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彼は勇者だから、彼女は魔王だから、  作者: 千羊
ある人々のはなし
21/28

その予言の先

予言者視点。


※短いです。

 未来はうつろう。


 それは予言者であるわたしが常日頃から感じていたことでした。

 未来を見ても、それは決まったことではありません。

 周りにぼやりと他の可能性の未来が浮かんでいるのです。

 今一番なりえる未来は真ん中に、はっきりと。

 それ以外は輪郭が薄く、ほとんどありえない未来は霞んで見えます。

 けれど、それが入れ替わることもあります。

 何が原因かはっきりとはわかりませんが、たくさんの出来事が重なり合って、未来は一刻一刻と変わっていくのです。


 それはわたしにとって嬉しいことでした。

 ありえた未来は幸せだったり、不幸だったり様々です。

 けれど、一人一人の行動が確実に未来に繋がっていることが、これからの未来が、わたしたちの未来が少しでも自分で変えられることが何よりも嬉しかったのです。






 ある日、わたしはとある未来を見ました。

 それは寝ている時でした。

 わたしは意識的に未来を見るときと、突然見える未来があります。

 予言者の能力はそのはっきりした未来もぼんやりとしている未来も入り込むことが出来るのです。


 ―――まるで、自分がその場にいるかのように。


 だから、なんの未来だろうと一番はっきりとした未来に飛び込みました。




 いつものようにまるでわたしがその未来の場所にいるように眺めていました。

 そこは小さな村のようでした。

 そんなに大きくはない家が二つ並んでいます。


 突然、蹄の音が響き、わたしは顔をそちらに向けました。

 そこにいたのはどこかで見たことあるような騎士。

 そいつはゴテゴテとした鎧に身を包み、疲れた黒馬に跨っていました。

 そして並んだ家の前を見ると、顔を顰め、馬を繋いで戸を強く叩きます。

 ドンドンドンドンと遠慮ないノックに、その家の住人が顔を出しました。


 ―――扉から出て来たのは眉間に皺を寄せた強面の男。

 騎士の姿を見ると、一層皺を深くし男は、なんだ、と言いました。


 騎士はその姿に一瞬怯み、息を呑んだが、すぐに立て直して懐から紙の束を取り出しました。

 そして少し上ずった声で言いました。

 ここに娘はいないか。

 勇者から手紙を預かっている、と。


 男はそれを聞いて、ただでさえ恐ろしい顔を歪めました。

 そして、一度も視線を下に向けるとまた戻し、騎士に言いました。

 娘はもう、いない、と。


 騎士はさっきとは違う意味で息を呑んだ。

 じゃあ、どうすれば、と。


 どうやら騎士は勇者に手紙を届けるように頼まれているようでした。

 しかし、その相手がいないので困っているのでしょう。

 そしてその相手とはわたしの妹。

 ここは、妹の生まれ育った村なのでしょう。


 男は慌てる騎士に手を掛けたな、というと、一度中に入り、一枚の紙を持って来ました。

 そして言いました。

 これを勇者に渡してくれ、と。


 騎士はそれをしかと受け取ると、また黒馬に跨いで去ってしまったのでした。



 そして、場面が変わりました。



 そこはどこかの街でした。

 大きな街で、人が集まって、大盤振る舞いに飲み食いしています。


 その中に見覚えのある男がいました。

 いや、男というにはまだ幼い、青年に近い少年といったほうがなんとなく近い気がする人。

 それは、わたしが何度も未来で見た勇者でした。


 勇者は誰かに話しかけられると、紙の束を渡されました。

 それは、わたしがさっきまで見ていたもの。

 勇者自身が書いたものでしょう。


 それを受け取った勇者は驚きに目を見張ります。

 そして、束ねていた紐の中から自分には見覚えのないであろう紙を引っ張り出しました。

 乱暴に開いて、中を読むと、勇者は固まってしまいました。


 わたしが近寄り、中身を覗くと、そこに書かれていたのはこうでした。

 娘は死んだ、と。

 ただそれだけが不恰好な字で書かれていました。


 ただただ唖然とする勇者に仲間たちが近寄ります。

 勇者はまるで、抜け殻のようでした。



 それから場面が何度か変わりました。

 そこには自失状態になった勇者が映り、その隣には癒術士のお姫様が心配そうにしていました。

 映っては変わる場面の中で、勇者が段々とお姫様によって心を癒されていくのがわかります。

 それは恋などの好意だったのか、それとも自分の恋人を亡くして縋ったのか。

 けれど、確かに二人は仲を深めていったのです。


 そして、最後に映ったのは勇者とお姫様の結婚式。

 恋人を亡くして2年以上も経っているからか、その表情は随分と明るいものでした。

 幸せそうに、見えました。




 そうして、その未来からわたしは出て来ました。

 これは、妹の恋人である勇者の未来なのでしょう。

 彼はきっと、お姫様と幸せになるのでしょう。

 ―――今のままであれば。







 わたしはそれ以外の未来をその時は見ませんでした。

 けれど、またある日、この未来の夢を見たのです。


 しかし、そこに映ったのは全く別の未来。


 妹の弟が手紙を受け取り、勇者が妹に会うために自分を追い込むもの。

 その中にはお姫様の付け入る隙なんてありませんでした。


 何がどう影響してこの未来が一番近いものになったかわかりません。

 けれどこの未来の先には、妹が―――……


―――自分の幸せを願いましたとさ。



どうやったら、お姫様と勇者が結ばれるかという話。

実はこういうルートなら二人は結ばれます。

まあ、もうありえないんですけどね!


次で最後です。

未来のはなし。

『夢のゆめ』お楽しみに。

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