白い世界
細い雨が地面を叩く度に空気を振動させる
人工的な街並みが雨によって生命を吹き返し
澱んだ空気と共にこの世に蔓延した邪気をも洗い流す
先週までの狂暴な熱気を冷却するかの如く
秋雨前線に突入した8月末
風が強くなり樹が揺れている
ざーざーざー
濡れた地面と一体化した落ち葉
葉の色も緑から所々黄緑と変色している
益々、アスファルトを叩く雨音が激しくなってくる
浮世絵のような線描で表された風景の様
水溜まりに反射する光と混和した景色
雨音が規則的な旋律を奏でている
それは憂愁のこもった響きであり不安定な心持にさせる
秋の長雨、本当に長い不安定なお天気
曇天と雨の繰り返し、しかも情緒的な雨ではない
風が強くて時には横殴り
傘を差して歩いている人達も用を成さずに諦めて濡れて歩いている
この雨で川が増水しなければいいのに
西日本では大雨による被害が出ている
前方に見えるのは橋
こんな所に橋があったかしら
いつもの道、間違う筈はないのに
見慣れた風景なのに何か違う
私は何度もこの道を通っている
違和感はあるのに脚を止めることも止めず私は歩いている
霧かしら、周りの景色が霞んで見える
橋の異変に気付く、風景の違和感にも気付く
前方からの人の気配に気付く
小さな子供のようである
合羽を被り何か手に持っている
豆腐?
確かに豆腐である
その子供は手に豆腐を乗せたお盆を持って歩いて来る
私はこの異常事態に恐怖を覚えたが脚が止まらない
近づくにつれてその子供の異様さに気付いてくる
合羽じゃない、時代劇で見たような蓑傘を頭に被っている
そして着物を着ている
しかも、その子の頭は身体のサイズからして異常に大きい
すれ違った時に私はその子を見た
その子は私と視線も合わさず通り過ぎて
おぼつか無い足取りで歩き去っていく
私は急に恥ずかしくなった
あの子は変な格好をして歩いてるだけ
別にいいじゃんと思い直し
私も先を急いだ
私はどこに行こうとしているのか
なぜ休憩もせずに歩いているのか
自分でもわからない
また前方から子供が歩いてくる
この子も着物を着ている
蓑傘を被り行灯らしき物を手に持っている
もう私は驚かない、なぜか慣れた
でもその子の顔を見て流石にびっくりした
その顔には目がひとつしかないのである
私は声を上げようとしたけど声が出ない
そしてそのモノも私を見ずに通り過ぎて行った
雨が益々強くなってきた
ここはどこなの
(なんて汚くなってしまったのかしら)
(もう限界みたいですね)
(ここまで汚染されたらもう私達ではどうすることもできませんわ)
突然、思念が心に入ってきた
誰の声なの?怖い
細い秋雨が銀色になってきた
誰の声なのか分からないけど
それも私は随分、思い悩んでいた事だった
私はもうこの世が嫌すぎて早くあの世に帰りたいと思っていた
汚れた世の中、人の心がここまで堕ちてしまっている救いようのない物質世界
(早く来て欲しい)
(神様助けて下さい)
また別の思念が心に飛び込んできた
切実な願い、祈り
この希求は私と似ている
この声の人は神様にお願いしてるんだ
この世は波動区分による境界はなく
荒く低波動な動物のような魂の者とも一緒に同じ空間で生活しなければならない
苦を経験せざる得ない世界
経験して気付き魂が学習するため
あの世は同じ波動区分の魂のみが集まり苦を経験することない世界
だから気付きを得て魂の成長を難しくしている
だから敢て、この世に出てきた
でも、もう私も疲れた
「生きているのが、、、」
橋の下は鬱蒼と茂った背の高い雑草が見える
その中で健気に黄色い花を見つけた
川は雨音を響かせて穏やかに流れている
前方には橋の終了時点が見えてきた
あいかわらず視界は白くぼやけて鮮明な風景は見えない
地球の意志が聞こえてくる
(もう既に浄化は始まっている)
地球事体が生き物である
(もう地球の波動上昇は終了している)
(波動区分による淘汰も、もうすぐ完了する)
空気が清涼になってきたのが判る
まだこの世も捨てたものではない
もうすぐ橋の終了地点である
そこに近づいていくうちに分かってきた
歓迎されていることを
「私だったんだ」