一途ノ正義
戦争を止めさせる。俺はそのためにここまでやって来た。この戦争を止めるのが、俺の正義である限り、揺るがないと思う。
だが、何度も挫折した。
世の中っていうのは、こんなにも上手くいかないのかと嘆いた。
いや、もうとっくにこんな非道な世の中だっていうことは、とうの昔に知っていたんだと思う。
何故なら、挫折やら人生やらの類のことだったら、俺は嫌というほど直視して来たし、理解もしているエキスパート的な存在だと思ってるからだ。
その上で、分かったことが一つ。
挫折やらを乗り越える方法は俺には結論の出せない全くの未知だ。無数にやり方はあるし、大概間違いだろう。だから人生は山あり谷ありなのだと思う。
なんだこれ、理不尽だ。
まぁ理不尽だというのはある程度正しい。
この世の住民である限りほぼ詰んでいる。無慈悲な山は絶対生きてりゃ遭遇する。
だが、俺はそれを無慈悲であって、理不尽だとは思っていない。いや、思ってはいけない。
世界が理不尽だと断定した時に人間は生きていけなくなるからだ。
しかし、この世界の理不尽さを我々は無視ばかりできない。
無慈悲な世界に認められて育てられた人間は、個人差はあるが自分を満たすため、利己的思考に陥る。そうなったら終わりだ。
そのための世界の理不尽の理解が必要なのだ。
あぁ、なんと救いようのない世界だ。
そのような思想にふけっていた矢先だった。
違ったのだ。
レン達は違ったのだ。
純粋無垢、この世界に囚われていない一途な眼差し。曇らない笑顔。
そうか、それに気づけばいい。
俺らは弱い
人間は上下関係が強い種族。故に盲点。
それからの俺の物差しは折れにくい、立派なモノになった。
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俺は驚いた。まさか、こんなことになるなんて。
今、目の前で起こったことに俺の頭は正直パンクしていた。
落ちた。原爆が。
何故?
どうしてそんなモノを持っている?
占拠派か?
いや、しかしどうしてそこまで……いや、違う。
今はそうじゃない
俺は目の前にいる少女一人にむかって、怒号する。
「どうして、どうやって……何でここにいるんだよ、アカメぇ!!!」
「あ、ゲイヴさんが叫んだぁ!」
そう、目の前にはアカメが立っていた。
そしてアカメともう一人の少女、癖毛が特徴な透き通った白髪の、ぱっちりとした無垢な少女。
「え、何が起こったです?ここ、どこですか?あと、その子は誰ですか?」
レンも居た。
俺らは今、森の奥に佇んでいる、綺麗だが家具も何もない質素な木造家にいた。そして小鳥が囀り、恐らく近くに川があるだろうか、水の流れの音が通る。
「あぁ、そうか、お前は初めてか。こいつはアカメだ」
「いや、もうその名前はもういいです。もう追われることは無いので本名でお願いしますね」
アカメは世界から追われている身だから普段は実名を明かせない。そこで決めた目が赤いからという理由で付けた偽名アカメであることを俺はすっかり忘れていた。
思わず頭を掻く。たしかこいつの本名は……
「私はアジン。アジン・アニセンティニス」
「レンです。その……よろしくお願いします」
よそよそしく答える。かわいい。
「噂は聞いてるよー、しかし、よくこのゲイヴさんに付いて行けますね。大変でしょうに」
「いや、その前に状況、その他諸々を教えてくれ、これはどういうことだ」
俺はこの話の流れをすっぱり切り捨てた。正直この状況を把握することが全くできてない。というより、脳がはたらかない。混乱しているようだ。
「そうですね、どの道ゆっくりはできないですから」
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「状況を説明しますと、ゲイヴさんとレンちゃんは死んだことになってます」
まずアカメ……じゃない、アジンがしたことは、俺とレンに埋められている「チップ」を壊さないと、俺らが生きていることがバレるので、その壊す作業と、状況説明のために、口を動かしながら進めていた。
器用なやつだと心底思う。
しかし、アジンは手を止めて言う。
「あと、ゲイヴさんに謝らないとなりません。他の隊を救えなかったことを……」
少し声のトーンが低く、いつもの明るさが無い。
「いや、お前は頑張った。これを事前に気づかなかった俺の責任だ」
ここははっきりしておきたい。
核が落ちるのにもっと早く気づいていれば、みんな救えた。そんな戦だった。
それだけは、俺の中ではっきりしていた。
しかし、アジンはその俺の返しに対して目を閉じて少し悔しそうに歯を食いしばる。
アジンはいつもと変わらない声のトーンで言う。
「むむっ、これか、あったあった。まずゲイヴさん」
……気を使ってくれているのだろうか。
それとも、本当は自分のせいだと思っているのだろうか。
いずれにしても、こいつらしい優しさだ。
ここはありがたく受け取っておこう。
モニターに映るチップをあてにして、位置を探索していたアジンは、どこに埋まってるのか見つけたのか、俺の背後に立ち、ガサガサとアジンの予め持ってきていた大きいリュックを漁る。「ちょっと痛いですよ〜」と、小声で囁き、首筋にブスッと何かが刺さった。そして少々待つと、中のチップを見つけたのか、また口を開く。
「今から壊しますね、恐らく超痛いから我慢してください」
え
と、息を着く暇もなく電撃が走る。
「たたたただだだぁぁぁ」
直接神経を刺激……じゃない、そんな半端なモンじゃない。抉られるような痛さだった。
とにかく言葉にしても伝わりづらいが、とにかく痛かった。
「終わりです」
ニコッと笑って済ます。
「あぁー……死ぬと思った」
まだ脳がズキンズキンとして痛い。
「さぁ、次はレンちゃんですね〜へへっ」
あぁ、これはトラウマになりそうだ。
そして、五分後。
「あああああぁぁぁぃたぁぁぁ」
レンは悶えていた。悶えちゃった。
部屋をゴロゴロ叫びながら暴れていた。
「いやはや、これは反省です。こんな美しくないやり方は私らしくないですが、その他の準備が手間取って大変だったのですよ」
俺はそれを聞いて
「そうだな、いつもなら綺麗な手段を選択しようと試行錯誤して、不発するのがお得意だしな」
同調した。
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アジンは美しい。
それは容貌という意味ではない。一つ一つの積み上げた行動が美しいという意味だ。彼女の正義は"美しい世界を見る"ということ。それは前にも話しただろうか。しかし反対に、彼女にはその美しいものを、作ることができないと思ってると思う。
昔アジンから聞いた話ことがある
"美しいは人生の経験によって重さや重大さが変わると思うんです。だから人間は他種の美しいを作れると思うんですよ。"
さりげなく交わした会話の一部分だが、俺にはこの話の本質はすぐに分かった。
自分は美しいを見出せない
たった一言。それだけだと思う。
自分の思う美しいを表現したものを自分が見て、感銘を受けるわけがない。
当たり前だ。故に自分が美しいとは思えない。それも当たり前だ。
それが彼女にはどう影響しているのだろうか……そこから先は未知だ。
ここからは俺の推測だ。
彼女は自分自身が美しくないなら、美しいものを表すことはできない。自分には美しいを作る資格はない。そんなことを思ってるはず。
俺は思う。これが本当なら、とんだ迷走だと感じるだろう。
これらはもちろん憶測でしかない。もちろん確信はない。
ただ自信はある。
自信だなんていうこんな確信のないあやふやな事に自信を確信に近づけることは滅多にしない。だが今回は特別だ。
なぜなら、その矛盾に対して、自分ですら理解できないのが理解できるから。
つまり、俺と彼女は致命的なところが似ているからだ。
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「さて、状況報告を頼むぞ」
「っ〜〜!」
床に座って、三人で囲みあって会議の形をしていた。だが、レンは蹲って首筋を押さえていて、新しい土下座のような姿勢だった。
「いつまでそうやって丸くなってんだよ」
俺だってまだ痛い。
「大丈夫です。手が離せないだけで、耳は暇してます。進行してください」
手が離せないの意味が違う気がするが……
レンの声は少し高くなって、潤いを帯びていた。
「んじゃぁ言葉に甘えさせていただきます。まだ急ぎの仕事をこなしただけで、時間は押してますからね」
そうして、また一歩、物語が進むのだった。
作者のわたみです。
第二章はアカメ……じゃなくアジンの話を中心に紐解いていきたいと思います。
まだまだ、これは序章。これからの物語に興じあそばせ……




