♢Ⅰ 異世界に到着
「あの、あなたは……?」
すると青年はにこやかに答えた。
「ジャッシュです。ジャッシュ・ルーダン。呼び捨てでいいよ」
「うん、ジャッシュね。私はルウラ・シャンクスです。よろしく!」
こうして、ルウラに一人ソルシェの友人ができたのだった。
「まず、ここはカシュレ王国でソルシェが住む一番の大きな王国。そんで今いるのがその中心地であるクシュレ王宮。カーシュ王とクジュル王妃が住んでて毎年学生魔術師のレベルテストがあるんだ。それで3000以上の高いレベルが出た人は学生魔術師から進級魔術師で、さらに30歳以上で4500以上の高いレベルが出た人は上級魔術師になれるんだ。そうすると王宮で入れるゾーンの数や種類が変わる。それからここでは招待客が泊まることもできる。あ、そうそう、ルウラも急にここに連れてこられたから招待客だよ。ただ、来週から寮に入らないといけない。陽寮、月寮、星寮、流寮があって、俺は月寮の生徒なんだ。とりあえず一週間は俺がいろいろ案内するから楽しんで!」
ジャッシュは今まで歩いていた足を止め、つるつるとした壁の前で片手を突き出した。すると、ジャッシュの手から赤褐色の光が出てドアの形が浮き出たのだ。
ルウラは魔術の力に心底驚いた。と同時に、今後自分の力だけで入れるのだろうかという不安も生まれた。
ジャッシュはそれを察したかのように言う。
「これから入るときはここの前で念じるだけで入れるから、特に心配はいらないよ」
「あ、そうなんだ」
「うん」
ふぅっと息をついたジャッジュは「それじゃあ、夕飯のときに来るから」と言って去っていった。
「夕食……って今3時なの⁉こっちの世界に来る前は朝だったのに……」
ここまで独り言を言って、思い直す。
「そもそもここ世界が違うから時間も変わるか……」
そう、時計を見ると地球では12時間で表記されているのにここでは14時間表記、つまり1日28時間。さらにカレンダーでは1ヵ月30日程度のところ24日程度で一年間は10ヵ月だ。
だから地球にいるときと感覚が違うのも当然である。
「どうしよう、やることがないなぁ……」
とりあえず部屋を回って見てみることにした。さすが王宮の客室、シャンデリアが飾られており、壁にダイヤモンドなどの宝石が埋め込まれていたり金箔が貼られていたりする。
(こんなとこじゃくつろげない気がする……)
ルウラは色が白や黒などの単色でシンプルなほうが好きなのだ。
(もっとこう……なんていうか、壁と天井が白で床が黒、みたいな感じならかっこいいし過ごしやすいのに……)
そう思った瞬間、ふわぁっと風が吹き抜けてつい目をつぶってしまった。目を開けると、そこには自分の望みそのままの部屋が現れていた。
「え……え⁉」
(想像しただけで魔術がかかるの⁉)
魔術に好奇心を抱いたルウラはジャッシュが来るまでの間、魔術ではどんなことができるのかというのを解明しようとしていた。
「ルウラ、夕食の時間———ってその模様替え自分の魔力でやったの?呪文知らないはずなのにどうして……?」
ジャッシュは心底驚いたのか、目が点になっていた。
「え、呪文必要なの?想像したらできたんだけど……」
「想像だけで⁉よくできたね、それ、上級魔術師しかできないほど難しいことなのに……」
今度はルウラの目が点になった。
「そんなに難しいの⁉嘘、すごく簡単にできたのに……」
なんとかなぜできるのかを解明しようとうなっていたジャッシュは顔を上げ、
「とりあえず、1ヵ月後のレベルテストは受けなきゃいけないからそのときに訊いてみよう」
と言った。
「そうだね!」
自分の魔力が一体どんななのかも知りたいルウラは激しく同意した。
「じゃあ夕飯……行こうか」
ルウラはジャッシュと共に部屋を後にした。