神様の二面性
鎮守の森に囲まれたこの神社で、祭礼の儀式が行われている。年に一度、神様の御神徳を称え、所願成就・平和を祈るお祭りだ。
笛の音色や太鼓の音が鳴り響く中、神主を先頭に巫女が並び厳粛に参道を歩いていく。境内では大勢の人が見守る中、巫女による神様への祈りの舞いが始まった。頭には花かんざしをつけ、右手で鈴を持ち、左手に榊を持って舞い踊る。そんな神に仕える巫女の中に瑠璃の姿があった。16歳になっていた。
瑠璃は今、この神社の神主さんである大地さん、奥さんの奈々子さん、そしてふたりの双子の子供、5歳になる岳人と陸人と一緒に暮らしている。洞窟で過酷な生活をしてきた瑠璃を受け入れ、いつも優しく見守りながらも導いてくれる。
一緒に山を越してきた組曲団もみんな元気だ。この神社で神様をお守りしている眷属として活躍している。ヘビのカイはめったに人前には姿を現さないが、ここぞと言うときにはどこからともなく現れる。乙女チックな雪之丞はマツエクをしてもらい目元パッチリご満悦だ。普段は空を飛んでいるが、時として風や雲となり、その存在を教えてくれる。狛犬の右京と左京は、入り口の左右に一対で向き合う形で並んでおり、邪鬼が入らないよう門番をしている。小さかった茶々丸は言葉を話せるようになり、組曲団のムードメーカーだ。
瑠璃が笑うと空からキラキラと光が降り注ぎ、メロディーを奏でる。今は前以上に音が鮮明に聞こえるようになったし、音楽もまたいろいろな楽器で演奏され華やかさと重厚さが増している。
そんな大好きな人たちに囲まれ、瑠璃の心は穏やかで満たされていた。
静かな境内で竹ぼうきで掃除をしながら思い出していた。
三年前、ここへたどり着き、神社の仕事を手伝うようになったころ、神主さんである大地さんに最初に教えてもらったことがこの掃除だった。真新しい巫女装束を身にまとい、少し不安そうな瑠璃に、
「神職の務めは、掃除に始まり、掃除に終わると言われています。社殿や境内を掃除して清らかにすることは、神様に奉仕することになるのです。ですから、掃除は神事なのです」
と静かで通る声で言ったのだった。
ふたごの5歳のお誕生日会が終わったころ(主役がはしゃぎ疲れて眠ってしまったから)大地さんに「ちょっと散歩にでも行こうか」と誘われ、奥の院に来た。
ここは本堂の奥まったところにあり、荒魂といって、神様の荒々しい側面、荒ぶる魂を祀っている。本堂の和魂は穏やかな働きの神の御霊なので、柔らかくてすがすがしいが、ここは手がピリピリするほどエネルギーが強い。
拝殿を見ながら大地さんは
「同じ神様なのにね。こうも違う」
「荒魂は今でも怖いイメージがあります」
家ではくだけた言葉で話すが、私服とはいえこうして神社に来ると神主と巫女の関係になり、こんな話し方になってしまった。
「せっかくなら、優しい面の御霊だけを祀ればいいのに。その方が神様らしいです」
大地さんは「ハハハッ」と笑いながら、
「神様の二面性というなら、人間も同じだよね。光と闇、両方を持っている。とかく人は良い面だけを望み、その反対を嫌い怖がるもの。でもね、僕はどちらも大切だと思うんだよ」
闇は我々の成長に欠かせない存在。
「もし今、人生に行き詰まっているのなら、まずはその闇をじっくり感じてみるんだ。怖いかもしれないけど、感じるんだ。知ることで闇に光が当たる。そうすると闇は闇でなくなり、そこから新しいものを生み出すエネルギーとなるんだよ」
向き合うべきは自分の傷であり闇。瑠璃は分かっていた。そんな大地さんの気遣いも嬉しかった。
荒魂には向上心を持って前に進み、達成する力を司っている。
「瑠璃もここぞと言うときには決意を持って荒魂に願うといいよ」
瑠璃は人との交流を好まなかったが、こうして神様の話をするのは大好きだった。それは神様への絶対的な信仰を持ち合わせていたからだ。




