罪
その日の夜。信楽はいつものように一ノ宮の部屋に来ていた。
「はあ!?柳さんに告白された上、会長に弄んでたことがバレた!?」
「まじウケるんですけど…。」と信楽は驚くが、「まあまあ、そう驚くなよ。信楽さん。」と一ノ宮はいつも通りお菓子をぽりぽりと食べていた。
「遊ぶのも疲れてきたし、そろそろ玩具変えようかなーって。」
「…はあ〜、で、次は柳さんで遊ぶの?」
「うーん、悩み中。あの子はあの子で面白そうだけど、もう私に惚れ切っちゃってるしねー。」
惚れてない人を惚れされるのが楽しいのに、どうしようかな〜と一ノ宮は考えていた。
もう既に一ノ宮にとって桐生はどうでもいい存在になっていた。いや、最初から自分の都合の良い暇つぶしの玩具だったのだ。
「…で、どうするの?会長のこと。」
「ん?今まで通り普通に接するよ?なんで?」
「んー、まあ、それでいいんだけど…。」
言いづらそう信楽に一ノ宮はよく分からずにいた。
「まあ、気をつけてな。」と言って部屋を出た。
…どういう意味だろう?
*
次の日の朝、一ノ宮は桐生を見つけると「郁ちゃーん!」呼び、彼女の元駆け寄った。
「おはよう、郁ちゃん。」
「…。」
しかし、桐生から返事はなかった。「郁ちゃん?」と一ノ宮は再び名前を呼ぶが無反応。
すると、突然胸ぐら掴まれた。
「私を馬鹿にするのもいい加減にしろ!…私なんて…私なんてどうでもいいんだろ!」
今にも辛そうな表情をする桐生だが、一ノ宮は謝るどころかフッと微笑み、「そうだよ。」と言おうとした瞬間、「…わ、私の杏ちゃんに、な、何してるの?」と控えめの声がした。
「あ、葵ちゃん、おはよー。」
「お、おはよう、杏ちゃん。」
すると桐生は一ノ宮を離し、何も言わず二人を見ず歩き始めた。周りの生徒達そんな様子を見て「あの優しい桐生様が怒るなんてどうしたのかしら…?」と噂が出来始めていた。
そんな噂も知らんぷりな一ノ宮は柳の腕を組んで「葵ちゃん、一緒に学校行こ?」と呑気に言う。柳はそんな一ノ宮を見て頬を染めて頷いた。
それから、その日は桐生と一ノ宮が話すことはなくなった。
クラスメイト達はいつもベッタリしていた二人が今朝喧嘩していた、とヒソヒソと小声で噂していた。
休み時間、一ノ宮のところに信楽が来て「ほら、言わんこっちゃない。」とポスンと頭を叩いた。
「ちょっとやり過ぎたんじゃなーい?」
「莉子だって面白がってたじゃん。」
「そりゃ、会長の純真さが半端なかったんだもん。」
とズズーといちごみるくを飲む信楽は「あ、そうだ。」と思い出したように言った。
「今日の放課後、会長、後輩に告白されるから。」
「いつも思ってたけど、莉子ってば色んなこと知ってるよね。」
「ふふ、私の情報網、舐めてもらっちゃ困るなあ。」
さて、郁はその告白にどう出るか楽しいだな…いや、もう私達は赤の他人なのだから、どうでもいいや。
*
その日の夜、一ノ宮は宿題をやっていたら、コンコンとドアがノックされた。莉子かな…と返事をせずドアを開けるとそのには桐生がいて、あまりの展開に「い、郁ちゃん…?」と思わず一ノ宮は後退りする。
桐生は部屋に入り、鍵を閉めた。桐生の目からは感情が読み取れない。
「今日、後輩に告白されたんだ。」
「う、うん、知ってるよ。」
一ノ宮は冷や汗を流しながら桐生から距離をとると足がベットに当たる。
「まあ、気をつけてな。」
と信楽の言葉が木霊する。
何のために、何が目的でそんなことを話すのだろうか。何故私のところへ来たのだろうか。色んな疑問が頭の中で交錯する。
しかし、一ノ宮は本能的に桐生の雰囲気がいつもの感じではないと感じていた。
桐生は一歩、また一歩と一ノ宮に近づく。
「告白は断ったよ。」
「…え、な、なんで?」
「……まだ分からないかい。」
すると一ノ宮は腕を掴まれて、そのままベッドに押し倒された。
「い、郁ちゃ…むぐっ…!」
「黙って。」
思わず叫ぼうとするが手で塞がれたが、すぐに離れ今度は熱い熱いキスをされ、ヌルリと舌が入ってくる。足をばたつかせ一ノ宮は抵抗するが、両手を掴まれて為す術がなかった。
ーー今まで彼女を翻弄してきた罰だ。
と誰かが言う。
そして桐生は片方の手を離し、一ノ宮の服の中に手を入れた。不味い、と思った一ノ宮はキスから離れた桐生に焦って言った。
「い、郁ちゃん、や、やめよ?こんなことし、しちゃダメだよ、」
「…それも演技なのかい。」
「ち、ちが、」
必死で否定しようとしたが、一ノ宮は本当に桐生の今やろうとしていることにやめてと言っても信じてくれない、と確信してしまった。
噛み付くように再びキスをされて「ん…!んん…ふ、」とくぐもった声を出す一ノ宮は目を瞑り涙を流していた。
すると桐生が離れ、一ノ宮の涙を見ると
「泣きたいのはこっちだ!」
「…、」
「…本当に、本気で、初めて、人を好きなったんだ。…なのに杏は違った…!」
ポロポロと涙を流す桐生のその涙は一ノ宮の頬に落ち伝う。
そこで初めて一ノ宮は自分のしでかしてしまったのことの重大さに気づいたのだった。