エピローグ
「雅雪ちゃん、はーやーくー」
「れいちゃん、早いよー」
あの日以来、鈴悧はハラハナへ通うようになり、雅雪にもすっかり懐いていた。
時は流れ、七月七日、土曜日。近所でお祭りが催され、雅雪、鈴悧、武田の三人は仲良く、一緒に楽しんでいた。
お祭りということで雅雪は白地に椿柄の浴衣を、鈴悧は白と水色がさわやかな印象を与えるつばめ柄の浴衣を着用している。鈴悧も着物に随分慣れたようで、動きに不自然さは感じられなくなっていた。
端から見れば姉妹のように仲睦まじい二人に、一人の男が怒りを隠せず声をかける。
「……おい」
「あっはは、たけ坊、そんなに怒らないでよ。楽しいでしょ」
驚きなのが、武田は鈴悧に甘いということだ。『たけ坊』というのは鈴悧がつけた武田の愛称らしい。
私が呼んだら絶対怒るのに、と思うけれど、武田に比べたら小さい、それもとんでもなく可愛い男の娘に逆らわないのは見ていて少しおもしろい。
「あっ、林檎飴。たけ坊、買って! 二つね」
「てめぇ……自分で買えよって言ってんだろうが!」
「といいつつ買ってくれるたけ坊大好きー。はい、雅雪ちゃんもどーぞ」
「れいちゃんありがと。たけ坊もね」
「おい、今なんつった」
ぎゃいぎゃいと騒がしく回っていると、前に藍色の浴衣が見えた。
目線を上げればいつものように穏やかな笑みを浮かべる遠井で、ゆっくりこちらへ近付いて来る。
「――雅雪ちゃん」
名前を呼ばれる。
今日は、彼に伝えなければいけないことがあるのだ。
「れい、いくぞ」
「はいはーい。雅雪ちゃん、あとで話聞かせてね」
なにも言わずともなにかを察した二人は、早々に去っていく。二人の後ろ姿を見て、もう逃げられないなぁと考えながら、雅雪は遠井の目をまっすぐに射抜いた。
「返事、聞かせてくれるんだよね」
一週間前、雅雪は改めて遠井に告白された。すぐじゃなくていい、でも七日までに返事がほしいと、初めて見る真剣な顔で告げられた。
「はい」
人々のざわめきが遠井。花火だね、と話す声も、どこかから響いてくるような感覚だ。
カウントダウンが始まる。
さん、
息を吸って、吐いて。
にい、
それから大きく息を吸って。
いち。
「私は、遠井さんが」
ドォン、と空に大輪の花が咲く。それは二人の頬を赤く照らし、そして――