正義ノ約束 (後編)
「俺を助けろ」
私はその言葉に素直に驚いていた。この人は、他人の力を借りる人じゃない。というか、自分自ら欲望や要求をする人じゃない。そう思っていた。しかし、今現在「助けろ」なんで言う言葉が繰り出た。
私は思っている以上に事が急を要してるのかと思って、焦った。
「つまり、私に何をするのが要求で?」
そんなの分かり切ってる。
「裏方から情報収集を頼む。俺からの行動は臨めなさそうだしな」
そうだろうな、と私は目を瞑って小さく頷いた。
「……なるほど、はい」
そう言うと、ゲイヴは言葉を詰まらせた。交渉拒否の手段を含みを承知した上で話を進めているのだろう。そして交渉拒否は彼自身かなりの大きな負の分岐に分かれると思ってるのか。そう思うと私は少し可笑しくなって、すっと笑う。
ゲイヴさんのこんな顔を見れるなんて、今日はいい日だ。
「ですが、私側も行動難しいですよ。私も慎重に行動するとなると、ゲイヴさんとの接触もできなくなりますね」
情報交換中に私と接しているのがバレるなんてヘマで失敗するのは、何としてでも避けたい。物事は序盤で大失敗すると収拾がつかないことが多い。こういう大事な場面では、慎重に行くのがセオリーだろう。
「だよなぁ……そうなるよなぁ……」
それらを汲み取り、ゲイヴが同情すると、間が少し空く。
「ま、そこはお前が何とかしろ。こう言う状況はアカメの得意分野だろ」
あらあら、流石ですね。よくわかってらっしゃること。
そう、私はこの依頼にワクワクしている。正直この難度のスパイは記憶にも、恐らくあの日以来だろうか。久しい記憶が反芻し、胸が高鳴る。
しかし、その興奮を抑えて言う。
「さぁ、どうでしょうね」
しかし、私は悪戯にかつ曖昧に返した。
「まぁ、そこら辺はよろしくな。こう見えても俺はお前を信頼しているんだ」
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あのゲイヴさんとの交わしを受諾して以来、私は、情報を得るために、スパイやハックなど合法、非合法に関わらず様々な手段で調べた。
そしてやはり、深く探れば探るほど占拠派の奴らは、私の思ってた以上にゲイヴさんを追い出したいという顔が全面的に出てくる。
しかし、具体的手段や時期まで知ることはできず、あまり派手な潜入はリスクが大きすぎるため、出来なかった為に、なかなか核心に迫る情報は出てこなかった。
そして、それが続き、ゲイヴさんとの交わしをしてあれから一ヶ月経っていた。正直この状況は厳しかった。
ここで大きな分岐があったと思う。
私はどうしようかと、悩みに悩んで、大勝負に出た。
占拠派から直接聞き出す
もうこれしかない。
これ以上は裏側からの情報収集じゃ埓が明かない。そう思った私は、奥の手の行使にかかった。その名は……
潜入調査
私の得意な魔法の一つである『変身魔法』を使えば簡単に潜入可能。畢竟、一番私らしい手段と言える。
私は人に嘘はつかない。
ただし、私は人を騙す。
つまり私の本質は、巧妙な詐欺師である。それはゲイヴも同じだろう。あの人と私はよく似ている。
だって私が嘘のつけない詐欺師になったのは、あなたのせいなんだから。
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「やぁ、君。ええっと……」
私は占拠派特有の制服を模した、六十代の古株、重鎮、豪勢、つまり見るからに大御所ぽい姿で、近くにいた若い人に軽く話しかける。
「ライ=ケェスェスです……」
「おぉ、そうだそうだったライ君。そこでなんだが例の一番隊の話なん……」
「お任せください。順調ですよ例のブツは」
やはり、何かを企んでいるな。
「おおそうかそうかぁ、なら良いんだ」
「楽しみですねーあと半月ですか」
「そうだな」
「しかし昨日正式に決まりましたね。例の件」
「何がだ?」
話が淡々と進む。私ながらここまで上手く進むとなると流石の私でも鼻が伸びる。このまま上手く引き出せるか。そんな風に興じていた矢先だった。
ライ=ケェスェスは私の耳に口元を近付かせ、囁いた。
「何がって……原爆を落とす話ですよ」
よっぽどその事に動揺したのだろう。そこからは何があったか、覚えていない。
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私は行き先もなく、ふらふらと千鳥足を催し、歩いていた。
私のお気に入りの隠れ家の前の裏路地に、気がついたら立っていた。
そしてその後に頭に反芻する、耳に染み付いた痛い声。今痛感した。ゲイヴさんが散々言ってたこの世界の残酷さを。
ここまで大きくなってるとは思わなかった。
そこまで、そこまでして……
「きつい、これはかなりきついな」
私はそう呟き、ドアの取手を触ろうとしたが、その手をピタリと止めて手を下ろし、地べたに丸くなった。
「あーぁ……は、ははっ………くっ、ふぅっ、ぁぁぁあああああ!!!」
髪を毟り、掻き混ぜ、湧き出る涙を前面に表し、叫んだ。
私は私が嫌い。何度も……幾度となくそう思った。でも他人を嫌いになったことはない。私はそうしてバランスを保って生きていた。生きて来た。
だが、今覆った。
今の私は全てを嫌いになりそうで怖い。
「助けて……」
駄目だ
「助けてよ……ゲイヴさん……」
駄目、そんなこと言ったら、弱くなっちゃう。自分に負けちゃう。
その時だった。刹那、一つの細い光が頭全体を照らす。
『まぁ、そこら辺はよろしくな。こう見えても俺はお前を信頼してるんだ』
私は何かが冴えた。
何か、そう、何かが……
そして気づく。
…………そうだ、いつもこうだ。
私が困ったら、いつもそばに居る。
刹那、全てがバカらしくなった。
「ははっ、"人質"?占拠派?ふはっ、原爆?世界の残酷さ?」
私は怒号する。
「そんなのドォでもいいだろ!!!私は受けた依頼は絶対に成功させるっ!!!何故なら、何故ならぁ─────」
「私は裏の世界で生きる、裏世界のプロだ!!!」
私の声が響く。反響する。
私、決めました。
のっしりと立ち上がり、涙を拭って、歩き出した。
ゲイヴさんの理想の世界、私は興味の『き』の字もなかった。でも今回はゲイヴさんの全面的に肩を持ちましょう。
こんな世界、沈めてあげましょう。
あとがき特設Q&Aコーナー!
この物語の登場人物たちが、あらゆる質問に答えていくコーナーである。
Q.この世界の元祖や、感情など、なんでも書いてあると言われる、アカシックレコードをあなたは手にしました。その時あなたなら、最初に探すのは何?
A.レン「うーん、そうですね、やっぱ無難にこの世界のでき方ですかね」
ゲイヴ「そんなの興味ねぇな。そんなの知ったところで何になるってんだ?」
レン「んむぅ、分かりませんよ!人生の機転になり得る事柄かもしれないですよ!」
ゲイヴ「案外こんな世界、画面に文字を入力してるだけって言う答えがオチかもな」
レン「………えっ」




