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猫被り娘はヤンデレ彼女を攻略できるのか  作者: ゆる
影のあるカノジョ
22/25

家出

「雫ー!ボール遊びしよー!」

「はい、杏様。」


すると幼い一ノ宮はぷくうと頬を膨らませた。


「だから!様はいらないんだってばー!」

「ですが、杏様は…。」

「様はいらないのー!」


プリプリと怒る一ノ宮に雫呼ばれた黒髪ロングの女は困ったように眉を下げた。


「では約束しましょう。」

「やくそく?」

「様を無しにすることは立場上出来ませんが、私は…



ジリリリリリッ!!と、携帯の目覚ましが鳴り響く。一ノ宮はうーんと背伸びして起きるとボソリと呟いた。


「……雫…。」


と窓から見える空を眺めた。



「おはよう、杏。」

「おはよー、郁ちゃん。」


と毎日恒例になっている登校で、桐生は幸せそうな笑顔で一ノ宮に挨拶した。その表情を見て嬉しそうに言った。


「郁ちゃん、変わったね。」

「そうか?」

「うん!とっても素敵な笑顔だなあって!」


すると桐生は、そう真っ直ぐに言われるとなんだか恥ずかしいな…と照れて頬をかいた。


「すみません〜、人を探してるんです〜。」

とふと聞いた声に一ノ宮はサッと桐生の後ろに隠れた。


「どうしたんだい?杏。」

「い、いいから郁ちゃん、私を隠しながら歩いて。」


何故かぎこちない杏に疑問を浮かべながらも桐生は杏を隠しながら歩く。すると、「あの〜、」と学院の制服を着ていない、黄色のワンピースに栗色のウェーブに二本の触覚が特徴的な同い年くらいの女子が桐生に話しかけた。思わずビクゥッとビビる一ノ宮は後ろで桐生の制服を掴んだ。


「人を探してるんです〜。困ってるんです、助けて下さい〜。」

「…悪いが、ここは学院の敷地内だ。部外者は立ち入り禁止だ。」

「え〜でも〜…飛鳥、あの人を見つけないと帰れないんです〜。」

「……そんなこと言われてもな…。」


困ったな…と桐生が思っていると、くいくいっと一ノ宮が制服を引っ張る。そして小声で「早く、早く行こ郁ちゃん、無視していいから。」と言うので桐生は彼女と一ノ宮は何か関係しているのではないかと思った。

…つまり、目の前にいる女子が探していのは杏…?と関連づける。

すると、「ピーン!!飛鳥のレーダーに反応あり!!」といきなり叫び、桐生の後ろに回り隠れていた一ノ宮を見つけると抱きついた。


「杏ちゃん〜!会いたかったんですよ〜!」

「ぎゃー!!さ、触るなー!!」


と青ざめて嫌がる一ノ宮は桐生に涙目で「た、助け…!」と手を伸ばした。桐生は自分の好きな人が他人に抱きしめられているのが許せなくてその手を掴み引っ張った。二人に引っ張られている一ノ宮の身体は半分に割れてしまいそうだった。


「ぎゃー!いたーい!」

「杏ちゃん会いたかったです〜!どうして隠れてたんですか〜?」

「どこの誰だか知らないが、杏に気安く触らないでくれるか?」


しかし、その女子は一ノ宮に会えた事がとても嬉しいのか桐生の話を全く聞いていない。

「会長、何してんの?」と救世主が現れた…と思ったら腰に月雪を引きずっていた。お前もどうした。


「この他校生から杏を取り戻したいんだ。」

「ほいほい、成る程。ねー、ちょっとそこの君、杏と仲良いみたいだけど誰?」


するとその子はハッとして一ノ宮を離した。

「飛鳥のドジっ子です〜。」と我に帰ったらしい。


「初めまして〜、二宮飛鳥といいます〜。杏ちゃんとは小さい頃からのお友達なんですよ〜。」


ゆっくりとしたほわ〜んとした花が咲くような雰囲気で、特に問題は無さそうだが、一ノ宮は桐生から離れず、冷や汗を流しながら警戒していた。


「……何の為に私を探してたの。」

「勿論〜、一ノ宮家に帰ってくる為ですよ〜。」


「さあ、一緒に帰りましょ〜。」と二宮は手を差し伸べるが、一ノ宮は拒否した。するとしくしくと泣き始める二宮に一ノ宮は「私、帰る気ない。」と言い放った。

話が読み込めない桐生、信楽、月雪は頭の上にハテナマークを浮かべていた。…どういうことだろうか。

その様子を見た二宮は「あれ〜、知らないんですか〜??」と口を開いた。


「杏ちゃんは今家出中なんですよ〜?」

「「「!?」」」

「私達、ずっと杏ちゃんのこと探しててやっと見つけました〜。皆、心配してますよ〜?帰りましょ〜?」


笑顔な二宮とは正反対で一ノ宮はキッと二宮を睨んだ。


「……私、帰らない。」


すると桐生が一ノ宮を庇うように立つと二宮はきょとんとした。


「何があったか知らないが、杏が嫌がっている以上無理矢理家に戻すことは出来ない。」


「郁ちゃん…。」と一ノ宮は呟く。すると、二宮は困ったように眉を下げて「ええ〜、それは困ります〜。」と言った。


「これ以上、家出続けていると大変なことになっちゃうんですよ〜??」

「大変なこと?」

「そうです〜、例えば〜、毎日のお菓子が無しになっちゃったり、野良猫ちゃんに引っ掻かれたり!それはそれはとても辛いんですよ〜。」

「……。」


こいつ馬鹿だ…と桐生は思った。相手にするのが面倒だ、と一ノ宮の手を繋いで二宮に言った。


「悪いが、今は登校中なんだ。また今度…いや、杏が嫌がっている。もうここには来ないで欲しい。」


その言葉に二宮は目を見開いた。そして、俯き、拳を作りプルプルと震えた。言い過ぎたか、と桐生が訂正しようとした時、パッと二宮は笑顔で顔を上げた。


「分かりました〜!私も学院に転校することにします〜! 」


「そしたら、毎日杏ちゃんと会えますよね〜?」…ここまで話が通じないか…。

ちらりと桐生は一ノ宮を盗み見ると青ざめていた。

……そんなに家に帰るのが嫌なのか。

桐生は思わず昔のトラウマを思い出す。「帰りたくなければ帰らなくてもいい。ここが杏の帰る家なのだから。」と伝えると一ノ宮は安心したように微笑んだ。


「さあ、杏、行こう。」

「……うん。」


そんな一ノ宮を知らずか二宮は笑顔で「じゃあ、また明日です〜!」と学院から出て行った。





そして、次の日。


「今日から皆と勉強することになった「二宮飛鳥です〜!よろしくお願いします〜!」…皆、仲良くしてあげてね。」


「杏ちゃーん、同じクラスですねえ〜!」と手を振りながら叫ぶ二宮に一ノ宮は手で顔を覆ってどんよりしていた。


最悪の日が始まりそうだ…。

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