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箱庭ロマンチック  作者: 無限ユウキ
番外編「相澤くんは嘘が好き」
11/12

1話(1/2)「夕日に染まるデスゲーム」

「まだ」健全なBLです。興味のあるかただけ読んでくださいねー。

 放課後の家庭科室。


 傾いた日の光で橙色に染まった白紙の紙をシャーペンでコンコンコンコン………と何度も軽く突く。

 頭を悩ませるうめき声を上げる僕——馬間田ままだ章一しょういちの他にもう一人、家庭科室に長い影を落とす者がいた。


 相澤あいざわたけるだ。


 僕の隣に座る親友の相澤は、何かにつけて嘘をつく。それはわかりやすかったり、わかりにくかったり、タチが悪かったり、様々だ。

 腹立たしいことに、そんなバリエーション豊かな嘘や冗談に踊らされてしまうのが、僕の日常になってしまった。


 今日も今日とて、息をするように、まばたきをするように、彼は口から出まかせを量産する。


「なぁ馬間田」


「……なに? 今ちょっと忙しいんだけど」


 肩をつついて呼びかけてくる相澤に声だけで反応する。

 脳のリソースの大部分を献立の作成に割いているから正直に言って相手をしている暇はない。


 何を作るかを事前に決めて先生に報告し、食材の準備と調理器具の使用許可を取らなければ家庭科室で料理をすることはできないシステムになっている。


 だからこうして献立を一生懸命考えているのに、そうとわかっていながらわざわざ声をかけてくるのが相澤という男である。


「なんで馬間田は家庭科部なんて入ったんだ?」


「なんでそんなこと教えないといけないんだよ」


 人のプライベートな部分にズケズケと土足で入ってくるなんて、ホントにデリカシーってもんが無いよ。


「いや、だって気になるじゃん。部員馬間田だけじゃん」


「う……」


 痛いところを突かれて、僕は答えに詰まってしまう。


 そうなのだ。家庭科部に入ったものの部員がおらず、これも僕の頭を悩ませる原因のひとつでもあった。この家庭科室にも、いつか多くの部員で賑わう日がやってくるのだろうか。


 それはともかく、言い返すことにする。


「……うっさいな。じゃあ相澤入部してよ」


 そうすれば部員が僕一人だけという現状は打破できる。憎たらしいことに意外とモテるので、もしかしたら相澤目当てで誰かしらが芋づる式に入部してくれるかもしれないし、顧問の大和やまと先生も多少はやる気を出してくれるかもしれない。

 ほら、いいこと尽くめじゃないか。


 そんなことを考えていたら、


「いいぞ」


 とかあっさりと言うものだから、


「え、いいの?!」


 僕はバカ正直に反応してしまった。

 これに対する答えはもちろん、


「嘘だよ」


「…………」


 と、まぁこんな具合である。


 いや、みなまで言わずともわかってる。一度ならまだしも、毎度毎度騙されるのは、騙されるほうが悪いのだと。

 嘘は苦手だし、嫌いだし、可能であれば嘘なんてつかない人生を送りたい。そして『我が人生に一片の悔いなし』的なことを最後の言葉に大団円を迎えたい。


 人生4分の1かそこらのガキがなにを言っているんだって話だけど、先のことを少しでも見据えておくことは決して悪いことではないはずだ。

 ここでたっぷり新鮮な嘘に触れて、社会の闇、ずるい大人のやりかたにある程度でも慣れておくと思えば、嘘によるこのイライラも腹の底に沈められるというもの。


 大きく息を吸って、吐いて、ささくれ立った気持ちを落ち着かせる。


「——って言うのは嘘で」


「どっちなんだよもー?!」


 たった一言で落ち着きを見せた心の草原に隕石が降ってくる。すり鉢状に陥没して、辺り一面焼け野原だ。


「そう怒るなって。ほら、パッキーやるから」


「そんなお菓子でご機嫌取ろうとしても無駄だから! 貰うけど!」


 美味しいからね!


 目の前に差し出されるパッキーを相澤の手から奪い取るように直接口でかっさらう。


 体の芯まで染み込んだ貧乏性のせいで、食べ物はじっくりゆっくりしっかりと味わってしまう。もちろんお菓子も例外ではなく、咥えたパッキーも齧歯類のようにポリポリと徐々に短くなるように食べていく。

 右手はペンを持ってるし、左手は紙を抑えなくてはならない。自然と手を使わない食べ方になる。


 チョコの糖分が脳に思考能力を与えてくれて、なにか献立が思いつきそうだ……!


「なぁ馬間田」


 また相澤が呼びかけてきた。


 これも糖分のおかげか、イラッとすることもなく、いつもの癖でつい反応してしまう。


「なんだよ——」


「ぱく」


「——っ?!」


 相澤のほうへ振り向いた瞬間、口に咥えていたパッキーを相澤が「ぱく」とかふざけたことを言いながら絶妙なタイミングで咥えやがった。


 これは、嬉し恥ずかしな展開で有名な、伝説のパッキーゲーム!

 しかし男同士でやった途端、夢色に輝くそれは血に染まったデスゲームと化す!


「…………」


「〜〜〜〜?!」


 しかも相澤のやつは本当に咥えただけでそれからは微動だにしない。ただただ目が回る僕のことを面白がって、口角を上げながら観察でもしているようだ。




 相澤の顔が近い。息がかかるほどに。

 相澤と目が合う。美しい虹彩だった。

 相澤が瞬きする。奥二重だったんだ。




 他にも様々な情報があらゆる器官から飛び込んでくる。


 シャンプーのいい香りがしてきたり、手入れでもしてるのかってくらいきめ細やかな肌してたり、まつ毛長いなーとか、まゆ毛も整ってんなーとか。


 って! 何をのんきにつまんないこと考えてるんだ僕は?! さっさとこの状況をなんとかしなければ、誰かに目撃でもされたら変な誤解をされかねないじゃないか!


 一番手っ取り早いのはこちらから放してしまうこと。でもこれだとせっかくもらったパッキーが無駄になってしまう。それになんか負けた気がするので取りたくない選択肢。

 ふたつ目は不意打ちで引っ張って相澤の口から救出すること。これならパッキーは僕の口元に戻ってくる。しかし相澤が咥えた部分がある以上、全てを胃に収めることはできない。


 これが最善手のように思うけど、完全に幸せになることはできない。


 あれやこれやと悩んでいると、相澤が肩を震わせ始めた。くつくつと、小さく笑いが込み上げてきているようだ。


「あ」


 微妙に動くものだから、僕の意思に関係なくパキッと乾いた音を立ててパッキーが折れてしまった。

 しかも折れた箇所は僕の口元。あろうことか相澤のほうにほとんどが行ってしまったのだ。

 けど、これでパッキーゲームという名のデスゲームからは解放された。


 僕は肩を震わせ笑いをこらえている相澤に怒りをぶつける。


「おい! 急に何するんだよホント!」


「いやいや、悪い悪い。ついな」


「なにが『つい』だよ! 世の中にはやっていいパッキーゲームとダメなパッキーゲームがあるんだってば!」


 今回のは完全にダメなやつだ。


「わかったわかった悪かったってば。反省してます。——嘘だけど」


「一言多いよ! この憤慨をどこに爆発させればいいんだ!!」


「ふんがいとか難しい言葉知ってんな。ま、そんなに怒るなよ。ほら、もう一本やるからさ」


「そんなんで許すと思ってるわけ?! 貰うけど!」


 美味しいからね!


「で、なんで馬間田は家庭科部なん?」


「しつこっ?!」


 献立作成のためだけの時間に付き合ってくれる親友のせいで、顧問の先生に提出する献立は——結局完成しなかった。


 まぁ、また明日でいっか。

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