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箱庭ロマンチック  作者: 無限ユウキ
番外編「相澤くんは嘘が好き」
12/12

1話(2/2)「夕日に染まるキスゲーム」

 窓から差し込む夕日でオレンジ色に彩られた家庭科室に、規則正しいリズムを刻んでコンコンと響く音。


 俺の親友——馬間田ままだ章一しょういちが真剣に悩んで、シャーペンで白紙を何度もつついている。黒い点々が量産されて、白紙に意思があったなら「もうやめて!」とか思っているに違いない。HPとかあったら1ずつ減っていくけどゼロにはならないやつ。


 馬間田は家庭科部に所属していて、今はその部活中。俺は帰宅部なので文字通り部外者だが、部員は馬間田だけで他には誰もいないから、気軽に出入りできる。

 そして何にそんな悩んでいるのかといえば、部活動をするのに必要な献立を考えているらしい。献立を提出しないと家庭科室で調理器具を使うことはできないことになっているし、必要な食材を部費で買えないんだとか。


 色々とめんどくさいシステムだな、と思う。誰も来ないし、勝手に使っても綺麗に戻せばわかるまい。俺だったら献立なんて適当に決めちゃうね。

 馬間田が作る料理は何だって絶品だから、そんなに悩む必要もない。そのときに食べたいものでいいんだよ。どうせ部費なんだし。


 さて、さすがに煮詰まってるようだから、紙のHP(はくしポイント)も心配だし代弁してやることにしよう。


「なぁ馬間田」


 俺は突かれる白紙のように、馬間田の肩を突いて呼びかける。


 真剣に悩んでうめき声をあげる馬間田も嫌いじゃないが、無為な時間を過ごすよりはよっぽど有意義だろう。


「……なに? 今ちょっと忙しいんだけど」


 馬間田は苛立たしげに応えた。献立を考えるのに忙しいのはわかるが、せっかく二人きりの時間なんだ、少しくらいは構ってくれてもいいだろう。


 白紙に対するちょっとした嫉妬心で、少々意地悪な質問を投げつける。


「なんで馬間田は家庭科部なんて入ったんだ?」


 見ての通り、馬間田と俺がいなかったら閑古鳥が鳴いているような部活に、どうして入りたがる奴なんかいようか。このまま放置していれば自然消滅していたに違いない。


「なんでそんなこと教えないといけないんだよ」


「いや、だって気になるじゃん。部員馬間田だけじゃん」


 俺は知ってる。部員が欲しいと思っているくせに、募集したり、勧誘したりしてないことを。


 なぜならそれは、家庭科室ここが俺と馬間田だけの居場所ではなくなってしまうから。自覚はないんだろうけど、そういうことだという確信が俺の中にはある。


「う……」


 馬間田は痛いところを突かれたと酸っぱい顔をした。下唇を持ち上げて顎に梅干しを作り、唇を尖らせるその表情が俺は割と好きだった。


 けどすぐに取り繕うと、馬間田は反論してくる。


「うっさいな。じゃあ相澤入部してよ」


 これ名案とばかりに言ってきたので、しめしめと思いながら、


「いいぞ」


 と即答してやった。案の定、


「え、いいの?!」


 なんて嬉しそうに言うものだから、


「嘘だよ」


 って思わず言ってしまうのは当然の流れというものだろう。だって俺は、馬間田の困った顔とか、してやられたー、みたいな顔がとにかく好きだからだ。


 そこそこ長い付き合いのに、いまだに新鮮な反応をしてくれるから、こればっかりはやめられない。


「…………」


 馬間田は黙りこくっている。その内心も、なんとなくわかる。またやってしまったーとか、そんな感じで反省しながらも深呼吸をして、落ち着こうとしている。


 だから俺は、絶妙なタイミングを見計らって、静まりかけた水面に言葉の一石を投じる。


「——って言うのは嘘で」


「どっちなんだよもー?!」


 若干食い気味に突っ込みが返ってきたから、クリティカルが入ったらしい。いい仕事をした。グッジョブだ俺。


 しかし不機嫌なままなのも都合が悪い。ここらで機嫌を直してもらわないと、関係性に亀裂が入ってしまう可能性は誰にも否定できない。


「そう怒るなって。ほら、パッキーやるから」


 カバンの中に常備している馬間田の大好物、パッキーを取り出して口元に近づける。すると見るからに目の色を変えた。


「そんなお菓子でご機嫌取ろうとしても無駄だから! 貰うけど!」


 言ってから口で直接かっぱらって行く馬間田。うさぎに棒状のおやつをあげたことがあるけど、そんな感じだった。口に咥えて持ち去り、落ち着くところでもしゃもしゃと短くなるように食べていく。

 馬間田の場合はかなりゆっくりだけど。


 咥えられたパッキーを見て、この流れをここまでうまく作ることができるなんて、自分の手腕が自分で恐ろしくなる。


「なぁ馬間田」


「なんだよ——」


「ぱく」


「——っ?!」


 呼びかけてこちらを向いた瞬間、口に咥えられたパッキーの反対側を俺も咥えた。


 俗に言うパッキーゲームというやつだ。


 どうしてもこれを馬間田と一度やってみたかったのだ。

 これまでのやりとりは全てここに集約されると言っていい。


「…………」


 最後に行き着くキスが目的ではなく、この状況に持ち込んだことによって慌てふためく馬間田の顔を間近で拝むためだ。


 もちろんゆくゆくは頂くつもりだが、それは今じゃない。


「〜〜〜〜?!」


 思った通り馬間田は顔を真っ赤にして百面相。視線はあちこちにキョロキョロと動いて忙しない。


 そう、これが見たかった。


 思い通りに行きすぎて、ついつい笑いがこみ上げてきてしまう。


「あ」


 笑いの振動に耐えられなくなったパッキーは小気味好い音を立てて折れてしまった。もうちょっと馬間田の顔を拝んでいたかったが、あまりやり過ぎてもありがたみが薄れてしまう。


 きっと神様からの「その辺にしておけ」みたいな啓示だろうと思って、俺はおとなしく引き下がる。


「おい! 急に何するんだよホント!」


「いやいや、悪い悪い。ついな」


 こうやってプンスカ怒る馬間田が可愛いから、からかいたくなっちゃうんだよなぁ。


「なにが『つい』だよ! 世の中にはやっていいパッキーゲームとダメなパッキーゲームがあるんだってば!」


 今のはやってもいいパッキーゲームだったな。

 とはいえ怒っていることに変わりはないので、機嫌を直してもらおう。


「わかったわかった悪かったってば。反省してます。——嘘だけど」


 やば、ついクセでいつもの一言が口を突いて出てしまった。


 ここは慌てず騒がず、修正修正。


「一言多いよ! この憤慨をどこに爆発させればいいんだ!!」


「ふんがいとか難しい言葉知ってんな。ま、そんなに怒るなよ。ほら、もう一本やるからさ」


 さっきと同じようにパッキーを取り出して差し出すと、


「そんなんで許すと思ってるわけ?! 貰うけど!」


 やはり同じ感じでウサギのようにかっぱらって行った。


 ちょろいなー。


「で、なんで馬間田は家庭科部なん?」


「しつこっ?!」


 意地の悪い俺の質問に、馬間田の悲鳴が二人きりの家庭科室に響き渡った。


 きっと馬間田とは、こんな感じでこれからもずっと付き合っていくのだろう。


 それは親友としてか、それともいずれはもう一歩踏み込んだ関係になるのか。


 お前はどっちを望んでるんだろうな?


 ……なあ、馬間田?

「BLは書かんの?」という声を頂いたので初挑戦してみました。いろいろ考えさせられるチャレンジでしたが、書きたいことは書けたかな、と。やってよかったと思ってます。




BLがあるなら百合もないとね!

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