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猫被り娘はヤンデレ彼女を攻略できるのか  作者: ゆる
影のあるカノジョ
23/25

人殺し

「杏ちゃん、いつ見ても可愛いです〜。」


と二宮は一ノ宮にハート飛ばしながら抱きついてグリグリと頭を振る。そんな二宮を桐生が許す筈もなく、引っ張り離した。

「何するんですか〜?」と抗議する二宮だったが桐生は無視して一ノ宮に話しかける。


「杏、話がある。中庭に行こう。」


すると一ノ宮は何も言わず、席を立った。「私も行きます〜。」と呑気な二宮はそう言うが、一ノ宮が「来るな。」と冷たくあしらった。二人が教室を出るとポツンと突っ立っている残された二宮は小さく舌打ちをした。



中庭に着いてベンチに座る一ノ宮と桐生。聞きたいことは沢山あった。しかし、それを自分から聞いていいものなのか、桐生は悩んでいた。

すると、暫くの沈黙の後、一ノ宮から口を開いた。


「私、家出中なの。」

「それは昨日、二宮も言っていた。…その、両親は心配してないのか…?それとも、」


これ以上は言えなかった。一ノ宮の家庭の問題に自分が踏み込んでいいのか、分からなかったから。でも、友達なのだから、好きなのだから心配でしょうがないのだ。

一ノ宮の口から出た答えは予想は遥かに超えていた。


「…両親はいないの。」

「……病気か?」

「…違う、


私が殺したの。」


その瞬間、桐生は目を見開いた。時が止まった。

…杏がそんなことを…いや、ありえない。何かあった筈だ…と考えているそんな桐生の様子を見た一ノ宮は複雑そうな表情して俯いた。


「…そうだよね、そういう反応になるよね。」

「……理由を言ってくれるか…?」


すると思い出して辛いのか、一ノ宮はポロポロと涙を流し始めた。

「杏ちゃん、みーっけ!」と後ろから突然二宮が一ノ宮を抱きしめる。するとすぐに一ノ宮が泣いていることに気づいた。


「杏ちゃん、泣いてるんですか〜?」

「二宮、空気を読め。」

「それはこっちの台詞です〜。」

「?」


するとヨシヨシと二宮は一ノ宮を抱きしめたまま頭を撫でる。

すると、いつものふんわりとした雰囲気と違って目を光らせて桐生を睨んだ。


「私達の世界に土足で入ろうなんて、なんてお馬鹿さんなんでしょう。」

「…わ、私は杏のことが知りたくて……。」

「世の中知らない方がいいことの方が多いんですよ。」


だから、私達の邪魔しないで、と二宮は言い放った。

…杏の世界…?私は聞いたことがない。そんな機会どこにもなかったから…いや、違う、桐生が一方的に好きで仕方なくて一ノ宮のことを何も考えいなかったんだ。


「杏ちゃんが一番辛い時にいなかったくせに、杏ちゃんに近づかないで下さいね〜。」


すると「……飛鳥。」と俯いて泣いていた一ノ宮は二宮の名前を呼んだ。二宮は笑顔で「はいはい、なんですか〜?」と言い終わる前に一ノ宮がパシンと二宮の右頬を叩いた。

突然の展開で固まった二宮に一ノ宮はキッと睨む。


「私の大切な友達になんてこと言うの。謝れ。」


しかし、二宮は状況を飲み込めていないのか、「あ、杏ちゃん…?」と混乱していた。


「ど、どうしてそんなことするの…?そいつには関係ない話じゃない…。杏ちゃんが辛い時一緒にいたのは私だけだよ…?」

「だから何。そんなの昔の話だよ。私が今、大切にしたいのは郁ちゃんなんだから。」


二宮は「…酷い。」と呟いて中庭を駆け足で去った。それを見ていた桐生は心配そうに一ノ宮に「…大丈夫なのか?」と聞いた。


「…大丈夫だよ。私、家出中だし。帰ったところで誰もいないし。」

「…。」

「実家にいるのが嫌になって家出したの。だって両親を殺させるようなところだよ。だから、母方の祖父母の家に家出して、近くの学校探して全寮制なら見つからないと思ったけど、見つかっちゃったね…。」

「……じゃあ、もう実家に帰るのか?」

「絶対嫌だよ!私ここにいたい…!」


「絶対に嫌だ…!」と震えながら一ノ宮は訴える。

なら、あの二宮は一ノ宮にとって害でしかない。早く諦めてもらわないと…一ノ宮が弱ってしまう、と桐生は思っていた、が、そんな彼女もいいな、と思っている桐生もいた。弱っていけば彼女から桐生に近づいてくれる。

なんて甘美なことでしょう。

そんなこと言える訳も無く桐生は優しく一ノ宮を抱きしめた。


「…郁ちゃん、」

「なんだい?」

「今夜私の部屋来れる?」


そして、桐生は勿論と言った。





「雫ー!雫ー!」


「はいはい、どうしました?」ととある日の朝、和風な家の襖から出てきた黒髪ロングのその長い髪を揺らしながら女はにこやかに微笑んで幼い一ノ宮のところへ駆け寄った。

大きな和風な豪邸を囲むように高い塀があり、正門には年季の入った古い大きな扉が少し空いていた。


「ねえ、なんで毎朝、私くらいの子達が赤いバック背負ってどこに行くの?」


その言葉に雫は気まずそうに答えられなかった。

当時の幼い一ノ宮は学校に行ったことがなかった。友達という友達もおらず、遊び相手は雫のみ。

雫は話しを変えようとにっこりと微笑み、扉を閉めた。


「杏様、お絵かきでもしましょう。」

「うん!」


一ノ宮杏はそんな閉鎖的空間で育てられていた。しかし、雫がいたから外の世界には然程興味がなかった。

雫がいたから幸せだったのだ。


ーーあの日が来るまでは。

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