友愛と残酷
去年まで信楽は所謂不良だった。授業には真面目に参加せず、いつも屋上でお菓子を食べながらサボっていた。
信楽には鏑木という一ノ宮の性格によく似ていて裏表がある、そんな友達がいた。
信楽は鏑木を大切な友達だと思っていた。
ある日のこと、その性格のせいで鏑木が虐められていたことを知った信楽はいじめっ子のボスを放課後、校舎裏に呼び出して取っ組み合いの喧嘩になった。
そして、信楽は相手の目玉を抉りとった。
その瞬間、痛みからいじめっ子の目から赤い血が流れ始めた。その様子を見た信楽は恐ることなく、寧ろ笑っていた。
今まで虐めていた子のその痛みが分かったか、と。
その後、いじめっ子は病院生活になり、学院を退学した。
「鏑木!一緒にかーえろ!」
いつも通り、信楽は鏑木に話しかけたが、鏑木は信楽を見るなりガタガタと震えだした。
「ど、どうしたの?」
すると鏑木の口から予想だにしない言葉が出てきた。
「……信楽、ご、ごめんなさい…。」
「え、なんで謝るの?」
「私を虐めてた子を退学させたのって、し、信楽だよね…?」
いつの間にそんなこと知ったの、と信楽は目を見開いたが、すぐににっこりと微笑んだ。
「そうだよ?これから鏑木が虐められないように私が始末したの。」
それがどうかしたの?と信楽は問うと、更に鏑木はガタガタと体を震わせた。
「……あの人、目抉り取られてたんだって。」
その言葉に信楽は鏑木の言葉の意味が分からなかった。
友達を守る為にやったことだ。
相手が反抗してきたからやり返しただけだ。
私、何か悪いことした?と信楽は首を傾げた。
「こ、怖い…。」
怖い?何が?と言うと、
「し、信楽が…」
その瞬間、信楽の中で何かが壊れた。何故?どうして?と疑問が浮かぶ。怖がる必要なんてないよ?だって私達友達じゃないか。え、違ったの?いや違う筈がない。この友情は本物だ。
しかし、鏑木は言った。
「…ご、ごめん…!……私、もう耐えられない…!」
そして鏑木が学院に来ることはなくなった。そこで初めて信楽は自分がどれだけ残酷で最悪なことをしたのかを思い知らされた。
信楽は涙が止まらなかった。どうして、どうしてあんなことをしたんだろう、と。
友達を守りたかっただけなのに。
なのに、その友達は私を恐れ離れてしまった。
なんて馬鹿なことでしょう。
次、大切なものが見つかったら、絶対あんなことはしないと誓った。嫌われてしまう。怖がられてしまう。
信楽は友達が離れるのを恐れ、一人でいることを選んだ。
そんなある日、高3になって一人でポツンと椅子に座っていた信楽には、大切のものがなくつまらない日々を過ごしいた。
そして、転校してきた一ノ宮の作った笑顔を見た時、面白いと思った。
ーー鏑木に似ている。
そして、信楽は一ノ宮の友達になることに成功したのだ。
絶対、この子を大切にする。何が何でも。
でも嫌われないように、離れないように、慎重に…と信楽は思う。
「杏、一緒に帰ろ!」
「うん!あ、郁ちゃんも一緒に帰ろう!」
と一ノ宮は桐生の腕を掴み腕を組む。一ノ宮は幸せそうだった。
「莉子、莉子も手を繋ごう?」
そして、信楽は一ノ宮の手を握った。
一ノ宮を傷つけるやつは絶対に許さない。
もし傷つけさえすれば信楽は再びあの時と同じ事をするだろう。
「杏。」
「ん?なあに、莉子。」
一ノ宮は信楽の大切な友達。宝石のように煌めく君の存在は信楽の心の支えだ。
「あー!もー、桐生先輩に近づかないで下さい!」
だから、一ノ宮を守らないと。
一ノ宮の夢は信楽の夢。
一ノ宮が桐生と付き合うことが信楽の最大の願い。
「月雪、高3と高1だと階が違うでしょ。そもそも校舎違うし。」
と信楽が月雪を退かそうとしても無視される。まあ、無視されるのは構わないけど、今朝みたいに一ノ宮に何かして、反省ゼロだったら…。
もし一ノ宮に何かしてしまったら…。
信楽が神様の代わりにお前を罰してくれよう。
一ノ宮と月雪の間に火花が飛ぶ。その様子を見ていた桐生は宥めようするが効果は無し。私は冷たい目で月雪を見る。そんな信楽は盗み見た桐生は冷や汗流しながら月雪に言った。
「つ、月雪、信楽の言葉無視するな。」
すると月雪は怪訝そうな表情をして言った。
「その人、桐生先輩の何なんですか?」
「ゆ、友人だ。…分かったなら、ちゃんと返事するんだ。」
「…桐生先輩がそう言うなら……。」
と桐生に抱きついていた月雪は離れ、一ノ宮はというと未だ桐生に抱きついたまま。
そう、それでいい。
もう勝敗は決まっているのだから、お前が入る隙なんてないのだから、と月雪を睨む信楽。
一ノ宮の幸せは信楽の幸せ。
邪魔をしたら許さない、と心の中で何度も何度も誓った。