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第1話 道場壊滅の危機

よくある主人公最強ものです。よろしくお願いします。

「すまん! もうお前らの面倒は見られん!」


 道場に衝撃が走った。


「し、師匠!? いったい何を……?」

「とうとうボケたかオヤジ!?」

「父上!? どうしたの!?」


 長い白髪に、顎にたっぷりと白髭をたくわえ、年季の入った白い道着を身につけた大柄な老人が俺たちに頭を下げる。

 それは俺たち兄弟にとって、天地がひっくり返るほどの衝撃的な光景だった。


 ここは人里離れた山奥にあるサークレイ魔法道場。文字通りアーノルド•サークレイ師匠がサークレイ流魔法を教える道場だ。


 俺はジュライド・サークレイ、16歳。幼少の頃よりこの道場で魔法を学んでいる。

 赤ん坊のときに道場の前に捨てられていたのを、父さん――サークレイ師匠に拾われて、育てられた。

 野垂れ死ぬはずだった俺を助けてくれた父さんには、感謝してもしきれない。


 そんな父さんが、今、俺たちの前で床に頭をこすりつけているのだ。


「師匠、話を聞かせてください!」


 黒い長髪が特徴の、年長であるサビがまっさきに父さんに問いかける。得意魔法は炎と氷。


「オヤジぃ!? いつまで頭ぐりぐりやってンだよ!?」


 金色の短髪と筋肉質な体が、兄弟の中でもっとも威圧的な二男ギャブル。得意魔法は雷。


「父上! 額、床についてないよ!?」


 肩まで伸びた金髪と、女性のように端正な顔立ちと華奢な体の三男ナーユ。得意魔法は風。

 というか、気づかなかったが、確かに額が床についていない。すれすれのところで浮かしている。


「すまん……実はな、資金が底をついてしまったのだ」


 上体を起こし、偽土下座を指摘されて開き直ったのかあぐらを組む父さん。


「なぁっ!? それはどうして!?」


 サビが驚きの声を上げる。


 俺たちは皆ここに入門してから一度も人里には出ず、鍛錬に明け暮れていて仕事はしていない。

 だが父さんは高名な魔導士の弟子だったらしく、その財産を受け継いでいたから、俺たちが食うに困らないお金はあったはずなのだ。


 たまに父さんがひっそりと人里に下りていたのも、お金を稼ぎにギルドに行っていたと聞いていたが……。


 まさかお金がなくなっていたとは。


「なんでだよ!? なんで金が無くなるんだよオヤジ!」

「そうだよ、このままじゃ僕たち、鍛錬もできないし死んじゃうじゃないか」


 ギャブルとナーユも困惑の色を隠せないようだ。


 やれやれ、この兄さんたちにも困ったものだ。こう矢継ぎ早に質問されては父さんも困ってしまうじゃないか。

 ここは俺が助け船を出すしかないな。


「皆、父さんが困っているじゃないか。父さん、何か訳があるんだろう? じゃなきゃ、お金がそんなにすぐ無くなるわけないじゃないか。ね、父さ……」


「うるさいわあああああああああああああ!!!! お前らが働かないでいつまでもタダ飯喰らってるからに決まってるだろうがああああああ!!!」


「と、父さん……?」


 父さんが急に叫びだした。

 いままで俺たちを指導する中で多少強く言うことはあってもここまで声を荒げることはなかったのに……。


「だって、師匠、働けなんて一言も」

「そうだぜ! とにかく強くなれって言ってたの、オヤジだぜ!?」

「鍛錬が何よりも大事だって言っていたじゃない? 父上」


「うっさいわああああああ!!! 何も言われなくても働くのは当たり前だろうがああああ!!! お前らもうとっくに成人してんだろうがああああ!!」


 目を真っ赤に充血させ怒鳴る父さん。

 俺はびっくりして腰を抜かしてしまった。


「金だって無限にあるわけじゃないんだよおおおおお!!! 鍛錬だけしてりゃいいなんて大きな間違いなんだよこのクソガキどもがあああ!!」


「そんな、今更むちゃくちゃですよ……」

「そうだぜ、俺らには無理やり魔法の鍛錬ばかりさせたくせに、そりゃあねえよ!?」

「強い男になれ、サークレイ流を継ぐのはお前らだってひたすら鍛錬させたじゃない!」


 兄弟たちは不満の色全開だ。

 まあ、俺だって父さんへの感謝を忘れた訳じゃないが、彼らの気持ちもわからないではない。孤児であった俺たちは、物心つくより先に厳しい訓練に身を投じている。

 父さんは俺たちが最強のサークレイ流を継ぐのだと口癖のように言った。

 いわば俺たちは半ば強制的に魔法をたたき込まれてきたのだ。だから他の生き方など知らないし、いきなり人里で働けと言われてもどうすればいいかなど皆目わからない。


「それは……それとは別の話だ」


「何が別なんですか!」

「俺らにはてめえの都合を押しつけといて、今になって放り出す気かよ!」

「そうだよ! 僕たちの人生を返してよ!」


 お、おいおい兄さんたち……。さすがに言いすぎだろ。

 

「う、うぐう……」


 ほら、父さんが黙ってしまった。

 仕方ない。俺が再び助け船を出すか。


「兄さんたち、父さんが困っているじゃないか。ね、父さん、お金が無くなってしまったのは確かに困ったことだけど、仕方ないよ。でも、俺たちは鍛錬以外何も知らないんだ。働くことなんて思いつかなかったんだよ。だから、ここは喧嘩両成敗ってことでさ。

 俺たち兄弟も、父さんも悪かった、それでいいじゃないか。ねえ、父さ……」


「ふざけるなあああああああああああ!! 何が両成敗だあああああ!! 悪いのはお前らだけだろうがああああ!!!」


 う、またか……。

 今日の父さんは今までになくヒステリックだ。


「ヴォアアアアアアアアアアア!!!」


 両腕を広げ雄叫びを上げる父さん。

 すると道着の袖からひらりと一枚の紙が落ちてきた。

 ギャブルがそれに気づいて手に取る。


「なっ……なんだこりゃあ、オヤジ!?」

「これ……何かのお店の名前が書いてあるね!」

「ラーミアの館……これはまさか、巷で噂の卑猥なお店では!?」


「お前ら、それを見るんじゃなああああい!!」


 喚く父さんをよそに、つい気になって俺もそれをのぞき込んだ。

 長方形の小さなその紙には


 【ラーミアの館 ☆ジュリア☆】


 と印字されており、その下には手書きで


『またきてね☆ アーノルちゃん! はぁと』


 とある。


「し、師匠……たまに町に出ているのは働きに出ているのだとばかり……」

「こんな店で遊んでやがったのかよオヤジ」

「父上……お金をそんなことに」


「ち、違う! 一度だけだ! 行ったのは一度だけ! 一度しか行ってない! それっきりだ!」


 衝撃だ。父さんは生活費をヒワイナミセとやらで浪費していたようだ。


「嘘をつかないでください!」

「俺らには鍛錬ばかりさせといて、てめえはやることやってやがったのか!」

「鍛錬が全てじゃなかったの、父上!?」


「ぐおぉ」


 父さんを責め立てる兄弟たち。

 確かに父さんは、この世のすべては鍛錬であるかのように俺たちに教え、俺たちを鍛えてきた。

 父さん自身「わしは魔道一筋で生きてきて、それはこれからも変わらない。だからこそわしは強い」と言っていた。

 だから、出稼ぎと称して卑猥な店とやらで遊んでいた父さんを非難したくなる気持ちもわからないではない。

 だけど……父さんは俺たち四兄弟を鍛え養うのに必死だったはずだ。少しくらいの息抜きは必要じゃあないか?


 仕方ない。ここは俺が。


「兄さんたち。父さんだって俺たちを育てるのに苦労したはずだ。だからヒワイナミセに行ったことくらい許してあげようよ。たった一度じゃないか。ねえ、父さん? たった一度、ヒワイナミセとやらに行っただけじゃないか。ヒワイナミセに、一度だけ、行った。それのどこがわる


「やかましいわああああああああ!!!! 一度一度うっさいわああああああ!!! わしはまだ一度もイッてないんだよおおおおお!! 不発なんだよおおおおおお!!! 何度も通ってるのによおおおおおおお!!! ジュリアちゃんに赤ん坊呼ばわりされながらも足繁く通うわしの気持ちが下半身のイキがいい小僧どもにわかるかあああああ!!! この鍛錬バカどもがああああああ!!」


 ……。


「赤ん坊扱いされるのが癖になってたんだよおおおおお!!!! 悪いかこのガキゃあああああああああ!!!!」


 叫びながら右手に魔力を溜める父さん。

 あ、あれは……サークレイ流最強魔法の一つ!!


「ヘルファイアアアアアアアアア!!!!」


 ブォォォォォォォォォン!!



◇◇◇◇◇



 ヘルファイアは兄さんたちのバリアで難なく防がれた。


 その後の俺たち兄弟の調べで、父さんは生活費のほとんどを例のヒワイナミセとやらで使っていたことが発覚した。

 兄さんたちは父さんに愛想を尽かしたようで、町に出ることにしたらしい。

 父さんはというと、時折発狂しながらも、基本的にはブツブツ何かを呟くだけの廃人になってしまった。


 兄さんたちが道場を出よう、というところで次兄ギャブルが足を止め、こちらを振り返り声をかけてきた。


「ジュライド、おめー、本当に俺たちと一緒に来ねえのかよ?」


「うん。悪いけど兄さんたちとは行けないよ」


「んー……ま、よくわかんねえけど、好きにしろや」


 興味ない、とばかりに耳の穴を掻き、道場の門を出るギャブル。


「君の魔法はまだ未熟だ。町に出たら恐らくギルドに所属することになると思うが、一人で大丈夫か?」


「大丈夫だよサビ兄さん。兄さんたちから見たら未熟かもしれないけど、俺だってサークレイ流魔法の鍛錬を一緒に積んできてるんだ。いつでも兄さんたちとの鍛錬を思い出して、やっていくさ」


 俺の回答を聞くと、サビ兄さんは満足げに笑って道場を出て行った。


「どうしたんだい、ナーユ兄さん?」


 残ったのはナーユ兄さんただ一人。


「あのさジュライド……困ったことがあったら、すぐ呼んでよ? 駆けつけるからさ」


 上目遣いで潤んだ目でこちらを見てくるナーユ。こうしてみると、女の子にしか見えないな。


「うん。わかったよ」


「絶対だからね? 僕はジュライドのお兄さんなんだから。手紙、出すからね?」


「わかってるさ」


「約束だよ?」


 やれやれ。指切りなんて歳でもないだろうに。

 そう心で苦笑したところで、ナーユの屈託のない笑顔の前には無意味なのだが。


 ナーユが俺にこだわるには理由がある。

 俺たち兄弟の中で、サビとギャブルの魔法の才能はぶっちぎりだ。だがナーユと俺は、彼らとは一段どころか二段、三段……十段でも足りないくらいの差がある。

 だから二人でよく夜中に秘密の鍛錬をしたものだ。同い年だというのも手伝い、俺たちは仲が良かった。

 彼は女の子のような見た目だからか兄たちによくからかわれた。人一倍鍛錬に励み、強くなろうとしていたのにだ。

 そんな彼が唯一、対等に向き合えるのが俺だったわけだ。

 まあ、それでも魔法の腕前は俺より遙かに上なんだが。


 ナーユが出て行ったのを確認し、俺は、ふう、と溜め息をつく。


 父さんは後ろでぶつぶつわけのわからないことを言っている。


 今までの恩を忘れて父さんを放るなんて酷い兄たちだ、とは思わない。


 だからこれは俺個人の願いだ。


 俺はこの道場が好きだ。このままここを捨てるなんてできない。

 育ててくれた父さんを見捨てておけない。


 俺は、この道場を立て直すことを決意した。

 兄たちには心配をかけないために話さなかったが。

 兄弟最弱の俺が何言ってんだって笑われるかもしれないけど、それでも俺はやってみせる。


 だって俺は、サークレイ流魔導士、ジュライド•サークレイなんだから。

 ね、父さ


「うぎょああああああああああああああああああああジュリアちゃあああああああんんんめっめしてえええええまんまたべさせてええええウボギャベッラアアア」


 最強の魔導士である父さんを赤子扱いしたヒワイナミセのジュリアとかいう奴も、相当な強者だろうが……俺がいつか仇を討つからね、父さ


「ぼぎゃああああああああああジュリアちゃあああああああんよがいい! あんよがいいよおおおおおおおおおおおお」

いかがでしたか?

毎日更新でやっていきますので、次話もよろしくお願いします。

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