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第三十五話 本当の決戦

 数日後の昼間。天気は快晴。かつての天者達が拠点があった高原。

 破壊された拠点の瓦礫は綺麗に撤去されている。少し離れた丘の地面には、以前ガルゴが生み出した、巨大なクレーターが二つある。

 一つは葉子の城を破壊したときの物で、現在底には水が溜まって池になっている。もう一つは七首石眼との初めての戦闘で開けた、比較的新しい大穴だ。

 そしてこの場所で、彼らのこの世界での最後の戦い、天者達と魔王=ストラテジストの因縁に、決着がつけられようとしていた。


 見晴らしの良い丘の地面に、二匹の怪獣と三十余名の戦士達が、来るべき敵を迎え撃つために待ち構えていた。


「もうすぐ来るわ。あと十分以内に……」

「判ってるよ。こっちにももう、あのおぞましい気配が伝わってる」


 葉子の占いによる探査など、もう必要ない。天者達が、自分を狙ってくる最後の敵に出現に、全員が気を引き締めていた。

 皆が武器を持ち、鷹丸はすでに変身済みで、完全な臨戦態勢である。鷹丸=ガルゴに関しては、何度も深呼吸を繰り返しており、大技発動の準備が出来上がっていた。

 やがて見晴らしの良い丘の下の方から、無数の影がこちらに迫っているのが見え始めた。


「とうとう来たか……」


 それはあの石眼達の大群であった。数千匹……いや万単位かも知れないほどの、大蛇の大群が、地面を埋め尽くし這いながら、この丘を登ってきている。向かう先には彼らの標的である天者達がいる。


「鷹丸、お願い!」

『おうよ! 全部吹き飛ばしてやる!』


 グングンこちらに寄ってくる、石眼達の大群。それと同時に、ガルゴが他の天者達から離れて、丘を駈け降り始めた。

 先頭にいる者が矢のような尖った布陣で走り、あと一分も経たないうちに、彼に激突するまで近づいた。


 その直後に、いままで何度も深い呼吸を繰り返してきたガルゴが、思いっきり息を吐き出した。

 吐き出したのは息だけではない。大口を開けたと同時に、その鰐のように大きな口から、青い光が凄まじい勢いで放出された。

 それは青炎熱線。映画の時からのガルゴの必殺技で、鷹丸が変身したガルゴも持つ、彼の能力である。それが限界にまで気合いを高めた威力で一気に発射されたのだ。

 発射方向は自分たちが立っている丘の下。自らに接近してきている石眼達の大群にである。


 ズゴォオオオオオオオッ!


 青い輝きが、この高原全体を青白く照らす。そしてこの丘の広い領域を、青い火事で包み込んだ。

 ガルゴの極大な青炎熱線が、距離をとるごとに大幅に拡大し、石眼達の大群が走る大地を包み込んだ。


 何千という石眼達が、青い炎に包まれて消える。その熱量・衝撃力は、どれほどの威力なのか、全く想像できない。今まで最大のエネルギーで発射された青炎熱線は、石眼達を次々と吹き飛ばした。

 前線の近い距離で熱線を受けた石眼達は、その攻撃により、骨も残らず悲鳴すら上げられずに消し炭になって、この世から消滅した。

 そして後続にいた石眼達もまた、消失とまでは行かなくても、全身が焼けただれて絶命していく。


 ジャシャ~~~~~~!


 後続にいた石眼達の悲鳴が、この高原に広く高らかに鳴り響く。群れの先頭にいた千匹以上の石眼達は、死体など欠片も残らなかった。

 先頭より後ろの位置にいた者達は、肉や皮の大部分が炭となり、黒焦げの骨だけが残って死に絶えていた。

 その更に後ろにいた者達は、肉は残っているものの、全身が真っ黒に焼け焦げて、全身が重度の火傷で絶命していた。

 白い蛇達は、今や黒い蛇となって、地面に横たわって動かない。その更に後ろにいた者達は、全身に火傷を負っているものの、絶命にまでは至っていない。ある物は焼かれた痛みで、身体を魚のようにばたつかせて悶絶している。

 ある者は生きてはいるものの、身体を全く動かせずに虫の息だ。

 そして更に後ろにいた者達は、熱線で相応のダメージは追ったもの、戦闘不能には至っていない。しばし怯んではいたものの、まもなく体勢を立て直して、再び突撃する。


 ちなみに前者二つの石眼達がいた地面には、毎度恒例の、巨大で真っ黒けのクレーターが出来上がっていた。

 その規模はこれまでガルゴが生み出した者の中でも、最も大きい。離れた所にある二つのクレーターの、倍近い大きさである。


「すげえな、おい……。これが大怪獣ガルゴの力か?」

「そうだね。それに今の鷹丸は、もう完全復活してるし」


 一発で半数以上の石眼達を殲滅したガルゴの力に、更に高いところに傍観していた他の天者達が、唖然とした表情で見ている。それを翔子が、何故か誇らしげに語る。

 実はこの世界に来た直後の鷹丸は、健常状態よりも、力が弱体化していた。彼は異質な存在であるが、それでも天者である。死と再生があれば、その力は一時的に弱まる。


 彼はこの世界に来る前に一度死んでいた。そしてそれ以降は、ずっと弱体化のハンデを背負って戦っていたのである。

 だがこの世界に来た直後のガルゴは、それ以前に魂だけで来訪したときと変わらない戦闘力を持っていた。それは即ち、魂と肉体両方で変身した今のガルゴの力は、以前よりパワーアップしたと言うことに他ならない。

 そしてその真の力が、今この場で初めて発揮されたのだ。


「まだもう少しいるわ! 妹尾君、まだいける!?」

『大丈夫だ! 今の俺の力は、無尽蔵だ!』


 後続から迫ってくる、生き残った石眼達が、仲間の死骸を踏みつぶしながら、迷わず突進してくる。

 前の方にいた、あの熱線を受けて弱った石眼が、後ろから来た石眼に追いつかれて、彼らもまた生きたまま踏みつぶされている。彼らには死への恐怖心というものは、微塵も感じられない。


「意思ってもんが、微塵も感じられねえな……」

「そりゃそうよ。全部ストラテジストの操り人形らしいし」


 やることが何もないまま傍観している天者達。そうこうしている内に、ガルゴが二度目の青炎熱線を発射した。

 先程より威力は低下したものの、それは残りの石眼達を全て片付けるには十分なものであった。二度目の青い輝きが、高原に広がる。

 それによって石眼達は、残らず消し飛び、あるいは黒焦げになって絶命した。


 天者達が前線に出るまでもなく、全滅した石眼達。だがこれで終わりでないことは、この場の誰もが判っている。


「やっぱり来たか……もっとやばい気配が近づいているぜ」

「ええ……さっきの雑魚共は、全部捨て石ね。こちらの実力を測ったのかしら? そんでやっぱり本命は、逃げずにもうすぐ来るわ」

「皆気を引き締めろ! 多分妹尾1人じゃ、相手しきれねえ!」


 丘を駆け上る、二つ目の勢力。その規模は、先程の石眼の大群よりも、ずっと小さい。だがその脅威は、先程とは比べものにならないレベルだ。

 彼らにグングン近づき、その姿が常人の視力でも、この丘の上から視認できるようになる。


「「「ジャァアアアアアアアアッ!」」」


 再び無数の石眼達の鳴き声が上がる。その声の数は、先程よりも少なく、だが高さが上がっている。

 それは合計八匹の、七首石眼達であった。その八つの巨体が、大地を削り這いながら、この丘を昇ってきている。


「本当に現れやがった。しかも前に葉子が言ったよりも、数が増えてるし・・・・・・」

「強さは前に出たときと同じだと思うか? 特撮の再生怪人みたいに、弱くなってるとありがたいんだが?」

「そんなの戦ってみると判るわ! 行けぇ、妹尾! あの気持ち悪い奴らを、消し飛ばせ!」


 既に三発目の青炎熱線の準備を終えたガルゴ。既に七首石眼達は、先程の石眼軍と同じ距離にまで接近してきている。

 一発目二発目で作り上げた、真っ黒なクレーターを這い上がる七首達。それらに対して、ガルゴは三度面の青炎熱線を放った。

 七首達は、右から左へと横に広がるように走っている。ガルゴは彼らを全て巻き込むために、青炎熱線を放射しながら、首と胴体を動かし、熱線を左から右へと、ホースでの水やりのように動かしながら発射した。

 三発目の青い輝きが、横に広がりながら放射され、轟音が鳴り響く。七首達は、その光に包まれて、天者達の視界から一瞬消える。

 大地に開いたクレーターは、更に深くなっているだろう。そのクレーターの両横には、一直線に少し浅いクレーターが、道路のように伸びていると考えられる。これは七首達が、これで全滅してしまった場合の予想図だ。


(これで終わったか? 終わると良いんだが……)


 光が収まった後、このまま自分たちの出番がないまま、戦いが終わるのであれば、それはそれで構わない。その場の多くの天者達が、そう考えていた。

 だが現実はそう甘くなかったようだ。七首達は皆生きていた。全ての七首が、あの熱線を受けて、その勢いである程度後退したものの、それでダウンとまではいかない。

 熱線を受けた彼らの表皮は、少し焦げており、確かにダメージはあっただろう。だが七首達は、ただ大きいだけでなく、身体強度も石眼達を遙かに凌いでいた。


「ぐう……」


 攻撃は確かに当てたのに、敵はさほど大きなダメージを負っていない。そしてガルゴは、必殺の一撃を放った余波で、少し怯んでいた。

 この短時間で三発も撃ったのだ。さっき自分の力は無尽蔵と言っていたが、さすがに連続して超大技を放てば、エネルギーの消耗と疲労は相当なものだ。一方のまだまだ余力のある、七首達。


 彼らは全ての首=合計五十六本の頭の口が、一斉に大きく開かれた。そしてそれらの口の奥から、赤い光が放たれ始めた。


「あっ、あれって!?」

『やべえぞ! 皆逃げろ!』


 翔子の顔が青くなり、ガルゴが大慌てで、皆に逃げるよう叫んだ。それに後方で見学していた天者達は迷わず、右か左かに、散らばるように逃げ出した。

 その顔に恐怖を浮き上がらせているのは、翔子だけでなく、逃げ出す天者達全員である。彼らは皆、翔子の記憶映像で、以前の七首との戦闘を見ている。そして今彼らが放とうとしている技の威力もだ。


 ズゴォオオオオオオオオッ!


 総計五十六本の、赤い熱線が、ガルゴ目掛けて一斉に放射された。放射される直前に、ガルゴは左側に飛び跳ねながら走り出す。今まで正面から、あらゆる敵を薙ぎ払ったガルゴが、今回初めて逃げの一手に出たのだ。

 全て一点を狙っていた熱線は、思いの他素早かったガルゴに、一発も当たらなかった。全ての熱線が、先程までガルゴが立っていた地面に、集中して命中する。

 そしてそこに、先程のガルゴが発した物を凌ぐ、巨大な光が発生した。そしてその瞬間、この高原の一角が、跡形もなく消し飛んだ。


 ドォオオオオオオン!


 核兵器など児戯にも思えるほどの、大量のエネルギーが拡散し、大地を吹き飛ばす。

 直撃はしなかったものの、その余波を受けたガルゴと天者達が、突風を受けた枯れ葉のように、バラバラに吹き飛ばされていった。


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