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もしもその幸せな日々が続いたなら、(Bコース・前編)

和解の彼視点。


※蛇足追加しました。

 手を掴むと、彼女は振り返りもせず、―――消えた。


 え? とつい呆けた声が出てしまった。

 けれど、仕方がないと思う。

 今まで彼女が何の反応を示さず消えるなんてなかった。

 だから、俺は迷子の子供みたいに周りを見回した。

 自分でも情けないと思う声で彼女の名前を呼ぶ。





 ―――すると、上から声がした。


 太い幹に座ってねぇ!と俺を呼ぶ姿は、意図してかそうでないかわからないけれど、まるでいつの日か二人で並んで村を見つめた時のようだった。

 ぐっと鼻の奥から懐かしさがこみ上げてきて、でも、それを飲み込んで、俺はあの日のように今行くよー! と返した。

 剣や防具を外して身を軽くすると、するすると登って行く。

 何度も登っているから手慣れているけれど、この木はこの辺で一番高いから、少し時間がかかる。

 加えて足をかけるところが行ったり来たりしているから一瞬彼女が見えなくなってまたいなくなるのではないかと不安になった。

 けれど、登り切ると彼女はてっぺん近い枝に腰をかけていた。

 ついホッとしてしまう。



 彼女は俺の姿を見ると、すぐに横にずれて、座る場所を作ってくれた。

 俺はありがたく座らせてもらう。


 ―――そして、村を見る。

 前に来たのは約一年前のことだ。

 彼女を殺してしまって、自責の念にかられて、英雄讃美のようなものから逃れたくて、誰かに俺の罪を責めて欲しくて、彼女の家を訪ねた。

 けれど彼女の父は俺を責めるなんてことをしなかったし、それどころか彼女を殺した俺に謝ったのだ。

 悪いのは、全て俺だったのに。


 その時のことを思い出して、つい眉に皺を寄せてしまう。

 でも、不意に彼女に手を掴まれてはっとそちらを向く。

 彼女は俺の手を見ながら摘んだり、揉んだりしていた。

 その横顔は真剣だけれど、していることは小さい頃と変わらなくてつい口角が上がってしまう。

 彼女は生い立ちのせいか昔から大人びていたけど、変なところで幼かった。

 たまーにしかなかったが、俺に甘えるようにすり寄って抱きついてきたり、少し拗ねて唇を尖らせたりした。

 大きくなるにつれちょっと煽っているのかと思ったけど、もちろん彼女にそういう気はないだろう。

 まあ、こんなことをしてくれたのは俺だけだろうけど。


 ふにふにと俺の手を夢中で触る彼女を横からじっと見つめるが、どうしようか。

 にやけが止まらない。

 彼女の前ではいつでもかっこいいと思われたいから、振り向かれても平気なように頬を引き締めようとするけどどうにもならない。

 勇者になるまでにしていた筋トレは表情筋には意味ないようだ。


 だが、彼女に大きくなったわね、と言われて、キュッと表情が引き締まった。

 そして、すぐに答えたのは俺が一番望んでいたこと。

 ―――ずっと君と並びたかったから。


 彼女はいつも俺の前にいたと思う。

 職業(ジョブ)を早く選んで、村の人を治したいと未来に向かっていた。

 俺はそんな彼女の背中を見つめることしかできなくて、早く追いつきたくてもいつまで経っても彼女は前にいて、俺も彼女みたいになれたら気持ちを伝えようと思っていた。

 胸を張って横に並べることができたなら。

 ―――その予定は俺は俺は勇者に、彼女は魔王に転職したことで崩れ去ってしまったけれど。

 でも、俺の気持ちは変わっていない。

 いつでも心には君がいて、追いかけ続けた。

 君と並んで生きていきたいから。


 俺の言葉を聞くと、彼女は一瞬ピタリと止まって、そして顔を上げた。

 澄んだ涙が伝うその顔は、笑っていた。

 彼女は言った。

 じゃあ、私も同じね、ずっとあなたの隣に並びたかったの、と。


 それは彼女も俺と同じことを思っていたということで、少し驚いたけれど、嬉しくて、ただただ嬉しくて、彼女につられて涙が出そうになったけれど俺はそれに耐えて彼女を抱きしめた。


 ―――捕まえた。もう、離さない。


 俺の腕の中の彼女は温かくて、いい香りで、それに柔らかかった。

 戦士が酔ってよく下劣な話をするときに、女はどこもかしこも柔らかくていいぞと言っていたけど、今だけは大いに同意したい。

 他の女がどうとか知りたいわけじゃないけど、彼女は確かに細くてまるでクッションを抱いているかのように柔らかい。

 一生抱き締めていたいくらいだ。


 そう思ったとき、彼女は俺の背中に手を回してくれた。

 そして、耳元でポツリと呟かれた。

 大好きよ、と。


 それはずっと逃げられ続けていた俺にとってはなによりも嬉しい言葉だった。

 確かに彼女の反応を見れば、なんとなくわかったけれど、確かな言葉があるとないとでは大違いだ。

 やっと、その言葉が聞けたと思うと涙が流れていて、俺もおんなじだと伝えたくて、俺もだと言いながら掻き抱くように腕の力を強めた。

 俺たちの体は横に並んでいるけれど、ぴったりとくっついていて、彼女の早い心音が伝わってきて、俺の心臓も早鐘を打っているから同じ速さなら二つをくっつけて一つの心臓にすればいいのじゃないかと思った。

 というより、正直彼女とならなんでも共有したい。

 いっそ溶け合いたい。


 けれど、彼女は少し強い力で俺と離れた。

 彼女の嫌がることはしたくなかったから俺は大人しく彼女と少し距離を置くことになって、本当はすごく名残惜しいと思っていると彼女の手が俺の頬に伸びてきた。

 彼女はまっすぐ俺を見つめていて、俺も彼女の綺麗な瞳を見つめたけれど、つい唇が目に入って、彼女の親指が俺の唇を掠めると、我慢できずにそれを重ねた。

 んっ…! と少し驚いた声が上がる。

 けれど、彼女は俺の胸に当てていた手をギュッと握って嫌がることはなかった。

 俺は目を閉じて彼女を堪能していたけど、彼女が見たくて、瞼をあげると、彼女と目が合った。

 その目は見開かれていて、驚かすつもりはなかった俺はキスの前に言うべきことがあることに気づいて、彼女に言った。

 好きだ、愛している、と。


 すると、彼女は一瞬固まって、かぁっと耳まで真っ赤にして視線を逸らした。

 それを追いかけるように顔も横を向こうとするけれど、俺はそんな彼女が愛おしくて、手を回して腰を捕まえてまた唇を奪った。


 その感触は柔らかくて、ちゅっちゅ、と音を立てて啄ばむように彼女の唇に自分のものを何度も押し当てる。

 俺は彼女にもっと浸りたくて、少し開いていた口に自分の舌を捻じ込んだ。

 びくりと彼女の体が揺れて引くけれど、抵抗らしい抵抗はなくて、俺はそれに気を良くして腰に回している手と別の手を彼女の髪に差し込んで深く、深く、自分のを入れる。

 その味は極上の果実のようで、正直この世の何にも彼女の美味しさには敵わないと思う。

 俺は彼女を味わうように歯列をなぞり、舌を根本から舐め上げる。

 すると、んあっ、ああっ…! という艶っぽい声が聞こえて、目を開けるとギュッと目を瞑った彼女が頬を上気させていて、歯止めがきかなくなって、合間に愛する彼女の名前を呼びながらこの至福のときを堪能した。

 正直言うと、俺の下半身も喜び上がってる。


 けれど、彼女は慣れないことに耐えきれなくなったのかさっきのように強い力で俺を押しのけた。

 ぷはぁっと俺から離れたその表情はなぜか少し不機嫌だけど、瞳は潤んでいて、唇はお互いの唾液でてかっていて、なんか、もう、イロイロとやばい。

 彼女は俺を試しているのだろうか。

 でも、彼女をたっぷり味わえて一旦は満足だ。


 ご馳走さま、と思いながら笑って彼女を見ると、彼女は少し唇を突き出していて、それが催促のように思えて俺はまた顔を近づけるが、彼女は手を押し付けてそれを遮った。

 そんなに強い力じゃないが、俺はそれを甘んじて受けた。

 だって、彼女がこう言ったからだ。

 誰に習ったのよ、と。


 それを聞いて俺は一瞬思考が止まった。

 ―――だって、だって、彼女が、そう言う感情を見せてくれたのは、初めてだったから。

 つまりこう言うことだろう。

 自分は慣れていないことなのに、俺は知っているかのようだったから嫉妬してしまったのだ。


 それに気づいた俺はにやけが止まらなくて、ついそのままの顔で言った。

 俺は君にしたいことをしているだけだよ、と。


 その言葉を聞いた彼女の表情が想像つくだろうか。

 ただでさえ赤い顔をカッと茹で蛸のように真っ赤にしたのだ。

 あーもー、可愛いなぁーーー!!


 ああ、どうしよう。

 このまま彼女を誰も近寄らないどこかに閉じ込めて俺だけを見させて俺だけを感じさせてなにもかも俺だけになるようにして朝も昼も夕方も夜も真夜中もずっとこうしていたい。

 そしてずっと味わっていたい。


 そう思うと俺の行動は早かった。

 手始めに俺の頬に当てられていた彼女の手のひらをれろりと舐め上げた。

 ひゃうっ! と彼女の驚く声がして、すぐにその手は逃げそうになったけど俺はそうはさせずに手首を掴んで彼女を満喫する。

 彼女は途切れた声で、やめてと、汚いと言ったけれど、彼女の足の爪の先からてっぺんまで汚いところなんてあるわけがない。

 見上げると彼女が快感を得ていることがわかって、それが嬉しくなった俺は手のひらから指の間まで舐め上げ、最後は親指を赤ん坊のように加えてちゅぱっと離した。

 俺の唾液で濡れる彼女の手が俺のものであると主張されているようで、満足だ。

 そして、もう一度彼女を味わおうと顔を近づける。


 だが、彼女はそれを遮るようにねぇと俺に声をかけた。

 それは真剣で、俺は話を聞くために彼女の腰を引き寄せて瞳を見つめた。

 ああ、目尻に溜まった涙も吸い取ってあげたい。




 彼女は俺をまっすぐ見る。

 そして、ポツリポツリと呟く。


 私は、罪を犯した。


 彼女の表情が苦しそうに変わった。


 沢山の人を殺した。


 彼女は唇を噛みしめた。


 人に人を殺させた。


 彼女の眉間に皺が寄った。


 ―――そして、貴方に私を殺させた。


 彼女の瞳から溜まっていた涙がついに溢れ、流れ落ちた。


 彼女が、そんな風に思う必要はないのに。


 だって、君はことわりに従っただけ。

 確かに彼女は人を殺めたけれど、戦争が続けば魔王の襲撃以上の被害が出ていた。

 だから、君は正しいことをしたんだ。

 確かに君を殺めてしまったときは狂いそうなくらい苦しかったけれど、もう、いいんだ。

 君がいれば。

 俺は君がいるだけで、君が隣にいてくれさえすればいいんだ。

 君が自分が犯したことに苦しむのなら、いつまでも隣にいる俺に分けてくれ。

 一緒に背負おう。

 俺だって君を殺めた罪がある。

 それは許されることではないと思う。

 一生君に償っていくつもりだ。

 だから、だから―――……





 ―――こんな日がずっと続く?




 そう問われて、俺も同じことを問おうと思ってて、彼女も同じ気持ちであることが、ただそれだけが今は嬉しくて、俺はくしゃりと笑った。

 彼女の前ではいつでもカッコ良くありたいのに、なんだか泣いてばかりで情けない。

 けど、いいんだ。

 これから、彼女と一緒にいるなら、お互い意外なところを見ることだってあるだろう。


 この、幸せなときは、続くのだから。







 ―――もちろんだ。










 次はお互い顔を寄せて、唇を重ねた。








いちゃいちゃ。



勢いで書ききった気がします。

あーもー、爆発しろ!!


次の更新は恐らく週末かと。



蛇足。

彼女を追いかけている間によく魔術師から届いた(一方的な)メッセージの例(千羊の勝手な解釈)

捜索一日目『適当に探していれば見つかるだろ』(方角はそこそこ正確だから気落ちすんじゃないわよっ!)

捜索二日目『金が足りなかった時のために送ってやる』(野宿なんかして、風邪ひいたら承知しないんだからねっ!)

捜索三日目『お前の恋人は魔王の力を持っているからそこらの魔物に襲われても大丈夫だろ』(恋人は絶対無事に決まってるじゃないっ!)

捜索四日目『恐らくお前の恋人は魔王に転職したことによって魔力量が跳ね上がり、空気中にある魔力を探知することで空間感応能力も同時に上がり、転移魔法を…うんたらかんたら』

捜索五日目『父が美味しい菓子を仕入れたそうだ』

捜索六日目『母がお前の恋人にと宝石を選んでいる』

捜索七日目『いい新薬ができた。実験台になれ』


うーわー、拗らせてるぅ(巻き舌

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