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猫被り娘はヤンデレ彼女を攻略できるのか  作者: ゆる
影のあるカノジョ
24/25

ご存知のように一ノ宮杏はアメリカ人と日本人のハーフだ。日本人の母親は学生時代、アメリカへ留学した時、アメリカ人の夫と出会い結婚した。

しかし、それを一ノ宮家は異国の血が混じることを許さなかった。


母親と父親の愛は硬かった。


二人は駆け落ちするように一ノ宮家を出て、一人の娘を産んだ。それが、一ノ宮杏だった。一ノ宮家に見つかる前は幸せの絶頂にいた家族だったが、ある日遂に一ノ宮家に見つかってしまった。家族は一ノ宮家に戻り、当主である老母にこう言われた。


「二人共、自分が何をしてかしてしまっているのか分かっておるのか。」


「分かっております。お祖母様。だけど、私は彼が必要なのです。」と一歩も引かない母親に老母は溜息をついた。

そして、一ノ宮家は二人を許すことにした。

しかし、それはただの建前で、長女である母親の血を受け継ぐ杏を次の当主するのが目的であった。


一ノ宮家に生まれた長女は日龍山という小さな山の土地神を鎮める巫女となり、社会から隔離された空間で育てられる。

代々一ノ宮家は血縁関係者と結ばれるのがしきたりだった。

そう、だからこそ異国の父親の存在が邪魔であった。

二人を一ノ宮家に招待する代わりにまだ幼い杏を後継者として育てることを命じた。


そして、二度と杏に会えないようにした。


抗議した母親だったが、時すでに遅しだった。母親は杏に会えない悲しみと心配で毎日泣いていた。そんな彼女を父親はずっと背中をさすっていた。

…これでは意味がないじゃないか、と母親はずっと訴えていた。


一方で杏は親に会えないショックから何も話さなくなった。

そんな時、現れた侍女が雫だった。


「杏様、初めまして。雫と申します。」


しかし、杏は雫に見向きもせず目の光が無くなっていた。雫はめげずに杏に話しかけた。


「杏様、もう何日もお食事を摂っていないでしょう?軽いものですが「お母さんとお父さんはどこ?」」


その質問に侍女である雫は答えることができなった。当主から杏を二人には会わせないようにと言われていたからだ。

雫は杏の近くに来て座り、「杏様、お食事を…」と言い終わる前に杏はご飯が乗ってある皿を手で払った。

雫をキッと睨んだ杏は泣きながら訴えた。


「お母さんとお父さんはどこ!?どうして会わせてくれないの!?」


雫は困ったように目線を逸らした。そして、決意した。


「分かりました。杏様、今夜ご両親に会いに行きましょう。」


すると杏の表情は明るくなり「本当!?」と嬉しそうだった。

これは最悪の選択だった。もし杏が両親と会うのが見つかってしまったら当主は黙っていないだろう。


そして、今夜、雫は杏を一ノ宮の敷地にある小さな離れに連れ出した。そこには杏の両親がいる。


「杏様、出来るだけ静かにお願いしますね。」

「うん。」


誰にも見つからないように、バレないように雫は予め用意していた鍵で離れの戸を開けた。その瞬間、杏は走って両親の元へ走った。杏の姿を見た両親は泣きながら抱きしめてこう言っていた。


「…杏、杏じゃないか…。」

「あ、杏、どうしてここに…?」

「お母さんとお父さんに会いに来たんだよ。」


雫は影からその様子を見守る。次は杏様を安全に部屋に戻す為だけ…と時計を見る。

そして、10分が経過した時、雫が現れ、両親は思わず杏を隠した。


「ご安心ください。私は皆様の味方です。今から杏様を部屋に戻って頂きます。」

「…そうか、杏、そろそろ部屋に戻りなさい。」


しかし、杏は嫌々と首を横に振った。


もっと両親といたい。

もっと両親と話していたい。

これからもずっとお父さんとお母さんの側にいたい。


そう訴える杏だが、父親が杏を抱きしめて雫に渡した。暴れる杏だが、母親が「静かにしなさい、杏。」と注意すると大人しくなった。

雫は失礼します。と言い離れから出た。


そして、あれから一週間が経った頃、杏は雫に懐いていた。何故なら、あの日から毎日、夜中皆が寝ている間、雫が杏に彼女の両親に会わせているからだ。


「雫ー!今日は何して遊ぶの?」

「ふふ、杏様今日は新しいぬいぐるみを貰ってきたんですよ。」


と大きなうさぎのぬいぐるみを袋から取り出して杏にプレゼントした。杏は更に笑顔になり、「雫ありがとー!」と平和な日々を送っていた。


しかし、ある日のこと、雫は当主に呼ばれ、薄暗い部屋に失礼します、と入るとそこには杏の両親がいた。驚いた雫は目を丸めた。

…どうして、ここに?離れにいるのでは…、と。


「雫。」

「は、はい!当主様!」


名前を呼ばれビクつく雫は当主が今から何の話しをするのか予想はついていた。震えが止まらない雫に当主は構わず言った。


「雫、お前は夜な夜な、杏と離れにいるこの両親に会わせていたな。」

「そ、それは…。」


きっと誰かが見ていたんだ。

雫はどんな処罰を下されるのか分からず冷や汗を流しバクバクと心臓を鳴らした。


「杏にこの両親を会わせるなと命じた筈だ。」

「も、申し訳ありません…!杏様の心情を思うと会わせざる得なくて…!本当に申し訳ありません…!もう今後一切会わせませんのでどうかお許しを…!」


すると、当主は「…そうか。」と呟き、「ならば、」と話しを続けた。


「罰として杏にお前達三人を殺すように命じよう。そうすれば杏は次期当主として納得するだろう。」

「そんな…!杏様にそんなことをさせる訳にはいきません!ど、どうかお許しを…と、当主様…!」


すると、当主は「ならば、お前がこの両親を殺すか?」と言った。

もう逃げ道は無くなっていたのだ。杏の両親も、雫も青ざめて黙ってしまった。


そして、当主は他の者に杏をこの部屋に呼ぶように命じた。そして、暫くして杏が訪れると彼女は「雫とお母さん、お父さん…?」と呟いた。


「杏。」

「は、はい!」


突然、当主に名前を呼ばれて緊張で声が裏返った杏はここに呼ばれた意味をまだ知らなかった。


「お前の両親はしきたりを破った。そして雫も。その罰としてお前が責任を取り、三人を殺しなさい。」

「!?、え、そんな…。」


すると側にいた人間は刃物を杏に強引に持たせた。しかし、杏はその刃物を床に投げ捨てた。


「い、いや…!お母さん、お父さん、雫!た、助けて…!」


こんなこと、純粋な杏様が出来る訳がない、と雫は立ち上がって刃物を取り、抵抗しない杏の両親を刺し殺した。両親は「ありがとう…。」と涙を流しながら呟いた。血塗れになった雫は目を黒くして杏に近づくと、杏は一歩下がった。まだ7才の杏は雫に殺されるとそう思っていたが、雫は杏に刃物を持たせ、そのまま自分を刺した瞬間、雫の口から血が流れ出る。

血が杏の着物に付く。杏は泣いていた。


「……約束です、私はずっと杏様のお側におりますよ…。」


そして雫は息を引き取った。

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