏には炎の光景が、そして流血に命を落とす婚約者の姿が焼き付いていた。


(くそっ……! くそっ……! 何も、何も出来なかった! サティーラ……!)



「ふふふっ。では、では。そろそろ私めもお暇いたしましょう」

「むぐっ……!?」



「ふふ。サティーラ・メレンを殺したら、その場で解放する……などと申し上げてはいませんよ? ええ。これから貴方を、貴方達を捨て置いて私は、ここを去る事に致します。

 市井に、貴族達に、この映像を広めねばなりませんからねぇ……。


『ヒューバート王太子殿下! 婚約者を見殺しにし、不貞の愛人を救ってみせる!』


 素晴らしき最低の愛! 彼の真実の愛の前では、未来の王妃も、市井の民の命も軽い!

 きっと、この先もニーナ・シェティの為に多くの者の命を燃やす王になりましょう!」



「むぐっ! むうぅううう!」


「ああ、ご心配なく! アンナの火炎は、本当に死体すらも残しません。アンナの覚悟もあります故に。くふっ! サティーラ・メレンは骨すらも王国に残さず、この世を去りましたとも!

 ヒューバート様は、その生き証人! ……生き残っていれば、ね? くふっ!」


「むぐっ!?」


「さて、はて。王家の者達は、侯爵家の者達は……この場所をいつ見つけますかねぇ? 私がヒューバート様をお助けしない以上は……くふっ。捜索隊に見つけて貰うまで……飲まず食わずのまま放置。でございますから。


 ニーナ嬢なども、ええ。長引く程に悲惨な状態で発見されるでしょうな。ふふっ!」


「むぐっ! むぐぅうぅ!」


「口枷を外しますか? ええ。ええ。では、では、そのように。ですが、その前に!」


「むぐっ……!? むぐぅうう!」


 ヒューバートは口枷の間から、無理矢理に何かの液体を流し込まれる。

 拘束された状態では、吐き出す事も難しく、飲み下すしか出来ない。


「では、失礼」

「がはっ! はっ……! はっ! 何を、何を飲ませた!?」


「ただの幻覚剤でございますよ、殿下」


「幻覚剤!?」


「ええ。それから、ふふっ。時間をかけて……侵食する呪いでも」


「呪い……だと!?」


「くふふっ。ええ。ええ。死者の魂を利用して行う呪術にございます。我が一族の研究が、これで捗りましょう!」


(一族……!? こいつは、どこの家の、)


「ぐっ……うぐ」


「……薬が効いてきましたねぇ。では。では。これにて。殿下? とても楽しい一時でございました。──ごきげんよう。もう二度と会う事はございませんね」


「待て……、貴様……、貴様っ、けして赦さぬ……赦さぬぞ……! 逃がすか、逃がしてたまるものか……。サティーラの仇を、必ず……!」


「おや。私はサティーラ・メレンを殺してはいませんよ?

 殺したのは……ふふっ。ヒューバート様ではありませんか」


「戯言を抜かすなっ! 僕は、僕が殺したんじゃない!」



「直接に手を下していないから殺していない……と言うのであれば、ふふっ。私めも彼女を手に掛けてはおりません。映像を御覧になっていたでしょう?


 私は、サティーラ・メレンが殺された時! ヒューバート様の傍に居たのです!

 貴方様が、私の無実を証明してくださいますとも!」


「ふざけるな!」


「……間接的に殺したのが悪いと仰せなら……。やはりヒューバート様。貴方もまたサティーラ・メレンを殺す事に加担いたしました。だって婚約者なのです。彼女を救う術はありました。

 王子であれば尚の事。ニーナ・シェティを見殺しにしても、貴方は評価されましたとも」


「ぐっ!」



「その事を考えなかったワケではございませんでしょう? 王子としての判断ならば、十分に『アリ』でございました。

 それでも貴方は選んだのです。

 そして、アンナは、これから先の未来でも、その『選択』を貴方がし続けるとサティーラ・メレンに訴えたのです。


 今も貴方の頭の中は、言葉は、自身を飾り立てる言い訳ばかり。


 くふっ。笑いましたよ?

 婚約者を見殺しにしておきながら。


 その婚約者の命を切り捨てておきながら。


 『僕とサティーラでニーナの命を救うのだ』とは!


 そこまで御身に都合よく言えるのは、いや! それもまた一つの才能でございましょう!


 どこまでも、どこまでも腐った王子! サティーラ・メレンを食い潰すしか出来ない愚物!

 メレン嬢は、貴方様のお母君でありましたかな?


『サティーラママぁ! ぼく、ニーナちゃんが大ちゅきなんだぁ! 全部ちょうだい! 全部お願い!』」



「……ッ!!」


 ヒューバートは意識を朦朧とさせながら仮面の男を睨み付けた。

 怒鳴りつけようとしたが、薬のせいで上手く言葉が発する事が出来ない。



「どうぞ、夢の中でお生き下さいませ、お坊ちゃん。

 どうか新しい婚約者が、貴方様の腐って甘えた性根を許容して下さることを。


 ええ、ええ。私めは切に願うばかりでございます」



「待……て……!」


「──本当にさようなら、ヒューバート様」


 そして仮面の男は狭く閉ざされた部屋を去っていく。

 蝋燭で照らされていた灯りを吹き消しながら。


 男が去り、静寂と暗闇がヒューバート王子を包み込んだ。


 薬の効き目と、そして疲労で意識を保つ事が出来なくなる。



(悪夢だ……。すべて、すべてが夢であったならば……その時は……)



 ヒューバートの意識は、ぶつり、と途切れてしまった。


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