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第三十一話 決着?

 ガルゴが一つ大きな息を吐くと、鰐のように大きな口が、一気に開かれる。そしてその口の奥から、青い光と熱の、膨大なエネルギーが放出された。ガルゴの必殺技の、口から放射される青炎熱線だ。

 極太の青い光の波が、直線上になって凄まじい勢いで、七首石眼のいる方角に向けられる。そしてそれは見事に直撃した。

 どうやら七首石眼には、防御系の技はないらしい。そしてあのガルゴを越える巨体は、とても攻撃を当てやすい的で、今の攻撃を避けきることは出来なかった。


 大量の青炎を、水を被るように全身に浴びる七首石眼。七首の生えた胴体は、その勢いでやや後ろに押され、そして苦しげに身体を震わせている。


(効いてるぜ! 最初の熱線を喰らったときは、やばそうな感じだったが、別に倒せないレベルの敵じゃないな!)


 ガルゴの青炎熱線が放出し尽くされ、その攻撃が止む。一帯を包んでいた青い光が止むと、そこには全身が少し焦げた七首石眼がいた。

 それなりに効いたようで、七つの首が、風を受けた枯れ草のように、ややふらついている。熱線を吐き尽くしたガルゴは、今度は肉弾戦で挑む。

 最初の攻撃のダメージや、熱線での消耗と疲労など何のその、全力で走り抜け、七首石眼に体当たりする。


 ゴスッ!


 鹿のように前屈みになって突撃した、ガルゴの頭が、敵の七首の付け根の胴体に直撃する。その衝撃は強く、更にそこは七首の気管と食道が集まった急所でもあったので、これはかなり効いた。


「「ブハッ!」」


 七つの口から、むせ返るような鳴き声と、嘔吐がクラッカーのように弾け飛ぶ。ガルゴは頭を上げて、七首石眼の身体を上に押し上げる。

 それによってますます身体のバランスを崩した七首石眼。その七首のうちの一本を、その巨大な腕で掴み上げた。後ろに押し倒されて、身体を捻るように後方に曲げられた胴体が、それに引っ張られて、再び上に引き戻される。


『うりゃぁああっ! 死ねよ!』


 一本の首を両手で掴み、それを左右に引っ張り上げるガルゴ。その凄まじい腕力に耐えられるほど、その首は頑丈ではなかった。


 ブチィッ!


 掴まっていた一本の首が、ガルゴの豪腕によって千切られた。千切られた首の両断面から、血液が噴水のように噴き出す。

 千切られた首の頭の方は、大口を開けて苦悶に震えたが、すぐに動かなくなり、ガルゴによってゴミのように捨てられた。


「ジャジャーーーー!」


 七首石眼もやられっぱなしではない。残る六本の首をしなやかに動かし、自身の目の前にいるガルゴの身体に、一斉に巻き付いた。

 四本の首が、ガルゴの身体の各部を、ロープのように拘束する。残りの二本の首が、ガルゴの首と右腕に噛みついた。

 以前にも大石眼に噛みつかれたことがあるガルゴだが、その時よりパワーアップしたガルゴの身体は硬く、牙はあまり深く突き刺さらない。そしてガルゴも、この程度の拘束で怯んではいなかった。


 ガブッ!


 四本の首によって、四肢を拘束されていたガルゴだが、首の部分は自由に動かすことが出来た。首を少し曲げて、今自分の首に噛みついてる方の胴体に、自身も齧りつく。

 ナイフのように鋭く、大剣よりも巨大な歯が、ノコギリのように並んだ凶悪な口が、その首を噛みつき、その鱗を貫き、血を溢れさせる。


 二匹の怪獣が、双方に噛みついている光景だが、溢れ出る血の量は、七首石眼の方が遥かに多かった。

 噛まれた方の首から、水道の水漏れのように、赤い液体がダクダクと流れてくる。やがてそれは血を流すだけでなく、肉を裂き、骨を砕き、やがてその首そのものを噛み千切った。


「「ギイッ!?」」


 また一つ、巨大な怪獣の首が、地面にゴトンと無造作に落下する。そして残る五つの首が、また苦悶の声を上げて震え出す。

 それによって拘束力が弱まったようで、ガルゴが自身の拘束を、力任せに引き離した。無理矢理引き剥がされた七つの首は、その豪腕の圧迫により、泡を吹きながらガルゴの身体から離れる。


 その後ガルゴは、七首石眼から数歩下がると、急に身体を独楽のように回転させて、敵に背を向ける。

 その動きによって、ガルゴの後方から伸びる、あの巨大な尻尾が、鞭のように七首石眼に、横薙ぎに振るわれた。


 バチンッ!


 ハエ叩きのような痛快な音が鳴り響いた。ガルゴの尻尾の鞭は、先程頭突きをかました、あの七首の付け根の胴体に直撃する。

 その衝撃で、七首石眼の上半身の胴体が、後ろに倒れ込んだ。


『何だ、ラスボスっぽく出てきたわりには、大したことねえ!』


 最初の攻撃で一瞬焦ったものの、真っ向から挑めば、十分に倒せるレベルだった魔王。これに鼻で笑うように、ガルゴが倒れた七首石眼に向けて、そう言い放つ。

 その言葉に、七首石眼は、倒れた姿勢のまま答え始めた。


『我に勝てればどうだというのだ? 我を殺した後、お前はどうする? 確かに我が死ねば、他の石眼は活動を休止する。だが石になった者達は戻らんぞ』

『残念だが、その解決法は既に見つけてあるんだよ! 余裕ぶっこいて残念だったな!』

『麒麟のヤキソバの助力を得るか? それは不可能だ。奴は少し前に、冬眠中だったところを襲って、我が石に変えた。そして向こうの世界へと放り投げた』


 ガルゴの余裕は、その言葉によって吹き飛ばされた。石化病の解決策だったヤキソバは、とっくに敵の手に落ちていたのだ。


『奴だけではない。お前達をこの世界に連れてきた、あの人工精霊も、同様に石に封じて向こうの世界へと投げた。お前らにはもう、別の世界にいく手段はない。仮に我らの全て(・・・・・)を倒せたとしても、永遠にこの誰もいない世界に、閉じ込められる運命だ』

『てめえっ!』


 怒りに震えるガルゴ。押されている筈の七首石眼の方が、嫌みなほど余裕の雰囲気を見せていた。倒れた胴体を起き上がらせて、七首石眼は問いかけてきた。


『緑人も人間も、もうお前らには仲間は一人もいない。不死のお前らには、これからのこの世界を生きるのはつらいのではないか? どうだ、ここで抵抗せずに石になったらどうだ? 永遠の時間を生きるよりも、ここで石となって眠りについた方が、これから先の時間を生きるよりも、遥かに楽であろう? この石にする力は、人を殺すことはない。かつて我の祖先が求めた、永遠の命を、全ての世界の全ての人間に、分け与える救いの力でもある』

『ふざけるなぁ!』


 ガルゴが再び突撃する。今度は頭突きではなく、何と七首石眼に抱きついた。いや正確に言うと拘束した。

 両腕を大きく広げて、五本の首をまとめて縛り上げる。そのまま豪腕で一気に締め上げた。万力の力で締め付けられる五本の首が、声も上げられず苦しみのたうち回る。

 何本かが、頭や胴体そのものを武器にして、自分に抱きついているガルゴに攻撃するが、ガルゴはビクともしない。ギチギチと肉と骨が圧迫される音が聞こえてきた。


『麒麟がいないなら、別の方法を探るさ! もし見つからなかったとしても、俺は翔子と一緒にずっと生きてやる! お前なんかに、そんな馬鹿げた救済なんぞされてたまるか!』


 ガルゴの口内が、再び青い光を放ち始めた。その光は最初は小さく、徐々に火が昇るように明るくなり、やがて口いっぱいに光が放たれた。

 そして五つの首を束ねて締め付けている、目の前の敵に向けて、青炎熱線を超至近距離で放った。


『やはり我一人では勝てぬか・・・・・・』


 その青い光が七首石眼に迫る直前に、奴は一言そう呟いた。それが奴の最後の言葉であった。


 ドォオオオオオオン!


 高原に青い光と爆音が、盛大に鳴り響いた。以前城を吹き飛ばした青炎熱線を、遥かに超える量のエネルギー。それをあんな間近の敵に撃ったのだ。

 それによって放たれたエネルギーの衝撃と爆発は、向こうの世界の最大レベルの核実験を凌ぐエネルギーを放ち、熱線を放った鷹丸自身も巻き込んだ。


 近くで散らかっていた、城の残材は、爆風によって紙のように吹き飛び拡散し、この場から消えていく。

 城の前にいた清水教諭と三浦達紀、そして城の残骸の中に埋もれていた阿部葉子の石像もまた、その爆風によって明後日の方向へと飛んでいった。

 あの巨大で相当な重量であろうザリ太郎の石像さえも、ゴロゴロとおむすびのように転がって、高原を駆け下りていく。


 一帯は煙と埃で覆い尽くされ、高原には巨大なキノコ雲が立ち上っていた。


「うわぁあああっ! やりすぎだよ!」


 翔子とタカ丸もまた、この爆風で吹き飛ばされていた。爆発地点から、かなりの距離を置いており、ガルゴが熱線を放った途端、反射的にその場から高速で逃げ出したにもかかわらず、その余波をかなり受けることになった。

 嵐のような爆風に呑まれ、空をクルクル回転させながら、明後日の方向に飛んでいく。ようやく落ち着いたところで、翔子は遠くからあのキノコ雲を目撃した。


「鷹丸は!?」


 石にでもされない限り、緑人は死んでも復活可能だ。そうと判っても、心配する気持ちは沸いてくる。

 翔子はしばし、爆破地点の様子を見続けた。しばし時間が経ち、キノコ雲が形をなくし、徐々に煙が晴れていく。


 翔子は爆破地点へと飛んだ。その場所には、前にここでガルゴが開けた穴よりも、さらに六割ぐらい大きなクレーターが出来上がっていた。

 そこにはあの巨大な二匹、七首石眼とガルゴの姿はない。周辺の草原も完全に吹き飛び、もしくは焼け焦げて、この辺一帯は草一本虫一匹存在しない不毛の大地とかしていた。

 この平らな大地と、目の前のクレーターを見れば、月面の映像のような光景である。


(いたっ!)


 そのクレーターの中央に、動く者の姿と気配に気がつき、翔子はそこへと飛び降りた。熱線の影響で、火山地帯のように熱くなっている、クレーター内部の地面。強い熱で、一帯の空気が揺れ動いている。

 それにも構わず、翔子はクレーターの中で走り、そこにいる人物に抱きついた。


「おう、翔子・・・・・・勝ったぜ。これで全て終わった」


 翔子に抱擁されながら、地面に仰向けに倒れる鷹丸。ガルゴは鷹丸の姿に戻っていた。

 そしてあの七首石眼は、熱線の直撃を受けて、跡形もなく、骨も残さず消滅していた。






 日が沈み、代わりに三日月が昇る、夜の時間。翔子とタカ丸は、まだその無惨に壊れ果てた高原にいた。

 高原の一カ所に、ひっくり返ったザリ太郎の石像がある。そのすぐ側に、清水教諭・三浦 達紀・阿部 葉子の石像が、丁寧に立て掛けられて設置されていた。


 回収された石像達は、あれほどの爆風を浴びたのに、傷一つついていない。そしてその石像達を、呆然とした表情で見つめながら、翔子が座り込んでいた。

 すぐ隣には、大分着かれた表情で、鷹丸もいる。少し離れた場所で、タカ丸が座り込んで寝ていた。


「勝った・・・・・・これで終わったんだね・・・・・・。でも、この後どうすればいいの? もう皆いなくなっちゃったし・・・・・・」


 少し悟ったような感じで、翔子がそう口ずさむ。魔王討伐という、自分たちがこの世界に呼ばれた、そもそも目的はこれで達成されたと言える。ただそれは、魔王を殺せたということだけである。

 そもそもの前提である、自分たちに求められていた、世界の平和という目的は失敗した。そういう意味では、これは魔王の勝利と言えるのではないだろうか?


 元々翔子は、魔王討伐にやる気などなかったし、好きでこの世界に来たわけでもない。だがだからといって、これで良かったとも言えない。

 しかもこの滅びは、この世界だけではない。自分たちの故郷でも起こっているのだ。


「皆いなくなった? まるで世界が滅んだみたいに言うなよ。石になった奴らは、まだ助けられるはずだろ?」

「でもどうやって? 精霊も麒麟も、もうこっちの世界にはいないんだよ?」

「だから別の方法を探すんだろ? 別に麒麟以外に、石化を治せないなんて、誰も言ってねえじゃん。そもそも俺たち、赤森王国の中しか探してないじゃんか。別の国に行けば、治せる魔法所なりなんなりあるんじゃないのか?」

「もしあって、私達に使えるの?」

「それを今から言うなよ・・・・・・時間ならたっぷりあるんだ。お前皆が離れても、ずっと元の世界に帰る方法を探してたろ。それぐらいのガッツを、もう一度も持たなきゃな。それに今は俺もいる」


 鷹丸は自分で思いつく限りの励ましの言葉をかけて、ちょっと格好つけて翔子の手を取った。

 それに翔子は一瞬キョトンとしたが、しばしして小さな笑顔を向けて、彼の手を握り返す。


 この世界に残された、たった二人の人間。彼らはこの世界での、新たな希望を探すために、今一度立ち上がった・・・・・・

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