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第4話 サークレイズアイ

「ありがとうございますっ! 本当に、何とお礼を言っていいか」


「いや……はは、いいんだよ」


 結局俺は気がついたらギルドに登録してこの女の子と同じクエストを受けていた。

 俺の馬鹿。


 とりあえず話をするため、食堂の空いたカウンター席に並んで座る。


「あの、わたしユリルっていいます。あなたは?」


「ジュライド。ジュライド・サークレイ」


「ジュライドさん……いい名前ですねっ!」


「ユリルもな」


 えへへ、と頬を赤らめ笑うユリル。

 さっきは後ろ姿ばっかりだったからわからなかったけど、この子かなりの美人だ。

 金色のロングヘアに、凛とした目。整った鼻筋に形の良い唇。

 女性は本のシャシンでしか見たことが無かったが、この子が美しい子だというのはなんとなくわかる。


「ところでジュライドさんは、どうしてこの町に?」


「え?」


「ほら、さっきギルドに登録していたでしょう? ということはこの町に来たばかりなのでは?」


「ああ、俺は……」


 弟子を探しに来たんだよ……と言いかけて、やめた。言ってしまえばこの子は負い目を感じてしまうだろうからな。ユリルは魔法の使えない戦士だし。


「田舎で経営している魔法道場が経営難でね。ちょっと出稼ぎに来たんだよ。はは」


 まあこれは本当の話だしな。


「そうなんですか……大変ですね」


 心の底から同情するような表情。優しい子なんだな。


「ユリルは、どうしてこんなクエストを?」


 さっきの受付嬢との話から何となく察しはつくが……。


「実は……うち、おとうさんがいないんです。おかあさんもずっと病気で寝たきりで働けなくて。妹たちも小さいし、わたしがお金を稼がないといけないので……」


「なるほど。大変だな」


 だいたいの事情はわかったが……この話だけだと少し違和感があるんだよな。

 この子の母親が寝たきりになったのは最近の話じゃない。ということはだいぶ前からユリルはギルドで仕事をしていたことになる。

 そうなると、このAランククエストを無理に受けようとしていた理由がわからない。何か差し迫った事情があるはずなんだが。



「あーっ!? そこにいるのユリルちゃんじゃなああああああい!?」


 突如ギルドに響く甲高い声。


 声のする方を見ると、四人の男女がギルドのカウンターの側にいた。


「あれは……」


「ユリル?」


 四人の中の紅一点の女が、桃色のポニーテールを揺らしながらこちらにツカツカと近づいてくる。


「あーらユリルちゃんたら、こんなところでのんびりしてられる身分なのぉ?」


「ロアーナさん、あなたには関係ありません!」


「関係ないなんてことないでしょお? アタシたちは同じパーティーを組んだ仲間じゃないのぉ?」


 なんだこの女。美人だが感じの悪い奴だな。美人だが。


「よ、よくもそんなことを! あなたはわたしには報酬金をくれなかったじゃない!?」


 何? どういうことだ?


「人聞きの悪いこと言わないでよぉ? あんたがしっかり確認しなかったのが悪いんでしょ?」


 居丈高にこちらへ指を差しクスクス笑う女。


「……もういいです。あなたには何を言っても無駄ですよね。わたしは新しいクエストを受けたんです。邪魔しないでください」


 そう言い、ユリルは女から目をそらした。


 すると女の視線はテーブルの上のクエスト契約書に移った。


「へえ? ……って、そのクエスト、Aランクじゃないの!? よりにもよって、Aランク!? Cランクのアンタが! ぷっははははははははは!!!!」


 いつの間にか側に来ていた女の仲間も、動揺に笑い出した。


「「「ぎゃっははははははは!!」」」


 すると、つられて笑い出す他の冒険者たち。

 なんだこいつら……。


「アタシたちでも避けたそのクエストを、アンタがどうするっていうのよ!? クスクス。……あら? その冴えない男がもしかして今回の仲間?」


 嫌味な口調で、これ見よがしに俺を指差す女。


「そうですよ」


 ユリルが答えると、ロアーナと呼ばれた女はテーブル上の俺のギルド員証をのぞき込み、 


「ぷっ、あっははははははははは!! この男Cランクのザコじゃない! アンタにお似合いのしょぼくれた男ですこと!」


 女はそう高笑いを上げると、周囲に目配せする。

 すると周囲もあわせて笑い出した。


 ああ、なんだ。

 要するにこいつ、俺たちに喧嘩を売っているんだな。


 父さんは言っていた。


 「売られた喧嘩は買え! 貰えるものは貰え! ビョーキ以外はな!」


 ――と。ビョーキというのがどういう意味かわからないが。


「あの、あんた俺たちに喧嘩売っているんだよな?」


「じゅ、ジュライドさんっ!?」


「はぁ? 何言ってるのボウヤ?」


 一瞬硬直したあと、ロアーナは呆けた顔をして言った。


 俺は椅子から立って――ロアーナを見据えて言った。


「だからさ……喧嘩だったらいつでも買ってやるって言ってんだよ」


 ロアーナを睨みつけ、俺が宣言をした途端、場の様子が変わるのを感じた。


「きゃあっ!?」


 ……?

 突然、ロアーナとその仲間が尻餅をつく。


「な、なななななななにこの男……!?」


「なんだこの威圧感は!?」


「まるでドラゴンに睨まれたときのような圧力……」


「人間か? こいつ!?」


 な、なんだなんだ。なんなんだ。

 ちょっと凄んだだけじゃないか。

 こんなの鍛錬では日常茶飯事なんだけどな。兄さんたちの圧力とかこんなもんじゃないし。


 いつの間にかあんなに騒いでたギャラリーたちも静まり返ってしまった。


「お、覚えてなさいよ!」


 昔読んだ本に出てきた悪役と同じ台詞を吐き、ロアーナ一行はギルドから出て行ってしまった。


 後に残ったのは、なんだか気まずい静寂のみ。

 なんだこいつら、こっちをじっと見て。

 俺は何もしていないじゃないか。


「ジュライドさん、とりあえず……外に出ませんか?」


「……? そうだな」



◇◇◇◇◇



 ギルドを出た俺たちは路地裏に入って息をついた。


「びっくりしました……ジュライドさんってすごいですっ!」


「え? 何が?」


「だって、あのロアーナさんたちを黙らせちゃったんですよっ?」


「そんなに凄いやつだったのか?」


 鍛錬で兄さんたちと仕合をしてきた俺には、どうにも気の抜けた奴らにしか見えなかったけど。


「ロアーナさんたちはBランク上位で、あのギルドでは期待されている実力者なんですよ。Aランククエストも一度だけ達成しているくらいなんです」


「だから他の冒険者たちもあいつらの肩を持って俺たちを笑っていたのか」


「ええ。なのに、怖じ気づくどころか、正々堂々と振る舞ったジュライドさんは……すごいです!」


 キラキラと視線を向けてくるユリル。心なしか顔が近い。


「あー、いや、たいしたことないよ」


 やばい。なんだこれは。


 ユリルの笑顔を見ていると胸が弾けるように成る……!


 これは……この感覚は……


 四歳のとき、初めて山籠もりでドラゴンと対面したときの感覚だ!!

 いや、これはそれ以上かもしれない……。

 まだ未熟とはいえ、俺は四歳のときとは比べものにならないくらい成長している。当時何とか倒せたドラゴンも、今ではデコピンで倒せるくらいだ。


 成長した俺をここまで動揺させるとは……。

 

 このユリルという子恐るべし。


「ジュライドさん、クエストは明日にして、今日は宿を探しませんか?」


「そ、そうだな」


 ユリルの提言に従い、宿を探すことになった。


 だがこのときの俺はまだ、この後に起こるとんでもない事態を予想だにしていなかったのだ……!!

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