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神様の組曲   作者: 天使のサイン
9/9

光へ

 瑠璃は、鼻歌交じりで料理をしている。理樹と一緒に食べようと思ってカップ寿司を作っているのだ。


 理樹の小屋。洋服を地面に並べ、一枚ずつたたんでいる。そしてTシャツはTシャツの上にのせ、靴下は靴下と綺麗にまとめて積んでいく。そしてたたんだ衣類を大きなディーパックに詰めていく。


 瑠璃は、綺麗に詰められたカップ寿司を、上から、そして横から嬉しそうに眺めている。


 理樹は、意を決したように立ち上がり、バックを背負った。


 瑠璃は、玄関へ向かい、お気に入りのシューズを履いた。


 理樹、小屋を後にし、少し歩いて振り返る。


 瑠璃、嬉しそうに、作ったばかりのカップ寿司を持ち上げ、「美しい」と満たされた表情。


 理樹は空を見上げて、「美しい」と晴れやかな表情。


 理樹の家に着くと、一通の手紙が袋に入れて扉に掛けられてあった。表には、「瑠璃さんへ」と書かれていた。首をかしげながら手に取り読み始めた。白の便箋に青の文字で書かれていた。きちんと整列された文字でこう書かれてあった。


 『瑠璃さんへ

 突然の手紙に驚いているでしょうか。

 また旅に出るときが来たようです。雲を追いかけることで、私の人生も一緒に創られていく。

 自分が自分であるために選びました。

 また、お会いできる日を楽しみにしています。

 理樹』


 瑠璃は、読み終わると、グラッと体が揺れ、カップ寿司を落とした。そして小さな声で呟いた。

「捨てられた… また捨てられた…」

 その瞬間、暗い闇が一気に瑠璃の心を渦巻いた。

「理樹さんまで、お母さんと同じことをするの。どうして? なぜみんな私から離れていくの?」


 熱い怒りと悲しみがこみ上げてきた。そして、重くて暗いドロドロした感情が、体の底から湧き上がってきて、立っていられない。瑠璃の意識は一気に真っ逆さまに落ちた。急落下で落ちた。その落ちていく感じは、一瞬で落ちるのではなく、まるでスローモーションのように、はっきりと落ちていく様を感じられた。全身で、心で感じられた。奈落の底へ。闇の世界へ落ちていく。風を切る感じ、風が髪を乱し、頬に当たるひんやりした空気。何もかもが、今まで感じたことのない恐ろしく気持ちの悪い感覚だった。


「落ちていく、私は落ちていく」

 ブラウスの袖やリボンがヒラヒラとなびいている。

 真っ逆さまに落ちていく。どこまで落ちるというのか。下の下、もうこれ以上、下のない場所。底辺まで落ちたようだ。瑠璃はたたきつけられた。


 ひんやりとした固い肌触り、人はどん底まで落ちきると、そこから上を見上げるものだ。ぼんやりする頭で上を見上げていた。遠く空高く、小さな明かりが見える。そこへ向かって、震えながら右手を伸ばした。死を意識した瞬間だった。


(ひもはどこにあったっけ? 何処にかければいいだろう)

(紐の結び方は、確か、絶対に解けない結び方があった。)


 ふと、ある光景が浮かんだ。それは子どもの頃……。家だ。居間でお母さんと向かい合って座っている。

「こうやって結ぶと、絶対にほどけないのよ。いい? 覚えてね。こうやるのよ。シュッ、キュ、キュキュ、シュウよ」

 とリズムをつけてやってみせる。お母さんは、幼い瑠璃に何度も紐の結び方を教えている。


「もし、火事になって逃げ遅れたら、こうやってこうして、シュッ、キュ、キュキュ、シュウって、紐を結んで窓から降りるのよ。瑠璃、わかった?」

 お母さんの優しい懐かしい声。もうろうとする中、瑠璃の手はその結び方を思い出すように、かすかに動いていた。


「この結び方は安全を守るものなの。命綱と呼ばれ、命をつなぐものなのよ。ちゃんとできる? 瑠璃?」


 シュッ、キュ、キュキュ……

 瑠璃の手が止まった。涙が頬を伝わってこぼれ落ちた。


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