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第2話 最強種レッドドラゴン

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「あれが、町……」


 時計が無いのでわからないが、今はちょうど真昼時だろうか。

 一昨日の朝、道場を出発した俺はアダルの町の門を視界に入れていた。

 思ったよりすぐ着いたな。


 あの衝撃の事件の夜、俺は一晩中悩んだ。道場を立て直すのにはまず何をすればいいだろうかと。

 挙句、道場を立て直すべく、俺は弟子をとることにした。とにもかくにも門下生がいなければ始まらないからな。

 俺は気を引き締めるべく両頬を叩いた。


 とはいえ不安もあった。

 兄弟たちの中で最弱で、才能も無い俺なんかが弟子をとっていいのだろうか、そもそも俺に着いてくる者がいるのだろうか、という不安が一つ。

 半ば廃人状態の父さんにはしばらく弟子の指導などは無理だろうし、俺がやるしかないんだけど。

 もう一つの不安は、俺自身俗世間についてほとんど知らないということだ。最低限の知識は父さんの書斎にある本で学んでいてはいたのだが。


 やれやれ、本当にやっていけるんだろうか。


 いや、大丈夫だ。俺だってサークレイ流をずっと学んできたんだ。世間の魔法使いたちに比べれば、上位では無いにしてもそこそこのところにいるはずだ……たぶん。


 そうこう考えているうちに、アダルの門の前に着いた。


「おい、そこのお前!」


 なんだろう。門番らしき人間がこちらを見て声をかけてきた。


「な、ななな何かごおごご御用でしょうか?」


 俺は明らかにキョドッていた。


「何か、じゃない! 町に入りたいなら出すものがあるだろう?」


 門番が俺に近づいてきて手を差し出してきた。


 うお、もしやこの声が……女性!?


 うおおお、初めて聴いたなあ……感動する。女の人というのは男の声とは違って、こんなに綺麗で透き通った声をしているのか。

 残念ながら顔は兜で隠れていて見えない。


「おい、聞いているのか?」


「あ、すみません。あああああの、何を出せば?」


「ったく……近頃はこういう手合いが多くて嫌になるな……。いいか、町に入るには通行証か身分を証明するものが必要だ」


「ああ、そんなことですか」


 ふ、この人、何を言い出すかと思えばそんなことか。

 俺だって身分証明書くらい持ち合わせているさ。田舎者だからって舐められては困るな。


 俺は懐から道場門下生であることを証明する書を出して見せた。


「なになに……サークレイ流……魔法道場?」


 門番の女性は証書を手に取ると眉を寄せ考え込んでいるようだった。


「知らんな。どこの田舎者だお前は」


「え、あの」


 あれ……。父さんの話だと、サークレイ流ってのは最強の魔法流派で、知らないものはいないんじゃ……。

 この門番が無学なだけか?


「まあいい。ちょっと待て。照会してやる」


 そう言うと門番は仲間を呼んで何かを持ってこさせた。

 声からは何となく俺と歳は近そうなのに、部下がいるのか。


「……該当なしだな」


「え?」


「このリストには、この国の登録されているギルドや戦士流派などが網羅されているのだが、サークレイ流という流派はどこにも記されていない」


「そんな馬鹿な!? そのリストとやらが不十分なだけじゃないんですか?」


「ちなみに、参考程度に言っておくが……。

 この間、ここから馬車で一か月はかかる辺境の森から蛮族がやってきたのだが、そいつの所属する四人しかいない狩り部隊でさえ登録されているリストだぞこれは」


「本当ですか……!?」


 にわかには信じがたい話だ。


「ほら、見てみろ。頭文字の順に並んでるから」


 確かに、そのリストにはサークレイ流の文字は無い。


「わかったらさっさとどっかに行った。こっちも仕事があるんでね」


 腕でしっしっと払われてしまった。


 さて、どうしたものだろう……まさか町にも入れないとは……。


 俺は途方に暮れて、外門に寄りかかった。


 そのときだった。


「ドラゴンだあああああああ!! ドラゴンが出たぞおおおおおお!!!」


 町の中から兵士が慌てて飛び出してきた。


「ドラゴンだと!? なぜ町の近くに……!?」


 さっきの女兵士もうろたえている。


 空を見ると、確かに赤いドラゴンがこちらに飛んできているのが確認できる。


「くそっ……どうすればいいんだ!?」


「隊長! ドラゴンが向かってきています! ご命令を!」


 兵士たちがさっきの女兵士に命令を請う。


「どうしてドラゴンなんかが……このままでは町が……」


 何だかわからないが、パニックになっている。これは……町に入るチャンスでは!?


 これを好機とみた俺は早速女兵士……もとい隊長に声をかけた。


「あのー、もしかしてお困りですか?」


「何をしている! あのドラゴンが目に入らないのか!? 早く逃げ……」


 俺はこの人たちはどうしてこんなに慌てているのだろう、と疑問に思いつつ言った。


「逃げようにも、町に入れないじゃあないですか」


「そ、そうだったな……で、では……」


「こういうのはどうです? 俺があのドラゴンを倒したら特別に町に入れるというのは」


「なぁっ!? お前、正気か? あれはドラゴンの中でも最強種といわれるレッドドラゴンだぞ!? 一国の軍隊総出で大砲千門に、竜狩り千人、高位魔導士百人を投入してようやく追い払えるかどうかという代物だぞ?」


 ……あれが最強種?

 何かの間違いじゃないのか?


「とにかく、約束してください。あれを仕留めたら中に入ってもいいですよね?」


「え、ええ、いいけど……って……ちょっと!?」


 そうと決まれば話は早い。


 俺はこちらに飛んでくるドラゴンに向かって走る。

 同時に右手に魔力を溜め……撃つ!!


「クリムゾンフレア!」


 右手から発せられた炎はドラゴンの全身を包んだ。


「グオグァァァァァァ!!!」


 炎に焼かれ、苦悶の叫びを上げながらドラゴンがこちらに滑空……いや、もう死んでるな。落ちてくるといったほうがよさそうだ。


「危なぁい!!」


 女隊長の声が聞こえる。


 燃え盛るドラゴンの死体が俺の方に落ちてきている。


「アイスドーム!!」


 左手に魔力を溜め、ドラゴンに放つ。

 炎が消え、ドラゴンが凍りついた。


 これで終わりだ!


「うらぁ!」


 バリイイイイイイイィィィン!!


 巨大な氷を、ドラゴンごと殴る。

 凍ったドラゴンは俺のパンチでバラバラになり、周囲には巨大な氷塊が散らばった。


 町の方を振り返り、確認する。大丈夫だ。町にまで氷は届いてない。


 門の側にいる兵士たちの元へ歩く。


「ドラゴン、倒しましたよ。町に入れてくれますね?」


「え!? あ、ええ……構わないが……」


「じゃ、俺はこれで」


 とにもかくにも、無事町に入ることができるな。


「ちょ、ちょっと待て! お前……いや、君は一体何者だ?」


 女隊長が俺を引き留めてくる。


「何者って……さっき言ったでしょ、サークレイ流魔導士ですよ。それじゃ」


「お、おい、待ってくれ!」


 だがこんなところでちんたらやっている暇はない。

 俺はなんとしても早く弟子をとり、道場を立て直さねばならないのだから。

 未熟な俺に時間なんて無いのだ。

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