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第三話 破壊と目覚め

(町だ! 砲弾でも飛んでくるかな?)


 彼らと町の距離はどんどん縮まってくる。そしてとうとう、その町まで到着してしまった。

 馬車の一団が町の門を潜り抜けて、町内へと逃げ込んでいく。鷹丸は一旦追いかけるのをやめ、町の外から、その高い背丈で見下ろしながら、その町の姿をマジマジと見た。


 街中の建物は、瓦屋根や茅葺き屋根の木造の建物が建ち並んでいる、和風の町並みであった。ただ教科書や時代劇とは、何となく違う感じだ。

 町内部の街道は綺麗に区画整備されており、中央の石畳の道には、何台もの馬車や、自動車と思われる機械性の乗り物が走っている。この世界には機械技術もあるようだ。

 建物には一部煉瓦製の物があったり、道路には歩道と車道に分けられたりと、何だか江戸と大正を混ぜ合わせたような町並みだ。


 そして言うまでもないが、その町にいる人々は、鷹丸の姿を見て大混乱に陥っていた。


 街中から無数の悲鳴が聞こえ、人々は慌てふためきながら走る。家の中に飛び込んで隠れる者、反対側の町の出口へと逃げようとする者など、その対応は様々だ。

 混乱の中、交通マナーなど無視して、全速力で走る馬車や自動車に撥ねられる者もいた。


『緊急警報! 謎の魔物が町に接近しています! 皆さん直ちに憲兵の指示に従って、避難してください!』


 町の中には、送電塔のような金属の骨組みの塔があり、そこから機械を通した声で、町中に避難を呼びかける声が聞こえてきた。

 もう町の目の前に怪獣がいるというのに、遅すぎる対応である。


(軍隊とかはいなさそうだな、この町。何か面白いもんねえかな?)


 大騒ぎの街の中に、鷹丸とゆっくりと足を踏み入れた。町の入り口にある看板が踏みつぶされ、大怪獣が人の集落に入り込んでくる。

 広い車道のある道路は中々広く、鷹丸の巨体もギリギリで入ることが出来た。その道路を通って、鷹丸はグングンと町の奥へと入り込む。たまに左右に揺れる彼の長い尻尾が、道路の両脇にある商店街を半壊させていく。

 町の中央部には、城のように大きな和風のお屋敷が見えた。なんとなしにそこへ向かって、鷹丸は進んだが、途中である物が目に入って足を止めた。


 町の住人の大部分が、ダッシュで走り、鷹丸のいる位置から離れていった。今のところ鷹丸に踏みつぶされた犠牲者はいない。

 急激な速度で寂れていく町の中に、一軒の古びた家屋がある。二階建てでそれなりに大きいが、庭はあまり広くない。その小さな庭は雑草が生え放題で、家屋の壁も大分汚れている。恐らく長らく使われていない廃屋なのだろう。

 鷹丸がその付近に通ったときに、その廃屋の窓から、何者かがこちらを覗いているのを、鷹丸の優れた視力がとらえていた。


 何となくそれに興味を覚えた鷹丸は、道路を外れてその廃屋へと向かう。廃屋と道路の間には、二軒分の建物が行き先を塞いでいたのだが、鷹丸はそれを気にせず足を進める。

 間にあったいくつかの商店や家屋が、鷹丸の巨大な足に踏みつぶされていく。鷹丸の巨体からすれば、ミニチュアのように小さく脆い建物であった。やがて鷹丸はその廃屋の目の前までやってきた。


「(おお~~~い! 誰かいるのか?)グガガガガッ、ギャギャッ!」


 自分の足下にあるその廃屋を、鷹丸は前屈みの姿勢で覗き込む。さっき見えた窓には、あの人影は見当たらないし、廃屋から誰かが出てくる様子もない。


(とりあえず引っ剥がすか?)


 鷹丸の巨大な手が、その廃屋の屋根を鷲づかみにした。そしてその腕が引き上げられると、廃屋の屋根が、まるで鍋の蓋を開けるように引っ剥がされてしまった。

 屋根がなくなり、二階の内部が、上から丸見えになった家屋。引きはがされた屋根からこぼれ落ちる破片が、ボロボロとその二階の部屋に落ちて、室内を破壊していた。

 内部の廊下や、畳が敷かれた部屋が、上から見える。そこにも人の姿が見えない。


(一階にいるのかな?)


 鷹丸は、今度は二階の組み立て部分を掴み、それを引っ張り上げる。巨大な鋭い爪が、家の二階と一階の境界部分に、両側から突き刺すようにめり込む。そして玩具の家を解体するように、鷹丸は廃屋の二階を持ち上げる。

 廃屋の二階部分も引っ剥がされて、今度は一階の家の間取りが露わになった。一階には客間と思われる広い部屋や、トイレ・台所・風呂場など水場も見える。驚いたことに、トイレは和式ではなく洋式で、しかも見たところ機械で水を流すタイプのようだ。

 台所や風呂場にも水を流す蛇口が見える。どうやらこの世界では水道管の設備も存在するようだ。だがそこにも人の姿が見えない。


「ううう・・・・・・嫌だよ・・・・・・お母ちゃん・・・・・・」


 その時何者かの声が、その家のどこかから聞こえてきた。

 常人ならば、すぐ近くにいても気づかないかも知れない小さな声だが、家の内部の観察に集中していた鷹丸は、そのか細い声を確かに聞いた。鷹丸は視力だけでなく、聴力も凄まじかった。

 さっきの身体能力といい、随分ハイスペックな身体である。


(さっき聞こえたのは・・・・・・ここか?)


 台所の洗い場の下にある、恐らく鍋などの調理器具を入れておくための物であろう、棚の中に視線を向けた。

 鷹丸の鋭い爪の生えた二本の指が、その棚の上の洗い場を、豆粒をつまむようにして掴み引っ剥がした。バラバラに破壊される台所の水場。その下の棚の中に、ようやく目当ての者を見つけた。


 それは一人の少女であった。身体はかなり小さく、六~七歳ぐらいに見える。活動的な半袖の赤い着物を着ており、髪の毛を後頭部に結っている、男の子っぽい印象を受ける。棚の中に達磨のように丸まって、ずっと身を隠していたようだ。

 何故この廃屋に、こんな子供がいるのだろうか? もしかしたらこの家を秘密基地にしていたのかも知れない。子供ならやりそうなことだ。


 隠れる場所を無くした少女は、自分の真上の破壊者を見る。いかにも凶暴な顔つきの怪獣の顔が、とてつもないアップで、少女の眼前に迫っていた。

 それを見て、元々涙ぐんでいた少女の顔が、更なる涙を流し、叫び始めた。


「うぇええええええん! いや、いや、いや! 助けて~~~~~!」


 幼き低い声で、高らかに泣き叫ぶ少女。その姿と声は、鷹丸もはっきりと視認していた。


(・・・・・・何だか冷めてきたな。・・・・・・もう帰ろうか?)


 いくら夢とはいえ、こんなものを見せられるのはあまり気分がよくない。勿論映画などで暴れる怪獣は、この子供のような犠牲者を沢山出しているのだろう。

 だが自分が怪獣になる夢で、それを直に見せつけられるのは勘弁であった。正直この夢はリアルすぎた。


 前屈みで家の中を覗き込んでいた鷹丸の身体が、ゆっくりと起き上がる。そしてさっき通った道から方向転換をする。

 身体の向きを変えるときに、当然あの尻尾も、時計のように横に円を描きながら動いた。その軌道上にあったいくつもの家の屋根が、その尻尾に動きによって破壊された。

 そして鷹丸は元来た道を戻り始めた。町の中はすっかり人が逃げ切り、閑散とした風景になっている。やがて町を出て、湖の所にまでやってきたところで、鷹丸は思った。


(帰るつっても、どうすればこの夢から覚めるんだ?)


 一つの難題に気づいたときに、鷹丸の意識が少しずつ薄れ始めた。眠気のような感覚が襲い始めて、鷹丸の意識が朦朧とし始める。


(何だ? 夢の中で眠気なんておかしいな・・・・・・?)


 ドンドン意識が薄れていく鷹丸。彼は気づいていないが、今彼の身体は、まるで幽霊のように透けて消え始めている。

 やがて鷹丸の意識が完全に途切れたとき、あの町を大混乱に陥れた怪獣も、この世界から消えた。







 再び鷹丸が意識を取り戻したとき、彼はベッドの上にいた。目覚めたばかりなのに、さっきまで感じていた眠気は全くなく、ばっちりとした目覚めだった。

 そして先程まで見ていたあの夢も、全く霞むことなくはっきりと覚えている。


 布団をひっくり返して起き上がると、そこには見慣れた自分の部屋だ。

 実家から持ち込んだ小学生の頃から使っている勉強机。

 自分専用の衣服が入ったタンス。

 窓際の壁には、大量のコミックが詰め込まれている、プラスチック製の収納ケースが、十個以上積み重ねるように置かれていた。

 昨日寝る直前と、ほとんど変わらない様子だ。疑う余地のない、自分の知る現実世界の姿であった。


「・・・・・・何だったんだ、あの夢は? ・・・・・・でも結構楽しかったな」


 恐らく昨日あの映画を見たせいで、あんな夢を見たのだろう。そう結論づけて、彼はいつものように着替え、朝食と登校の準備を始めた。



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