僕は私
初投稿です。拙い文章であることを理解の上こちらの短編小説の方を読んでいただけると助かります。
自分がなろうとしている自分が、現実と乖離していく様を、またもう一人の自分が俯瞰している。
悲壮に満ちた顔をしていることを自覚すると、それをまた遠くで、且つ冷静に自分を見ている自分がいることに気づく。この自分の存在に気づいた時、自分はある一つの疑問を抱いた自分が居た。
本当の自分とは、どれが本物の自分であるのか。はたまた、自分という存在は実は一つの存在に留まっていないのでは無いのだろうか。
そう思った僕は、自分に問いかけることにした。
「なあ僕よ、君に問おう。君は一体何者なんだ。」
そう聞いてみると、見覚えのある顔とトーンで彼は答えてくれた。
「私かい?私は貴方だよ。」
「そうなんだ、そうなんだよ。だけど、君は僕じゃないんだ。」
自分の中で、ジレンマの渦流が襲う。
「そう、僕は君じゃない。君になりたかった僕でしかないんだ…僕は、君のような高尚な人間になり損ねた俗物なんだよ…」
「なるほど。でもおかしくないかい?君が僕であるなら君だって高尚な人間さ。同じ肉体と魂を持った、同じ人間なんだ。」
「だとしたら何なんだ、なんで僕の中にもう一人自分がいるんだ。僕は僕一人でいいじゃないか。」
「それはちょっと違うね、君は君の側面でしか物事を見てないのさ。」
「うるさいな、君に何が分かるんだよ。」
「分かるさ。なんせ私は君なんだから。」
その時、パラドックスの雨が自分を溶かしていった。
「そうだね、ちょっとした例え話をしよう。君という人間はずっと感情の波に晒されている。」
「感情の…波…?僕はそんなもの一度も感じたことは無いが?」
「そうだろうね、君は感情の波に飲まれてしまったからね。無自覚のうちに君は色んな感情を享受しているのさ。その波は君一人で抱えるにはあまりにも強い波だった。その結果、君という人間に死が訪れた。」
「僕は、死んだのか。」
「死んでしまったよ。でも君がいないと誰も受け取ってくれない感情が残ってしまう。だから私が生まれたんだ。」
「なるほどね。やっぱり僕は不用品じゃないか。」
「だから何度も言っているだろう?私は私であり君なんだ。あくまでも君の代わりをしていただけだし、スペックはなんら変わらないよ。ただ強いて言うなら、君よりも波に乗るのは上手いかもしれないね。」
「羨ましい限りだな。僕も君みたいな人間になりたかったさ。」
「みたいな、じゃない。私は君なんだ。私も君と変わらないし、君だって私になれるんだ。」
「僕が…君みたいに?なれるのかな…不安で仕方ないさ…」
「大丈夫、不安になることは無い。ここから先は余計なことは考えなくていい。ただ一つのことをずっとイメージするんだ。」
自分のなりたい僕(私)の姿を。
読んでいただきありがとうございます。自分という存在を少しでも考えるきっかけになってくれると嬉しいです。