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18話 ファンタジー

「さぁ、戦闘開始」


 私が高らかに宣言する。でも灯と輝夜……今は【ハニーランプ】と【ネイベルナイト】か。2人はあんまり乗り気ではなさそう。


「……どうしたの?」


「いや、戦闘開始はいいけど、街中じゃん。色々壊しちゃうよ?」


「そうですよ。もっと大切にしないと」


 私の質問にちゃんと答えてくれた2人。そうか……街を壊すのが後ろめたいのか。


「……大丈夫。魔導国では戦闘は日常茶飯事だったから建物一つ一つに防壁魔法がかけられている。ちょっとやそっとで壊れるようなものじゃない」


「「な、なるほど……」」


 納得半分、呆れ半分といったところか。人間たちの感覚ではずっと魔力戦闘が行われていることはイメージしにくい……のだろう。きっと。


「心配事はそれだけ? なら始める」


「よーっし、絶対勝つよ! ブラッディ! 輝夜ちゃん……いや、ナイト!」


「負けませんよ、灯……いや、ランプ!」


 ……なんか知らないところでエモい空気を出し始めている2人。ぐぬぬ……人間という種族でも共通していて、魔法少女という変身体ですら共通するなんて。なんかズルい。


「・・・『(エスパーダ)』」


 灯と輝夜は魔法少女の体になっている。だから傷つけても魔力体が傷つくだけで本体が傷つくわけではない……はず。私は本体が傷つくけど。

 血色の剣を握る力を強める。【バフォメット】を屠れるだけの力があるのなら私だって危ない。


「行くよ! [女王蜂]」


 灯が杖を召喚した。問題なく魔法が使えているみたい。よかった。


「くぅ〜! これこれぇ!」


 何かに興奮している灯。それは輝夜も同じことのようで槍を持ちながら目をキラキラとさせている。

 ……ついこの間まで魔法少女をやっていたくせにもう懐かしがるなんて……。私には理解できない感性かもしれない。


「……あれ? なんかおかしくない?」


「どうしました? ランプ」


 もうランプ×ナイト呼びが定着してる……。


「HPは表示されてるけどMPの表示はないよ?」


「ぁ……本当ですね」


 表示? 魔法少女の体になると何かゲームのようなステータスバーが見えるってこと? だとしたらかなり便利。私たちにはそんなもの見れないし。


「たぶん魔力は私があげた分を使い切ったら終わりだと思う。人間が生産できる魔力量なんてたかが知れてるから、いつもよりずっと多く魔法を撃てると思う」


「本当? なら俄然私たちの方が有利だね、ナイト」


「そうですね。いつもMP不足との戦いでしたから」


 そうなんだ……そんなハンデがあっても私は2人に負けているのか。なんだか恥ずかしくなってきた。


 さぁ懐かしがるのもそろそろ終わりだと灯と輝夜が少し距離を置き始めた。戦うとなるとそれなりのプライドがあるのだろう。なんだか私の出番を増やすために始めた企画なのに、ガチバトルが始まる予感がしてならない。


「さぁて、また勝っちゃおうかな〜」


「最後に負けたのを挽回できる機会を得られるなんて……嬉しい限りですよ、ランプ」


 今の言葉でなんとなく2人の間に何があったのかが伝わってくる。魔法少女として、2人はちゃんと乗り越えてきたようだ。


 ……今気がついたけど、私の疎外感が半端じゃない。灯と輝夜はお互い向かい合って戦いますよオーラを出しているけど、私は? 私のおかげで戦えているんだよ? ……敬意が足りない。出番も足りないというのに、敬意も足りないだなんて。私は一体どうすればいいのか。


「・・・先制攻撃。はあっ!」


 とりあえず『(エスパーダ)』で襲いかかってみることにした。そうでもしないとずっとこの2人の思い出話を聞いて終わりそうな気がするし。私はあくまで自分の出番を増やすために今日ここに2人を連れてきた。余計なことに気をとらせはしない。


「やる気満々だね、ブラッディ。『ハニーシールド』」


「なっ!?」


 蜂蜜の盾!? 知らない魔法だ……。でも斬り裂く!


「やあっ!」


 血色の剣で蜂蜜の盾を斬り裂こう……と思ったのに剣が通らない。蜂蜜の粘性で剣がホールドされてしまった。


「くっ!」


 なんとか剣を抜いて態勢を立て直す。なるほど……私が知っている2人より強くなっている。それも格段に。


「……わかった。全力でやろう。2人とも」


 出番を増やそうなんて下心で動いてみたらとんだことになってしまった。……でも、ちょっとだけ楽しい……かも。

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