依頼
「人の数だけ"真理"はあるの」
ふとそんな言葉が俺の脳裏を過る。
鈴の音のように澄んだ声で"彼女"がこの言葉を発したのはもう三ヶ月も前になるが、何故か今囁かれたかのように耳の中を谺した。
一瞬"彼女"が背後で囁いているのかとも思える程の現実味。
だが、それは無い。
その"彼女"というのは、俺の真正面にある来客用のソファで横になっているからである。
赤茶色のミディアムヘアの美女。
千年に一度と評される整い過ぎた顔と、モデル顔負けの体型は反則と言って良い。町行く男はおろか、同性さえも振り返る程の美貌の持ち主である。
「んん……んむぅ」
そんな"彼女"こと"四月一日 真理"は、そんな声を上げながら眠りについている。
何とも無防備な格好だが、手を出す勇気も無ければ
する気持ちも無い。むしろ出したくない。
何故なら彼女は俺の上司であり、師匠でもあり、ここ"万屋"の主でもあるからだ。
弱冠二十歳にして"万屋"の看板を出し、依頼をこなす彼女。俺"がひょんな事から彼女の元で働き出したのはもう三ヶ月前の話。
赤茶色のミディアムヘアが寝癖となって彼女の寝顔にかかるが、どうやらそれが擽ったのだろう。
その寝顔すら芸能人顔負けの整い過ぎた顔。その上モデル体型を兼ね揃える彼女は、最早超人と言って良い。町行く男はおろか、同性の女性すら振り返る程の美貌を持つ彼女が
お茶汲みに買い出し、掃除と洗濯etc。俺は家政婦かっての。
今だって一丁前にパソコンを叩いてサラリーマン風を装ってはいるが、山ほど来るメールの中から"依頼"を見つけるという名目の、所謂ただ迷メール削除要員
……まぁ、いつもならこんな感じで仕事を終える。後は一時間かけて電車で実家へ帰るだけだ。
が!
今日は違う!
緊張のような高揚のような、そんな不思議な感覚が胸の中でグルグルと回っていた。
あと一時間もしないで、俺の"初仕事"が始まる。
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「ユウ、修行は順調?」
百五十の未読メールと格闘する最中、俺の上司であり"万屋真理"の所長でもあるマリさんが口を開く。
修行……バトル漫画じゃあるまいし。
心の中でそう思ってはいたものの、マリさんには逆らえない。ここで働く際に教えられた"修行"とやらは、三ヶ月の間欠かさずこなしていた。
"真理"とは"真実"、とか"正しい事"の意味を孕む言葉らしいが、そもそも真理という言葉自体に馴染みが無い。
少なくとも俺が生きてきた十八年の中では、彼女の口から聞いた以外は印象に残っていなかった。