正義ノ約束 (前編)
「私、レンちゃんと同じで"人質"……なんです」
''人質"
アジンは頭を掻きながら発し、レンはその言葉に眉を潜めた。しかし、言及はしなかった。アジンの不自然な平静の装い。途中の変な言葉の詰まり方。そこから、この微妙なアジンの変調に対して咄嗟に察して、踏み込まない方がいいと判断して、敢えて言わなかったのだろう。そして、そのレンの咄嗟なこの対応は正しかった。実はアジンが"人質"だということに、コンプレックスを抱いている。だが、そんなアジンだが、彼女は嫌そうではあったが、目に見えない何かに対して、踏ん張りながら言った。言ったのだ。
俺が見ない間に、こいつはこいつで自身の変化があったのかも。
しかし、何が何であれ、レンのこういう気を使うことに冴えてる性格は正直助かる。
「えぇっと、あと、ゲイヴさん達をここに召喚したのは私です」
歯切れ悪くアジンは切り返した。
「やっぱり召喚魔術だったのですね」
レンはそう、同調した。
「でも、そんな大魔術……一人でやったの?」
レンはそう続けた。
俺は魔学に関してはちんぷんかんぷん。全く知識が無いから、詳しいことは説明できないが、魔学には大きく三つに分けられるらしい。
呪文を使う魔法
術式を使う錬成
両方を使う魔術
簡単に説明したらこんな感じだ。
正確な区分方法は違うらしいが、俺には理解できなかった。
興味がないから理解しようとも思わなかっただけなんだが……
とにかく、召喚というのは魔術に分類し、魔術は全般難しい。それを一人でやってのけた事にレンは食いついたのだ。
「あぁ、勿論私一人の力じゃできませんよ。それは……これを使ったのです」
俺は目を見開いた。
「それはっ!」
現物を見たのは初めてだ。
あの世界が、喉から手が出るほど欲しいモノ。
我々の科学力でも実態が何か分からない。青く光る結晶状の物質。
そしてこの戦争の火種の代物。
ENG
「実は、偶々見つけたのですが、これを術式に組み込むと魔力が上がるんです。これを沢山用意して召喚すればできるっていう魂胆。要するにゴリ押しです」
と、残念そうに説明する。これもあれだろう、こいつの美学に反したやり方だとか、そんな理由だろう。まあ、アジン特有の喜怒哀楽が激しい性格は嫌いじゃない。
「本当はここにあるやつだけでなく、まだまだ沢山あったんですけど、まぁ、殆ど術中に蒸発しちゃったんですよね」
と、付け加える。
「ふーん、これ、一体なんなんだろうな?」
俺はふとした疑問を、ENGを軽く投げ上げながら言った。
投げ上げてみてわかったが、頑丈にできてる割には意外と軽い。より一層これが何なのか、分からなくなった。
「さあ?そこまでは分からないです」
アジンが適当に返す。
「しかし、生で見てみると変なオーラ?みたいなのをを感じますね」
レンがそれをツンツンしながら言った。
「ふーん、そのオーラは俺には感じねぇんだが俺だけか?」
「私はちょっぴり感じますよ」
むぅ、俺だけ仲間外れか…………解せぬ。
「まぁいいや、次進めよう」
そう俺が言うと、二人は頷いた。
「では、ゲイヴさんから依頼を受けた時の話をしましょうか」
アジンはそう言い、息を吐いた。
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二ヶ月前のこと。
私は一応これでも12歳。
裏側でこそこそ隠れながら生きていくのに限界を感じていた。
……いや、もうとっくに限界なんて超えているのかもしれない。
苦しい……苦しいけど
よお、生きてるか
彼は手を振ってやって来た。
疲れのせいか、うまく聞き取れない。
ゲイヴさんは裏の情報交換は自分のためにとか言ってたけど、実際は違うと思う。だって情報交換は何より私が欲しているもの。それを知った上で、私が生き抜くためにゲイヴさんがウィンウィンの関係と称した私が生きるための手助けをしてあげているんだと思う。じゃ無いといつも情報交換は私から持ちかけることはないだろう。
そこら辺は杜撰だよね……
しかし、今回は違った。彼からの呼び出しだった。場所も指定で。
これは珍しい。何かあったのかな?とりあえず適当に返す。
「なんとか生きてます。ゲイヴさんのことを思い出す度に、死んでる場合じゃないと私に言い聞かして、幾度の危機を乗り越え、そしてそして……」
でも、まぁ、実はここだけの話、これはホントの話ね?本人には言わないけど。……言えないけど。
そうかたいへんだったな
もう、そうやって適当に返す……
俺から呼び出しといてなんだが、アカメ、早速だが話がある
とうとう来ましたね。
「なんですか?デートのお誘いですか?ざんねんながら」
最も私らしい言葉で適当に返す。
私の今の状況と心境を、バレないように……
アカメ、話がある
「……むぅ、聞いてますって、なんですか?」
もっと引き込もうと思ったのに……まぁ、ゲイヴさんも重要な要件ぽいし。一つ聞いてあげましょう。
多分もう長くない
突然の言葉に私は焦った。瞬間持病かなんかが実はあって、その余命かなんかを伝えに来たかと思ったからだ。しかし違う。そんなことをする人じゃ無い。じゃあ何だ。
あ
その時よぎった。そしてその時、私はこの疑問に対するパズルが構築したと直感した。そしてその時思う。やってくれたな、と
あぁ……全く……こう言う間接的な表現はめんどくさいですよ、ゲイヴさん
そういえばそうだった。こんな人だった。めんどくさいアイデンティティの人だった。
まぁ、人のこと言えないけどね。
「そうですか、とうとうなのですね」
事前にこうなるというのは予測できた。他人の行動を読むのには冴えてると自負してるので。
「それで、なんで私を呼んだんですか?」
それ分かってて言ってるだろ
互いにケラケラと笑いながら言った。
やはり……
「確認です。私は重要なことは確認したいので」
楽しい。この人と喋るのは楽しい。
ちょっとめんどくさいけど。
そうか、でも、もう……
これは命令じゃないから拒否権はある
そう言われると拒否したくなります
これは本心だ。でも、相手がゲイヴさんだもの。やるしか無い。これでも恩は感じてるんだよ。
それはまずいな
彼は言うと、微笑していた。
枯れ痩けているが、それ故に美しい。そんな微笑だった。
まず……
彼はそこで切って、息を吐く。
「俺を助けろ」
私は耳を疑った。
その時の彼の聲の形は、悄然として、ぼーっとしていた世界に、突然かち割って入った。
ここで一話に回帰するわけですね。
ここでもう一度、一話を読んでみるのもいいかもしれませんね。
ではばいばい!




