『みんなでご飯を』
仕事仲間とみんなでファミレスに行ったときのこと。
ちょうど六人席が空いたところで、「すぐに座れてラッキーだったね」と話しながらメニューを見る。
仕事関係の電話がくるかもしれなかったので、私の席は通路に近い端っこにしてもらった。
「みんな、決まったね?」
店員さんを呼び、それぞれの食事を注文する。
「一部、お時間がかかるものもございますが……」
そう言われた私は、大丈夫だと頷いた。
このメンバーで話していると、時間なんてあっという間に過ぎる。情報交換や仕事の愚痴をだらだらと喋っていると、注文した品が届き始めた。
ただし、店員さんから案内があったとおり、一部の料理は時間差で運ばれてくる予定だ。全員分揃うまで待たず、料理が来た人から順に食べ始めることにした。
食べ始めてからどれくらい経ったときだったか。
ふと私は、正面の席の子がまだ何も食べていなことに気づく。彼女は構わず、みんなとおしゃべりしているけど……。
そのとき、テーブルに置かれた伝票が目に入った。
店員さんが間違えて持ってきてしまったのだろうか。それでなかなか彼女の分が来ないのかもしれない。
とりあえず確認してみよう。口を開こうとした瞬間――彼女の傍にあったコップの水を、その隣に座る子が持ち上げ、なんのためらいもなく飲んだ。
(……え?)
てっきり、正面の子の分だと思っていたから、私は目を丸くした……。
混乱しながらテーブルを見渡す。こちら側に三人、向かい側に三人。でも、よく見るとコップは五つしかない。
どういうこと?
呆気にとられた私が正面を見ると、彼女と目が合った。
「あ、気づいちゃった?」
無邪気に微笑んだ彼女は、そのまますっと音もなく消えてしまった。
「……!」
そこで私はようやく思い出したのだ。ここには五人で来たことを。
「ねえ、どうしたの?」
他の四人が心配そうにこっちを見ている。私は、動揺しつつも今目の前で起こったことを伝えた。
すると、彼らは戸惑った視線を交わしながら、こう言ってきた。
「途中から、だんだんあなたと視線が合わなくなっていったから変な感じがした」
「時々誰もいない方を見ながら話すから、実はすごく怖かった」
だって、「みんな」で話しているつもりだったから。