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第十話 三人の天者

 元赤森王国のある地方にて。

 そこは深い森で覆われていた。いくつもの照葉樹の大木が生えた、鬱蒼とした森。地面には短い草やキノコなどが生えている。この辺りの山林には、人工林は一切無い。完全に自然の森である。人

 里は近くにあるが、そこから人が森に近寄ることはない。この辺一帯は、環境上の理由かは不明だが、強力な魔物がよく発生し、生息しているからだ。そのため森の中に資源を採りに行ける者は限られており、林業を行うことは不可能だ。


 ならば何故、そんな危険な場所に人が住んでいるのかというと、その町は討伐した魔物から出る資源を糧に発展している町だからである。

 魔物は人にとって脅威ではある。だがその一方で、その骨や皮からは、良質な素材が採れることが多い。それは生活器具や武器の材料になったりしている。そういった産業で生計を立てるために、あえて魔物の生息地域に住んでいる者も多い。


 だがこの森の付近にある町は、魔王の仕業とされる魔物の異常発生で、一時窮地に立たされた。強力かつ増大していく魔物達に、町の鉄士達だけで対処するのは難しくなり、一時は町を放棄する案も出ていたほどだ。

 だが現在はその悩みは解消されている。あるときから、この街に滞在している、三人の小さくて凄腕の鉄士達のおかげで。


 その森の中に、その当の三人が、今日の獲物を狩りに、森の中に分け入っている。通行に邪魔な草木を、刀で振り回しながら刈り取りながら、その三人は薄暗い森の中を進んでいく。

 彼らは三人とも、年端もいかない少年達であった。背丈は三人とも、大体同じぐらいで、身長百五十センチ前後。この国の住人達と同じ、和服姿だ。ただし戦闘の際に動きやすいように、袖や袴は短く細く拵えている。

 ただし頭や肌の特徴や、持っている武器は、全員異なっていた。


 一人は浅黒い肌で、鬼のような角が生えている。そして明らかに彼の身長より長く、彼の頭より大きな鉞を持っていた。

 これだけの重量武器ならば、相当な怪力でないと持ち上げられないはずだ。だがこの少年は、その小柄な身体で、軽々と片手で持ち歩いている。

 この少年の人種は鬼人(きじん)という。天者達はそれぞれ力を与えられて、三種類の人種に転生させられた。鬼人族は、三人種の中でも、身体能力が飛び抜けて優れた人種だ。

 トン単位の重量を平然と持ち上げる程の怪力と、砲弾を受けても平気なぐらい頑強な肉体を持つ。更に訓練を重ねれば、気功という、自らの生体エネルギーを放出操作して、自らの攻撃力を上げる不思議な力を身につけることもできる。


 一人は佐藤 翔子と同じように、東洋の竜のような角と尻尾が生えていた。持っている得物は、これまた身の丈に合わない大型の銃であった。背中に背負っているそれは、全長1メートルはある、黒光りする大型ライフルだ。

 グリップなど、銃の後部分はあっちの世界の対物ライフルと酷似している。だが銃身部分が妙に太く、銃身の下の部分に、反動止めなのかは不明だが、重りとなる金属の棒が取り付けられている。これは銃と言うより、小型の大砲といった方がいい。

 彼の人種は龍人(りゅうじん)という。身体能力は鬼人族よりも劣るものの、魔力が高い人種だ。この世界では機械技術と並んで人々の生活を支えている、魔法の力を扱うのに長けている。


 一人は若松と同じように、頭に若芽のような葉っぱがついている。上記の二人と違って、所持している武器は、奇妙な棒であった。

 神道の大麻を長くしたような、全長1メートルぐらいの棒を、魔法使いのロッドのように持ち歩いている。棒は白木ではなく、黄緑色に塗られた金属製。紙垂のようなヒラヒラは、葉っぱのような緑色だ。そして棒の先っぽには、槍のような短い突起がある。

 彼の人種は葉人(はじん)という。植物を操ったり育てたりする超能力を持ち、訓練を積み重ねれば、自分の身体の一部を植物に変えて操ることも出来る。毒や薬を扱うのにも長け、戦闘では回復役にもなれる人種だ。


 彼らは全員六年二組のメンバーであり、この世界の人々から天者と呼ばれている、三十一人の異世界の戦士達である(人数が一人多い気がするが、今は気にしないでおこう)。


 異世界から召喚された彼らは、一名を除いた全員が、この三人種のいずれかに変異しており、常識を越えた超常的な能力を持っていた。

 赤森王国が崩壊したあの日、兵士達から聞き出した話に寄れば、これは召喚の儀式に呼び寄せられて協力した“召喚の精霊”が、異世界の門を潜り抜ける時に、彼らに与えた力だという。


 その召喚の精霊とは何者で、今どこにいるのかは、現在は謎である。


 ともあれ、召喚された六年二組のメンバー=天者達は、右も左も判らない世界に放り出されたにも関わらず、この強大な力のおかげで、早い段階でこの世界の環境に適応することが出来た。

 現にこの三人も、高レベルの魔物がいる危険地帯にも関わらず、全く恐れることもなく、世間話をしながら意気揚々と森の中を進んでいた。


 なお彼らの名前は、

 鬼人の少年は犬神 拓也(いぬがみ たくや)

 龍人は猿山 真(さるやま しん)

 葉人は雉本 武(きじもと たけし)という。


「例の怪獣、そろそろ俺たちの所にも来るかな? こうして歩いている内に、いきなり森の中に現れたりしてさ」

「どうだろな? でもどうせ出てくるなら、懸賞金がかけられた後にして欲しいかな。そうすりゃ、俺たちでぶっ殺して、滅茶苦茶稼げるのに。いつになったら指名手配されるんだ?」

「さあな~~。まだ死人は一人も出てないからな、協会の方も色々悩んでるんじゃね? しかし、ここに大物が出てきたか。ずっと雑魚敵ばかりで、そろそろボスキャラが欲しいと思ってたんだよな」

「ていうか怪獣なんかより、無心病の方が深刻だろ? あれを治せとか言われたら、どうするか?」


 例の怪獣の話題を振っている最中に、三人にお目当ての獲物が姿を現した。森の中を、何か大きな物が、地面を這う音が聞こえてくる。

 誰かが何かを引き摺っているのかというと、そうではない。それはとても太くて長い、動く何かが、地面の上をくねらせながら移動している音だ。

 それに確かな生きている者の気配を感じ、三人は一斉に武器を構える。


 こちらに近づいてきている者の気配は複数。森の奥の影から姿を現したのは、全身が黒い鱗で覆われた巨大な蛇だった。

 その大きさは、胴体だけでも20メートル近くもあり、胴体の太さは七十センチほど。そして頭は肉食恐竜のように大きく、口もでかい。あれならば人間を一飲みにすることも容易いだろう。

 この大蛇たちは、身体もでかいだけでなく、動きもそれなりに速い。あっちの世界のアナコンダなどは、その大きさ故に、かなり動きの遅い生物であるが、これは普通の蛇と同じぐらいの尺度の速さで動いている。

 それが森の奥から十匹ほど、いかにも毒のありそうな牙を向けながら、天者達に立ちはだかった。


蟒蛇(うわばみ)か。まあ、悪くないか。胴体の部分は傷つけるなよ!」

「判ってるよ! もう最初の時みたいな失敗はしねえよ! ということで武、頼むわ」


 大蛇達=蟒蛇がこちらに襲いかかる前に、武の身体に異変が起きる。彼の頭の葉っぱから、大量の蔓が伸びたのだ。

 頭の若芽が、いつの間にか成長・巨大化しており、その葉の間から、長い蔓植物が、彼の頭からシャワーの水のように伸びる。そしてそれらの一本一本が、意思を持っているかのように、機敏に動きながら、接近する蟒蛇たちに襲いかかる。


「ギシャッ!?」


 こちらに突進してきていた蟒蛇たちの動きが、急に止まる。武の頭から生えた蔓が、ロープのように、蟒蛇たちの首と胴体の中央部分に巻き付いたのだ。

 ただ巻き付いただけでなく、それはもの凄い力で、蛇たちの身体を締め付けながら拘束する。そのあまりの力に、蟒蛇達は苦しそうに身震いしている。


「よしっ!」


 この状態を待っていた拓也と真が、敵にトドメを与えるために踏み込んだ。拓也の鉞が、蟒蛇たちの首を切断した。首を刎ねられた蟒蛇は、悲鳴も上げられずに絶命する。

 拓也の持っている斧の刃は、青い光を纏っていた。これは以前ガルゴと対決した直人が使っていた技と同じ、気功の強化能力である。その斬撃は、鋼のように固い肉体と鱗を持った蟒蛇を、豆腐のように簡単に一刀両断できるほどである。

 真の方は、蟒蛇の頭部目掛けて、その巨大な銃を発砲する。大きな銃口から、炎の魔力で構成された、赤いエネルギーの弾丸が放たれる。


 ドン!


 小さな爆音が鳴り、森の中が一瞬赤く照らされる。光が収まると、そこにはブスブスと煙を上げる、首無し蛇の身体があった。真の放った魔法弾は、蟒蛇の頭を一発で吹き飛ばしたのである。

 二人の攻撃の前に、動けない蟒蛇たちは、為す術もなく倒されていき、あっというまに全滅してしまった。森の中の大地の上に、大蛇たちの首無し死体が転がる。流れ出る血と、肉が焼ける音が混ざり合いながら、森の中に充満していった。


 彼らの仕事は倒して終わりではない。魔物の駆逐だけでも鉄士協会から金を貰えるが、更なる稼ぎのために、これから素材を採取せねばならない。

 実の所、ただ敵を殲滅するだけならば、三人協力する必要はない。一人でも軽く無双は可能だ。だが大事な部分を傷つけず、確実に素材を採るために、武の能力が必要だったのだ。


武の頭から生えた蔓が、全て頭の中に引っ込み、頭の葉っぱも小さくなって元通りになった。

 そう思ったら、また変化が現れた。彼の頭の葉っぱが、ぐんぐんと巨大化していくのだ。それはすぐに彼の頭よりも大きくなり、オオオニバスのようになる。明らかに自分の頭よりも大きくなった葉っぱを、頭から生やす武の姿は、何とも滑稽なものだった。


 武はその葉っぱを掴むと、ブチリと自分の頭から引き抜いた。帽子のように簡単に、彼の頭から離れた巨大葉っぱ。葉人の特徴である、頭の葉がなくなったと思ったら、頭頂部からニョキニョキと、新しい葉っぱが生えてきた。

 さっきまで武の肉体の一部だった、二枚の葉っぱにも、大きな変化が生じた。誰も何もしていないのに、葉っぱが勝手に折り重なり始めたのだ。折り紙のように折り重なるだけでなく、葉っぱの各部が、伸縮しているようだ。

 いったいどんな風になるのかと思ったら、その葉っぱは武の足下で、二つの大きな袋に変じていた。


 一方の拓也も、素材の剥ぎ取りの為に、仕事をしていた。彼は腰に差していた短刀を引き抜く。そこに気功強化を加えたと思うと、もう死んでいる蟒蛇の腹を突き刺し、皮を切り裂き始めた。

 ドバドバと血が溢れる腹の皮から、内部にあった蟒蛇の内臓が露わになる。拓也のその内臓の中に手を突っ込んだ。馴れているのか、特に気持ち悪がる様子はない。生き物の腸に触れることに、何の抵抗も嫌悪感も持っていないようだ。

 拓也がその中から引き抜いたのは、蟒蛇の肝臓であった。この魔物の肝臓は、薬の材料や、料理の高級食材になり、高値で取引される。

 その後も馴れた手つきで、拓也は蟒蛇たちから肝臓を引き抜いていく。蛇の血で、全身が真っ赤になることなど、お構いなしだ。そして採取した肝臓を、さっき武が創り出した袋の中に詰め込んでいった。


「うしっ、完了だ。そんじゃ帰るか」


 一仕事終えた三人は、その肝臓を詰めた袋を、サンタクロースのように担ぎながら、来た道を引き返し、町の方へと向かっていった。



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