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第5話 KONOYO NO OWARI

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「いやあ、すまないな」


「いいんですいいんですっ!」


 俺たちは町で一番安い宿屋の一室を借りた。

 俺は一文無しなので、宿代はもちろんユリル持ちだ。


 受付で、宿の主人のオヤジに怪訝な顔をされた。やたらとユリルをチラチラ見ていたな。


 俺たちが借りたのはベッドが二つあるだけの簡素な部屋だ。ユリルには「こんな部屋しか借りられなくてごめんなさい」と言われたが、俺は悪くない部屋だと思う。

 基準がいまいちわからないが、寝れれば十分だと思うので俺は満足だ。


「あまりお金無いんだろ? 大丈夫なのか?」


「ええ、まあ……。でも、いいんです。クエストを成功させればいいだけですから。どっちにしろ後が無いので……」< br>

 ベッドに腰掛けてみる。木がギイ、と軋んだ。


「なあ、さっきロアーナって奴に言われてたことだけどさ……何か訳ありのようだったが」


 ロアーナの名を出した瞬間、ユリルの表情が変わった。


「……そうですね。ジュライドさんにはお話しておきますね」


 そう言ってベッドの上で正座しこちらに向き直るユリル。


「実は、この間受けたクエストでロアーナさんと一緒になったんです。ロアーナさんたちがBランクのクエストのメンバーを募集していて、お金が欲しかったわたしは思い切って応募してみました。そしたら受け入れられて……」


 ユリルは続ける。


「クエストは大変でしたがなんとか達成することができました。でもいざ報酬金を分配する段になると 、ロアーナさんはとぼけて、わたしがパーティーメンバーにいたことを無かったことにしたのです」


 気がつけば、ユリルは目に涙を浮かべている。


「クエストは二週間の長期に渡るものでした。それだけ大変でしたけど、報酬金も高額だったんです。わたしは困り果てました。二週間ぶんの働きがパーになってしまったので、おかあさんのお薬や、妹たちのご飯を買うお金のやりくりが難しくなってしまったのです」


「ギルドには話したのか?」


「もちろん話しました。でもまったく取り合ってくれなくて……。当然ですよね。ロアーナさんたちはBランクの実力者。わたしは、クエストではデコイしかつとまらないような役立たずですから」


 そう言ってユリルは泣き崩れてし まった。


 道場で最弱だった俺は、飯の量が兄弟たちより少なかったこともままあった。強い者が多くの糧を得るのは当然だと教わったから、納得はしていた。

 だからこの子の境遇は、摂理にかなったものであり、当然だと思う。弱い者はとどのつまり死ぬしかないのだから。


 だけど。


 同じ弱い者だからこそわかりあえることもある。


 父さんは言っていた。


 ――「互いを理解し合える者は至上の関係を築くことができる! もし出会えたのなら大事にすることだ! いいか、カラダノアイショウは最も大切であり、であるからして……」


 同じ弱い者であるユリルを助けるのは、いけないことだろうか。いや、そんなはずはない。


「ユリル。わかるよ。俺も…… 弱い! 弱いんだ! でも、だからわかる! 辛かったよな、歯がゆかったよな……。でも、大丈夫だ。俺は、俺だけは君を理解できる。俺が君の理解者となろう!」


「え!? あ、はい……?」


 

 俺はクエストへの意気込みを新たにした。



◇◇◇◇◇



 日が沈み、宿の夜飯を食って、さあ寝ようというとき、ユリルがもじもじし出した。


「あの……ジュライドさん」


「どうした? 寝ないのか」


「あの、オフロに入ってこようと思うのですが」


「オフロ?」


 オフロ? なんだそれは。


「はい……今日、汗をかいてしまったので。洗い流してこようかと……」


「ああ、水浴びのことか。行ってきな」


 俗世では水浴びのことをオフロ というのか。一つ勉強になったな。

 俺もよく山の滝で毎日のように水浴びをしたものだ。夏も冬も違った気持ちよさがあるんだよなあ。


「はいっ、行ってきます!」


 ユリルを見送ると、俺はベッドに入った。


 思えば一昨日の朝道場を出てから布団には入っていなかった。

 俺は吸い込まれるようにベッドに沈んだ……。


 ……。


 なんだろう寝付けないな。


 ユリルがちょっと心配だな……。


 ん……なんだこの音は。


 これは……何かが飛んでくる音だな。


「「「ドラゴンだああああああああああ!! ドラゴンが出たぞおおおお!!」」」


 外で人々が叫んでいる。

 また出たのか?

 それにしても、この町の兵士はあんなドラゴン一 匹片づけられないのか。


 仕方ない。俺がはたき落としてくるか。


 俺はベッドから降り、窓からよじ登り、宿の屋根の上に出た。


 あいつか。


 ほう、なるほどな……。確かにこいつは町の兵士では厳しいかもしれない。


 こちらに向かってきている黒っぽくてちょっと汚いドラゴン。あれは通常のドラゴンよりちょっと強く厄介なのだ。おまけに台所の食べ物を盗んだりと性質たちが悪い。俺もあいつを初めて倒したのは八歳になってからだな。


「あれって……ダークドラゴンじゃねえか!?」


「あんなもん伝説上の存在じゃなかったのかよ!?」


「終わりだ……世界は終わるんだ」


「この世の終わりだ……」


 町の人々は何を勘違いしているのか わからないが、大方夜だから何かと見間違っているのだろう。


「ライトニングサンダー!」


 俺の右手から発せられた稲妻がドラゴンを黒焦げにして消滅させた。

 ほら、たいしたことなかったろ?


「な……なんだ今の稲妻は」


「神だ……神が我々を救ってくださったのだ……」


「おお、なんたる僥倖……」


 じゃあ寝るとするか。


 ドッゴオオオオオオオン!


 ん、なんだ今の音……。


 何か凄く近くから聞こえたような。

 まさかドラゴンの焦げカスが宿のどこかに落ちたのか!?


「きゃあああああああああああああ!!」


 これはユリルの声だ!


 俺は屋根から飛び降り、入口から宿に入り、ユリルの声が聞こえたほうへ走った。


 一階 の奥の方……この扉だな!

 「女湯」!? オンナユってなんだ!?


「ユリル! 大丈夫か!?」


 そこで俺が見たものは……この世の終わりだった。


 父さん、兄さん……先立つ不孝をお許しください。


 俺は、女の果実という毒に被毒してしまったようです。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! ジュライドさんのエッチいいいいいいいいい!!」

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