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猫被り娘はヤンデレ彼女を攻略できるのか  作者: ゆる
純真なカノジョ
11/25

友達から

その日の夜、柳の部屋から帰ってきた桐生は再び一ノ宮の部屋に訪れた。


「杏の調子はどうだ?信楽。」

「あ、会長。全然ダメだねー。薬飲んだのに。ずっと唸ってばかり。学校では元気だったのに。あ、寮母さんは保健室の先生呼びにいったよ。」

「……そうか。」


信楽は一ノ宮の頭を撫でる。


少し前の話、廊下で桐生が一ノ宮に会った時彼女はフラフラと歩いていて思わず「……杏、大丈夫か?」と話しかけてしまった。

…こんな女、放っておけばよかったのにと思っていたが、流石にフラフラしているクラスメイトを放っておくことは良心に反するので出来なかった。

すると、一ノ宮はコテンと体を桐生にもたれかけた時、思わず顔が熱くなるのが自分でも分かった。もう関係ない筈なのに。

桐生は一ノ宮の額に手を当てると酷い熱だった。


「杏、酷い熱じゃないか、部屋に戻ろう。」

「……だ、れ…?」


一ノ宮の意識は朦朧としていて、桐生が誰だかも分からなかった。そんな一ノ宮の抱き抱え、桐生は部屋に戻ろうとしたが、力なく一ノ宮は離れようとする。


「…約束……守らないと…、」

「約束?」

「……葵ちゃんの、部屋行かないと……。」


その瞬間、意識を失った一ノ宮に桐生は不味いと思い急いで、一ノ宮を彼女の部屋のベッドに寝かせて寮母と信楽を呼んだ。


看病していた信楽は口を開いて言った。


「ねえ、会長。私ね、杏のこと凄く大切な友達だと思ってるの。」

「……。」

「だからさ、なんていうか、杏の気持ち何となく分かるんだ。杏はさ、」


と信楽は言いかけた時、「……う、ん…。」と一ノ宮の意識が戻った。しかし、それはうなされていただけだった。

「杏…?」と信楽は額にあったタオルを水で絞って再び額に当てた。


「…………郁ちゃん、ごめんね…。」


そして、一ノ宮の閉じられている瞳から涙が溢れでた。その言葉に桐生は何も答える筈もなく、ただ複雑そうな表情をして一ノ宮を見ていた。


「勿論、杏はいけないことをしたと思う。でもね、柳さんと一緒にいる杏を見てると心の底で笑ってないんだよね。」

「……。」

「あ、別に杏とまた付き合えって言ってる訳じゃないよ?私も杏が会長のこと好きって聞いてないし。

でもさ、二人を見てるとまた仲良くしたいんじゃないかって思うの。」


これ、私の勘ね、と信楽はウィンクする。

その言葉に桐生は何も答えなかった。何故なら、何故自分はここにいるのだろう、信楽に後は全て任せておけばいいのにと思っていたからだ。

だけど…と一ノ宮に近づく桐生に「会長…?」と信楽は呟く。桐生は涙を流しながら言った。


「……杏、私もすまなかった。私には杏が必要みたいだ…。」


例えあの笑顔が嘘だとしても、例えあの温もりが嘘だとしても…桐生には充分過ぎる程の愛だった。なのに、桐生は彼女を無視し続けた。

…なんて…なんて、私は愚かなのだろう。こんなに好きなのに、自分に嫌いだと嘘をついていた。

桐生は一ノ宮のこと改めて好きだと思い知らされた。


「…杏…杏、目を覚ましてくれ、私が悪かった。だから…、」


もう一度あの笑顔で私の側にいて欲しい、と桐生は一ノ宮の左手を強く握った。


「…………郁、ちゃん…?」


漸く目を覚ました一ノ宮は泣いている桐生を見て目を丸めた。ふと、安心する桐生は肩の荷を降ろした。


「ど、どうしたの?なんで泣いてるの?」

「…何でもないさ。杏、どこか痛いところはないか?」

「少し喉痛いだけ…でも、もう大丈夫だよ。」


と、一ノ宮はにっこりと微笑んだ。

「邪魔者は退散しまーす。」と信楽は部屋を出た。その言葉の意味が分かった桐生はボッと顔を赤くしてあわあわと握っていた一ノ宮の左手を離した。


「…信楽がずっと看病してくれていたんだよ。」

「そっか、後でお礼言わないと…」


すると、一ノ宮はバッと上体を起こした。

そうだ…!約束、約束を守らないと…!


「葵ちゃんの部屋行かなきゃ…!」


その瞬間、まだ風邪が完治していない一ノ宮はふらりとして桐生は彼女を支えた。

その言葉に桐生は「柳には来れないと私が伝えておいたよ。」と言うと「…でも、」と一ノ宮は呟いた。


「それより杏は風邪を治すことに集中した方がいい。ゆっくり休んでいろ。」

「う、うん。」


とポスンとベッドに再び寝かせる桐生は思っていた。

あの壁一面に貼られた一ノ宮の写真。

そういえば、少し前に杏は誰か見られている、と言っていた。もしかして柳のことか…?と勘付く桐生。


「……郁ちゃんが、普通に話しかけてくれて私、嬉しい。」


と布団で頬を隠す一ノ宮に桐生は目を逸らしてボリボリと髪を掻きむしった。


「もう無視はしないよ。すまない…。」

「ううん、謝らないで。悪いのは私だから。」


「だからさ、私が言っちゃなんだけど」と一ノ宮は続けた。


「……もう一度、友達からやり直してもらって…いいかな。」


その言葉に桐生はふっと微笑み、一ノ宮の頬に張り付いていた髪を払い言った。


「それはこちらの台詞だ。杏。」


すると一ノ宮は一滴の涙を流し微笑んだ。

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