全ての想い
事件解決から三日が経った。事件が解決し、また学生生活とバイトの日々が始まった。
そんな中、紀美は百合花に呼び出され、大学近くのレストランへと向かった。
百合花は五分程、遅れてやって来た。
「ノンちゃん、遅くなってごめんね」
百合花は座った瞬間に謝った。
「全然いいですよ。私も今来たばっかりなんで…」
紀美は笑顔で答える。
「先輩、その後どうですか?」
「大丈夫よ。会社も順調だしね。社長も一番上の兄がなったから安心して」
そう言いつつも、百合花は悲しそうな表情をする。
「先輩…」
紀美は心配になってしまう。
「ノンちゃん、実はね…」
百合花は途中まで言いかけるとためらった。
「私ね、二葉さんのこと好きになってしまったんだ」
言いにくそうに自分の想いを告げた百合花。
紀美は突然の百合花の告白に、衝撃を受けた。
「でも、ノンちゃんから二葉さんを取ろうなんて思ってないのよ。これだけはわかって」
言葉が出ない紀美に弁解する百合花。
「…いつから、宏君のこと好きになったんですか?」
やっとの思いで聞く紀美。
「ノンちゃんと再会した日よ」
「そうなんですか…」
紀美は下を向いてしまう。
二人の間にしばらく沈黙が続いた。
「私、二葉さんのこと諦める。だって、ノンちゃんの彼だもん。気にしなくてもいいよ」
百合花の言葉にうなずく紀美。
「一つだけ聞いてもいいですか?」
「何?」
「宏君に告白したんですか?」
紀美の質問に、百合花は首を振りながら否定した。
「してないよ」
―――良かった…。
「紀美っ!」
ホッとしている紀美を、宏明がレストランに入ってきた。
「あ、宏君…」
――今来られたからマズイのにな…。
紀美と百合花の席に近付いてくる宏明を見ながら思っていた紀美。
「百合花さんも一緒だったんですね」
百合花に気付き声をかける宏明。
「えぇ…」
少しぎこちない返事をする百合花。
「なんでここにいるってわかったの?」
紀美は自分の隣に座る宏明に聞いた。
「京子に聞いたんだ」
「ふ―ん…」
「じゃあ、私はこれで…」
百合花は自分の出る幕ではない、二人の中に入れないという気持ちから席を立った。
「え? もう行くんですか?」
「はい。これから用があるもんで…」
とっさに思い付いた言葉を言い、百合花は席を離れた。
「何の話してたんだよ?」
「他愛もない話よ。まぁ、そのうちわかるかもしれないけどね」
紀美は答えをはぐらかす。
「そのうちわかるって…?」
「宏君、好きよ」
「はぁ?」
宏明は意味がわからないという声を出す。
「オレも好きだけどさ。とにかく学校戻ろうぜ」
宏明は照れを隠しながら言った。
大学に戻ると、中庭にあるベンチに京子と茂が仲良く話しているのが見えた。
茂は宏明に気付くと手を上げた。
「待たせてスマンな」
宏明は茂の横に座ってから言った。
「昨日、高杉さんの面会に行ったんでしょ?」
京子は聞く。
「うん。あの言葉の意味を確かめにな」
宏明は意味ありげに答えた。
「あの言葉…?」
「高杉さんがオレに言った言葉だよ。“もし、二葉さんと早くに出逢っていたなら…もっと別の道が…”って意味だ」
「あぁ…その言葉か…」
茂はようやくわかったように納得した。
「で、その言葉の意味、答えてもらったの?」
「まぁな。高杉さんは女手一つで育ててくれた母親に、迷惑かけまいと無理しながら育ったそうだ。大人になっても無理をすることをしていた。そんな時にオレと出逢った。彼の目から見て、オレは彼女もいて自由に自分のやりたいこと、欲しい物、言いたいことを全てしているように映った。完全に大人になってからじゃなくて、彼の会社が倒産した時にオレと出逢いたかったって涙ながらに答えてくれたんだ」
宏明は複雑な真吾の心のうちを話した。
「そっか…。高杉さんも大変だったもんね」
京子はしみじみと言う。
「でも、ヒロが羨ましいって言ってたのは…?」
「それは百合花さんに好かれているオレが羨ましいってことだろうな」
宏明の言葉に、三人は驚く。
「どういうことよ?!」
京子は訳がわからないという声を出す。
「事件の背景がわかった時に、なんとなく気付いたんだ。あえて言わなかったけど…」
宏明はため息まじりで答えた。
――気付いてたんだ。先輩が宏君のこと好きだってこと…。
紀美は少し安心したように思っていた。
「オレだって高杉さんの気持ちがわかってたら…」
宏明は遠い目で独り言のように呟いた。
「仕方ないよ。人の気持ちなんてわかりっこないんだから…」
紀美は宏明を勇気づけるように言った。
宏明は紀美の顔を見る。
「ノンちゃんの言う通りだ」
「まぁな。そうだよな」
「ノンちゃんてたまに言うことあるね」
「そんなことないって―。京ちゃん、これからアイス食べに行こうよ!」
紀美はベンチから立ち上がり、京子の腕を引っ張る。
「どこに食べに行くのよ?」
「どこでもいい。コンビニでも売ってるし…」
「そっか。行こう」
二人は走り出す。
「オレらも行こうか?」
「そうだな」
宏明はうなずく。
――無理をせずに今の気持ちを大切にしよう。
と、真吾の言葉を思い出し、心の中で誓っていた宏明。
“もし、二葉さんと早くに出逢っていたなら…もっと別の道が…”