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第3話 やらない善よりやる偽善?

 沢山の建物が立ち並び、往来の人々で賑わっている。

 これが町か……。あれが店か……あれが女か……。

 ずっと道場と山の中だけで生活していた俺には刺激が強すぎる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 話を!」


 ……やれやれ。

 何故か門のところからずっと着いてきている女隊長。


「だから、俺忙しいんですって!」


 早く弟子候補を探さねばならないんだからな……。

 戦士や魔法使いの集まる冒険者ギルドとやらがあるというのを昔父さんの本で読んだことがある。とりあえずそこに向かってみるか。


「じゃあ歩きながらでもいい! 話を聞かせてくれないか?」


「まあ、歩きながらなら……」


 うーん。これは無視すると逆に意地になるパターンだな。


「なあ、君は一体何者なのだ?」


「だからさっきも言ったでしょ、サークレイ流魔導士ですって」


「……質問を変えよう。どこから来た?」


「向こうの山ですよ。あの奥の方です」


「向こうの山って……あのヤバイマウンテンのことか?」


「山の名前は知らないですけど……なんか弱いドラゴンがいっぱい飛んでるところですよ」


「ドラゴン……? 弱い?」


「はい。俺の家、あの山の奥にあるんで、ここに来る途中何度かドラゴンの巣を通ってきましたよ」


「巣!?」


「ええ。うじゃうじゃ巣があって……ほら、ドラゴンの巣って、歩いてるとチクチクするじゃないですか、ズボンとか。参りましたよ、本当」


「巣……チクチク……?」


 やばい。なんだこれ楽しいぞ。

 俺、今女の人と雑談してる! それも、ごく自然にだ!

 俺の話に興味津々みたいだし、話題選びもグッドなようだ。よし、このまま続けよう。


「しかもドラゴンのやつら、俺が通ると襲ってきちゃいまして。鍛錬でよく山籠もりしてたときも毎回ドラゴンが襲ってくるんですよね。あいつら、弱いくせによくやるなあって。あははは」


「タンレン? ヤマゴモ……?」


「だから、全部倒してやったんですけど、逃げてたやつがいたみたいで……どうやらそれがさっきのやつみたいです。ははは、すみません。俺のせいでした。てへっ☆」


 最後にオチをつけ、笑いどころも忘れない。

 父さんの部屋にあった、『非モテからの簡単激モテ術』とかいう本で読んだテクニックがこんなところで役に立つとは。


 いやあ、女の人と話すのってこんなに楽しいんだな。

 心なしか隊長が青ざめているような気がしないでもないけど。


 しかし、どうもね。やっぱり目立つんだよね。

 隣で甲冑をガチャガチャやられながら着いてこられると……。

 おまけにこの人、胸元がやたら強調されている。鎧の上からでもわかるくらいだ。

 見てはいけないような、でもそれでいて目を離せないというか、チラ見しまくってしまうというか……。とにかくなんだか気になってしまう。


 はっ、これがまさか、男を殺す女の果実では!?


 昔、兄さんに聞いたことがある。

 女の肉体には男を殺してしまう果実がみのっていると。ひとたび服毒すればこの世の終わりだという。


 この女、まさかそれを俺に食わせようというのでは……!

 こうして話をして油断させ、いい気分にさせたその隙に俺の口内にあれをぶちこむつもりだったのでは……!


 危なかった。

 気づかなければ死んでいたかもしれない。

 町は恐ろしいところだな……。


「そ、その手には乗りませんよ!!」


「……あ、お、おい、ちょっと!」



◇◇◇◇◇



 俺は猛ダッシュし、女隊長を撒いた。


 というか、仮にも兵士をまとめる隊長のくせに足の遅い人だったな。

 あんなんで兵士がつとまるのだろうか? 

 ミニドラゴンにもびびっていたし、兵士の質が相当低いんだろうな。この町が心配だ。


 お、あれか。

 この町の冒険者ギルド。


 でかい建物だなあ。これは入るのに勇気がいるぞ……。

 いや、こんなところでびびっててどうする。道場を立て直すんだろう、ジュライド!


 俺は両頬を叩き気合いを入れ直した。


「た、たのもーう!!」


 威勢良く扉を開けた俺の目の前に広がってきたのは……初めて見る空間だった。


 正面にはカウンターがあり、右手奥には何やら食堂らしきスペースが設けられている。

 カウンターには沢山の人が並び、そこらに乱雑に置かれた椅子は満員で腰掛ける場所も無い。食堂のテーブルも同様で、様々な人間が飲み食いしては笑い、叫び、泣いている者までいる。


 これが、ギルド……これが、町……。


 さて、どうするか。

 俺としては当然、魔法道場の弟子が欲しいわけだから魔法使いを探したいんだが……こうして見てみても、誰が魔法使いで誰が戦士だとかわからないな。


 考えあぐねていると、壁にところ狭しと貼られている紙に気がつく。その中の一枚が目に留まった。


「なになに……Bランククエスト、ナーゲルスコーピオン討伐、魔法使い一名急募!? 報酬は二十万ゴールド!? しかもメンバーは全員魔法使い……これしかない!」


 俺はその紙をはがした。よくわからないがこれをカウンターに持って行けばいいのだろう。

 このクエストに参加して俺の実力を見せつければ、メンバーの誰かが弟子になってくれるかもしれない。しかも報酬もなかなか。

 確か俺たち兄弟全員の一月の食費が十万くらいだったからな。弟子をとることを考えても二ヶ月くらいは持ちそうだ。


 列の最後尾に並ぶ。

 やれやれ、俺の番が来るまであと三十分はかかりそうだな。


「ひっく、ひっく、えぐ」


 ん?

 俺の前に並んでいる女の子が震えている。どうやら泣いているようだ。


 俺より一回り小さい子で、服装を見たところ、戦士とかそのへんだろう。剣を背負っているし。

 こんな小さな女の子もギルドで金を稼がねばならないのか。大変なんだな、生きるのって。

 今更ながら、ずっと働かずに鍛錬に打ち込めたことに感謝だな。


「えぐ、うぐ、うぅ」


 しかし、なんだ……。こう、すぐ目の前で泣かれるというのは、いたたまれない。

 関わる気は無いんだが、すごくいたたまれない。

 周囲の人間もこの子が泣いているのは気づいているようだが、誰も声をかけない。

 こういうものなのだろう。


 そうこう考えているうちに、前の女の子に順番が回ってきた。

 とうとう次か俺の番。

 はがした張り紙を見直す。

 Bランクってことは、けっこう難度の高いクエストなんだろうな。俺につとまるだろうか。

 だがメンバー四人全員魔法使いというのは魅力だ。弟子になってくれる者がいるかもしれないというのもあるし、単純に俺自身が、父さんや兄さんたち以外の者の魔法が見てみたいからというのもある。

 世の魔法使いは、どんな魔法を使うのだろう。

 ああ、早く見てみたい。俺の魔法を見せてみたい。俺より優れた魔導士がいるなら、ぜひ教えを請いたい。楽しみだ。


「あー、ダメダメ。そのクエストは戦士一人じゃ受けられないのよ。一人は必ず魔法を使える人間を連れてきてくれないと。それにそのクエスト、Aランクじゃないの。ユリルちゃん、まだCランクよね?」


「そこをなんとかっ! しっかり成功させますので」


「そう言われてもね……決まりだから、ゴメンね、ユリルちゃん」


「お願いしますっ! 早くお金を貯めないと、お母さんが……妹たちが……ううっ」


 受付の女性と前の女の子――名前はユリルというらしい――が何やら揉めているようだ。


「お願いします、お願いします、お願いします……」


「困ったわねえ……」


 ……いやいや。俺は一刻も早く弟子をとって道場に帰らないといけないんだ。

 父さんだってあまり長い時間一人にしておいたら何をするかわからない。


「お金が必要なんですっ! わたし一人でもできるクエストありませんか? 何でもやりますからっ!」


「うーん……えっと、今ある高額クエストは、それと、Bランクのやつが一つだけね。Bランクのも、魔法使い限定だし……。あとは少額のものしかないわね……ごめんなさい」


 ……いやいやいや。

 俺にはやることがあるだろう。

 第一俺に何ができるというんだ。Aランクってたぶん一番キツいやつじゃないか。道場で最弱だった俺につとまるとは思えない。

 それに、情に流されるのは弱者のすることだ、と父さんも常々言っていたじゃないか。


「うぅ、わかりました……ひぐ」


 ……。




「あの、そのクエスト俺でも受けられますか?」



 ……俺の馬鹿。

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