『いないよ』
幼い頃、よくかくれんぼをしていた。
そして、あのときは僕が鬼だった。
場所はいつもの公園。
僕は木の幹に向かって立ち、隠れるまでの時間をカウントしていった。
そして――
「もういいかい?」
呼びかけると、すぐに三人分の返事があった。
「まーだだよ」
僕はもう一度、十まで数えて尋ねる。
「もういいかい?」
「もういいよ」
振り向こうとして、足を止める。
「……あれ?」
隠れている友達は三人。でも、今度は二人分の声しかしなかったのだ。
「あいつ、また隠れ場所に悩んでるのかな?」
返事がなかった友達は、かくれんぼが得意じゃなかった。
首を傾げていると、遠くから微かな声が聞こえた。
「も……いよ」
よく聞こえなかったけど、残り一人の声だと思った。
早速僕は、勇んで友達を探しに走った。
二人はすぐ見つかった。
でも、一人だけ、いくら経っても全然見つからない。
それは、後から返事をしてきたはずの友達だった。
公園はしんと静まり返っていて、僕たち三人以外の気配をまるで感じられなかった。
そんなに広くないから隠れられる場所も限られているはずなのに。
「なんか、変じゃない?」
他の二人は、妙な雰囲気を感じ取って、不安そうに顔を見合わせる。
僕はというと、あいつが未知の隠れ場所を見つけたのではないかと疑った。
――いつもはすぐに見つかるくせに。
なんとなく腹が立って、でも降参とは言いたくなくて、怒鳴るようにこう呼び掛けた。
「もういいかい!?」
すると、返事があった。
「もういないよ」
くすくすと笑う、知らない子の声。
「うわああああああ!」
パニックになった僕らは慌てて公園の外に出た。
一度振り返ったものの、見渡す限り、誰もいなかった。
結局、あのかくれんぼはまだ終わっていない。
その友達は今も見つかっていないのだから。