犯人の目的
翌週の月曜日の夜、谷崎警部から“吉岡さんが送ったファックスは、確かに本社に届いている”と、メ―ルがきた。
――ファックスがあったからってアリバイ証明になるのか? でも、ファックスを送ってる時刻は確かなアリバイなのか? まぁ、警部が確認したんだからきちんとしたアリバイなんだけど…。
すっかり考え込んでしまう宏明は、モヤモヤしたままメールの返信をした。
翌日、宏明は四限目の授業を休んで北区にある百合花の会社へと向かった。
警察の許可は、谷崎警部へメールをしたのでとってある。
百合花の会社に着くと、まずは社長室へと向かう。
まだ、発見当時と同じままにしてある。恐らく、谷崎警部の命令でそのままにしてあるのだろう。
――犯人の目的が全くわからない。犯人に近付く何かがあればいいんだけど…。
警察が探してたであろうと思われる場所を、宏明も必死になって犯人に近付く物証を探す。
「二葉君!」
背後から誰かが呼ぶ声がする。
「あ、警部…」
「何かわかったかい?」
「いや、全然…。オレもさっき来たばっかだしまだ見てね―けどな」
宏明は首を横に振って答える。
「そうか…」
「事件は大変だな」
「そうだな。犯人がすぐわかればいいけど、なかなかわからない場合もあるからね」
谷崎警部は苦笑いする。
「あ、外も見て回りたいんだ」
「あぁ、いいよ。一緒に行こう」
二人は会社のビル回りを見ることにした。
「社長が発見された時ってここも捜索したんだよな?」
「したけど何も発見出来なかったよ」
「凶器も見つからなかったくらいだもんな」
と、宏明が言った後に、ビルの正面玄関とは反対側の裏にらせん階段とゴミ箱を発見した。
「あれ? ここにらせん階段とゴミ箱があったんだな」
宏明は前来た時には気付かなったという口調で呟いた。
らせん階段とゴミ箱の存在を今知ったのだ。
「ゴミ箱の中身は何も入ってなかったんだ」
谷崎警部が報告するが、何か入ってるかもしれないと思いゴミ箱を開けてみる。
すると、中には黒いゴミ袋が入っているのを見つけた。
「これ…」
宏明は取り出すと、谷崎警部に渡した。
「この前は入ってなかったんだけどいつの間に…?」
谷崎警部は驚いている。
「警部達が帰った後に、犯人が捨てたんだろうな。これで犯人の性格がよくわかったぜ」
「犯人の性格…?」
「臆病で慎重、なおかつ大胆な人物っていうことだ」
宏明は黒いゴミ袋を見つめながら言った。
「今のところ、あの三人にはそういう性格のようなものは…」
谷崎警部の言葉を遮って、
「冷静さを装ってたんだ。犯人だと悟られないようにな。とにかく、そのゴミ袋の中身を鑑識に調べてもらったほうが…」
「そうだな」
谷崎警部は頷き答える。
――よし、これさえわかればなんとかなるかも…。
宏明はらせん階段を登ってみる。三階の社長室に続いている。
――ここからならわざわざ正面玄関から入らなくても社長室に入れるな。
宏明は三階から下を見る。
「警部、靴あととかはなかったのか?」
宏明は大声で谷崎警部に聞いた。
「二十三、五cmの女物の靴あとが発見された、という報告があったよ」
谷崎警部は上を見上げて、宏明の質問に答える。
――女物の靴あとか…。
「オレ、もう一回、社長室、見てくる! 警部、ゴミ袋の件、頼んだ!」
「わかった!」
谷崎警部の答えを聞くと、裏のドアから中へと入っていった。
――あの黒いゴミ袋の中身は後で警部に聞けばわかるけど、これといった証拠があればな。
途方に暮れながら宏明は、二階のオフィスに向かう。そして、机回りを見る。
――ん? これってまさか…。あの人の物…? でも、あの人にはアリバイがあるんじゃ…。
何かを見つけた宏明は、アリバイ崩しに苦戦している。
――だけど、これだけじゃあの人が犯人だと言い切れない。もし、ダメなら本人に証拠を出してもらうしかないか。
「話聞きに行くしかね―よな」
宏明は立ち上がり呟いた。
それから、宏明は急いで真吾が外回りしていた会社に行き、その後に本社に向かった。
「はい、二時半にファックスがきましたよ」
本社の担当してくれた男性が答える。
「時刻をごまかす、というのは無理ですよね?」
宏明は念のために聞いてみる。
「それは無理でしょうね。送られてきたファックスにはちゃんと時刻を打刻してありますから…。なんなら、お見せしましょうか?」
「はい、お願いします」
宏明はお願いすると、担当の人はすぐにファックスを持ってきてくれた。
「これです」
宏明は受け取ると、時刻を見る。
――時刻が打刻してあるから無理か…。本社の人と共犯なんて到底出来ね―ことだし、ファックスを偽装するのは不可能だよな。
「これじゃ無理ですね…」
「でしょ?」
「ありがとうございます」
宏明は礼を言うと立ち上がる。
「何か質問とかありませんか?」
「大丈夫です」
宏明は礼を言い、本社を出る。
本社から五、六m歩いたところで、振り返る宏明。
――これでなんとか全てがそろったな。
宏明は自信に満ちた表情で、本社を見ていた。
「えっ? 犯人がわかった?」
電話の向こうで谷崎警部は大声で言う。
「うん。明日の夕方にでも話そうと思ってるけど、どこでやろうかな?」
場所に困る宏明。
「百合花さんの家は無理だしな」
「本社はどうだ?」
谷崎警部は提案する。
「大丈夫か?」
「なんとかなるだろう。無理なら署で…」
「そうだな。じゃあ、明日の午後六時半にな。オレから本社に連絡しとく。また警部には連絡する」
「わかった。お願いするよ」
宏明はケ―タイを切ると、本社へ電話をし、和美を呼び出してもらった。