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猫被り娘はヤンデレ彼女を攻略できるのか  作者: ゆる
笑顔なカノジョ
20/25

告白

一ノ宮は桐生の話を聞き終わると優しく微笑んで桐生を抱きしめた。


「…辛かったね。」


一ノ宮にはそれしか言えなかった。それほどまでに桐生の過去は凄まじかったのだから。話しながら泣いてしまった桐生は泣く止むことなく鼻を鳴らしていた。


「でも、もう大丈夫だよ。私がいるから。ずっと。」


つい告白のような事を言ってしまった一ノ宮だが、桐生は気にする筈もなく安心したように肩の荷を降ろして一ノ宮に抱きついた。


「ありがとう、話を聞いてくれて。少しだけだけど、気が楽になったよ。」


強く、それでもって優しく抱きしめる二人は目線を合わせ、桐生は一ノ宮の頬に手を添える。

そして、二人は顔を近づけてーー


「わっ!ご、ごめん!」

「う、ううん、こっちこそ。」


思わずキスしそうになった…!と桐生はバクバクと鳴る心臓の位置にある服を掴んだ。

…私は空気に流されて何をしようとしてるんだ……!付き合ってもないのに…!そう考えているのは一ノ宮も同じだった。


「い、郁ちゃん、そろそろ寝ないと明日起きれないよ?今日、ドラマの撮影あったんでしょ?」


もう11時だよ、と一ノ宮は言う。桐生は一ノ宮におやすみを言って部屋から出ようとすると立ち止まった。


「…今週末空いてるかい?」

「今週末…?特に予定はないけど…どうしたの?」

「父さんの墓参りに一緒に行って欲しいんだ。」


すると一ノ宮はにっこりと微笑み「いいよ。」と承諾した。





そして当日、桐生と一ノ宮は手を繋いで桐生の父親の墓参りにやってきた。

…父さんが死んで何年目だろうか。

父さん、私の大切な友達の杏を連れてきたよ。……可愛いだろう…?いつも笑顔で眩しいくらい好きなんだ。いつか本当に付き合える日がくるといいな。父さんも空の上から私達を見ていて欲しい…と、桐生は手を合わせ父親に報告する。そして、立ち上がると一ノ宮は口を開いた。


「ねえ、郁ちゃん。」

「なんだい?」

「郁ちゃんはお父さんになんて言ったの?」

「え、ええと、それは、」

「知りたいなー??」

「ひ、秘密だ。」

「えー。」


「そう言う杏はなんて言ったんだ?」と聞き返すと杏は勿論といった表情で、言った。


「郁ちゃんの大切な友達って言ったよ!」


その言葉にふふと微笑む桐生はその友達がいつか恋人になるのを密かに願っていた。

桐生は帰ろうか、と一ノ宮に言おうとすると「郁…?」と聞き慣れた声がした方を振り向くと一人の女性が立っていた。


「…か、母さん…。」


そう、声の主は桐生の母親。桐生は気まずそうに目線を逸らすとパン!と頬を叩かれた。突然の展開に桐生と一ノ宮は目を見開いた。


「なんでアンタがここにいるのよ!!」

「と、父さんのは、墓参りに…。」

「アンタの顔なんて見たくない!!とっととどっか行きな!!」


桐生の母親の剣幕に桐生は何も言わず、一ノ宮の手を繋ぎ、母親に背を向けて歩きだした。

あの日から、父親が亡くなってから何も変わっていない母親に桐生は何の感情も持たなかった。ただ久しぶりに会ってほんの少しだけ期待していた。

……父親が亡くなる前のあの幸せな、優しい母親に戻っていることを。

しかし、何も、何一つ変わっていなかった。

もう会うことはないだろう、と桐生は傷ついていた。


その時、桐生の頬に生暖かい何か伝う。それを見た一ノ宮は「……郁ちゃん。」と心配そうに呟いた。涙だと気づき、服の袖で拭うと桐生は無理矢理笑顔を作って言った。


「嫌なところを見せてしまったね。すまない。」

「…それは大丈夫なんだけど、郁ちゃんこそ大丈夫…?」


「ああ、大丈夫さ。」と微笑む桐生に一ノ宮は早く寮に帰ろうかと提案する。


「…あれ、この後カフェでランチするんじゃなかったっけ。」


と桐生は言うが「頬、冷やした方がいいよ、女優さんなんだから。」と一ノ宮は言った。


寮に着いて桐生は一ノ宮に叩かれて赤くなった頬に湿布を貼ってもらう。


「…どうかな?やっぱり保健室の先生呼んだ方が…。」

「いやこれで十分だ、ありがとう、杏。」


心なしか桐生の表情が暗いことを一ノ宮は気づいていた。しかし、桐生の空元気でそれに触れることはできなかった。


「郁ちゃん、私、部屋に戻った方がいい?」


これは一人でいた方が色々と整理するのに楽だと思った、そんな一ノ宮の気配りだった。しかし、桐生は首を横に振って「一緒にいて欲しい。」と言った。


「私は杏がいてくれるだけで安心するよ。」

「そっか。嬉しいな。」


と一ノ宮はベットに座る桐生の隣に座る。すると一ノ宮の腰に桐生は手を回し距離を詰める。


「い、郁ちゃん?」

「…杏は本当のキスしたことあるかい?」

「な、なんでいきなりそんな話しを…、」

「いいから答えて。…最初の頃、私に言ったよね?

私なら郁ちゃんにキスだって何だって出来るよって。

…あれは嘘なのかい?」


えーとそれはー…と目を泳がせる一ノ宮は日本出身で日本で育ち、チークキスなんて本当は両親がやっていたのを真似ただけだった。

そして、桐生や柳に無理矢理キスをされたこともある。あれは本当のキスではない。

つまり、きちんと愛を確かめ合って、付き合ってからの本当のキスを一ノ宮はしたことがない。


「私は杏のこと心が痛くなるくらい好きだよ。」

「……うん。知ってる。」

「なのに何故杏は告白をスルーし続けるんだい?」


と桐生は困ったように眉を下げて一ノ宮の頬に手を添える。

桐生は先程のことで、愛情に飢えていた。だからこそ、ここで一ノ宮と付き合って幸せになりたかった。


「お願いだ、杏。告白の返事をーー」

「じゃじゃーん!皆大好き信楽莉子ちゃんのご登場でーす!!」

「「………。」」


とやってきたのは両手いっぱいにお菓子を持ってきた信楽と…「信楽せんぱーい!私も入れてくださーい!」とくっついてきた月雪だ。

信楽は今の二人の状況を見て「あ、ヤバイ時に入ってきちゃった?」と反省ゼロだった。

すると桐生は一ノ宮から離れはあと溜息をついて、信楽と月雪を追い出し、ドアを閉めようとする。


「ちょちょちょ、会長つめたーい!いーじゃん!暇なんだもん!」

「なら月雪と遊んでろ。」

「そうですよー!ランデブーしましょー!」

「やだー!やだやだやだー!杏もなんか言ってよー!」


と一ノ宮に振る信楽にうーん、と腕を組み考える彼女はピコーンと何か閃いたようだった。


「明日学校終わったら皆でお出かけしようよ!」

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