呟く道化。
ある晴れた曇り空の下、チョコと胡瓜と珈琲と紅茶が鍋の中で踊っている。
晴れた日は嫌いだ。だから曇る。日差しを遮り、モクモク曇る。雲はモクモク曇ってる。
鍋に紅茶を足す。明るい曇り空は孤独日和だから、栞を挟んだ紙束の三行目の文字列の一七文字目。紙束を一枚捲り一文字目。目を振り回す。
チョコと珈琲を鍋に入れる。紙束は薄くなった。現実が鞄の中で騒ぐから相手をしてやると、散々踊った挙げ句はいなくなった。来客の痕跡を排除して、排除して、排除して、胡瓜を鍋に入れる。グツグツ煮立つ中身を見なかったコトにして、紙束から好奇心を奪っていく。奪っていく。なくなった。
紅茶にはビスケット。紅茶にはクッキー。紅茶にはジャム。胡瓜と味噌。塩。
珈琲を鍋に。瞼に夢を、唇に微笑みを。徒然なるままに心に映し出した善し悪し事を書きつくれば、時間は天気から価値を奪っていた。夜は長い。チョコを鍋に。チョコを鍋に。
胡瓜には塩。ヘタに包丁。下手に刃を向けて引く。ザクリザクリザクザクザクリサクサクタラーリ舐めておく。人間の大部分は水分らしい。胡瓜の大部分は水分なのだ。胡瓜を鍋に。胡瓜を胡瓜を胡瓜を鍋に入れて入れてキュウリを入れてよく噛んで唾液と混ぜて噛み砕いてグチャグチャのキュウリを入れて鍋にはそんなキュウリ。
ワインは血であると言われる。パンは肉であると言われる。それならばブドウは肝臓で小麦粉はタンパク質になってしまうじゃないか。なってしまうじゃないか。
血を鍋に。甘く苦く美味しい血をたっぷり鍋に。もうキュウリは要らない。キュウリを拒めば珈琲も終わる。チョコと紅茶は退場させた。パンは要らない。たっぷりの血を鍋に入れたい。金がない。
夢は夢のままで。花壇に並べられた紅い百合の花々、そこで笑うしかない花々はとっても綺麗ね。鉢植えに移して私の手元に置いてあげる。キュウリを折る。
金はないが血が欲しい。人に成れた日の甘い血が。キュウリの皮を包丁で削ぎながら思う。百合の花々は綺麗だ。
僕は胡瓜でなくていい。お前達は胡瓜であるはずがない。だって胡瓜は美味しいのだから、不味いお前達は胡瓜ではない。
はぁ。チョコがない。
どう?
これは多分、僕が見た君だよ。