表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/167

/95/:真相・③

 村全体が燃え上がっていた。

 どこかの誰かが後先考えずに燃やしたらしい。

 結果として、村全体が乱戦状態だった。

 住まいがなければ寝ている隙に殺されてしまう。

 だったら殺される前に殺そうという算段なのだろう。

 私たちに青魔法で火を消す暇もなく、襲われて参戦する羽目となった――。


 何人も殺した。

 代わりに体はもう動かなかった。

 ボロボロになって私は地に平伏す。

 だけれど、お母さんだけは立っていた。

 片腕を落とし、血を流しながらも――。


「……立てる?」

「…………ちょっと……むず、かしい……」

「……無理しないで。暫くは、こうしていましょ……」

「……うん」


 私の横に、余った右手で左肩を抱いたお母さんが腰を下ろす。

 周りは地獄だった。

 あちこちに散らばった死体、血だまり、未だに燃え尽くさん炎はボォボォと燃え、夜を赤く染めていた。

 安定した生活を送っていたのに、これ。

 どこまで世界は私たちに酷な仕打ちをするのかと、謂れのない怒りに歯噛みをする。


「……お母、さん。だい……じょう、ぶ?」

「……片腕がなくなっただけ。痛いけど、すぐに止血もしたし、死ぬことはないかも」

「……よかっ、た……」


 死ぬことはないと聞いて安堵する。

 死なないと言い合ったんだ。

 約束は……破らないでよね。


「……だけれど、これからどうしよう。村から村は遠いし、草や動物が上手く狩れればいいんだけど……」

「……その話、後でも、いい?」

「あ、ごめん……喋るのも辛いよね?後にする……」

「……うん」


 私は無色魔法に吹き飛ばされてあちこちが痛いだけで、多分、数日もすれば痛みも取れる。

 骨は折れてなさそうで、暫くはお母さんに代わって狩りをしそうだと予感した。


「……疲れちゃったね」

「……う、ん」

「これだけ火があると、人も寄り付かないと思うし、私は寝るね? 寝てても死体と間違われそうだし……大丈夫かな」

「……そう、かも……?」


 確かに、死体と変わらないかもきれない。

 消耗しているなら、眠った方がいいだろう。


「――まだお眠りには早いぞ」


 その時、怜悧な男の声がした。

 お母さんが勢いよく顔を上げ、すぐに青ざめる。

 私も、何事かと、顔だけ前を見た。


 目の前には着物の上から銀の甲冑や草摺を付けた、顎髭の生えた男がいて――右手には白銀の刀がその白身に炎を照らしていた。


「あ、あな、貴方は……」

「……? おや、覚えておいでか。まぁ何回も抱いたしな。記憶に焼き付いてても仕方ないか」

「……っ……うっ……」


 お母さんが嗚咽を漏らしながら震えだす。

 お母さんの過去と、何か関連がある人なのだろうか……?


「あぁ、失礼。名前も名乗ってなかったな。私はファリュイア・シュテルロード。東の大国、フラクリスラルで侯爵をしている」


 私の目を見て何を思ったのか、自己紹介をする男。

 フラクリスラルだの侯爵だの、よくわからないが……偉い人?


「……何をしに、来たのですか?」

「貴様の首を貰いに来た。貴様に遠隔投射魔法を掛けて『西大陸で出産した子供の育成』について研究したが、もう不要らしい。4色も使える奴だ、万が一他人と徒党を組んで東に来られても面倒だろう。まったく、国も侯爵にこんな汚れ仕事を任せるとはな」

「……ツッ!」


 悪態つく男と私をお母さんは見比べた。

 男はお母さんを殺すと言った。

 そんな、事は……。


「火を点けたのは貴方ですか……?」

「いかにも。戦うのも億劫でね、君を弱らせるために争いを誘発したんだ。いっそ死んでてくれれば私が手を汚すこともなかったのに、生き延びるなんてね……」

「……私は、死ねない……」

「ほう? ならばそこの子を殺そう」

「!」

「…………」


 思いついたように男が言う。

 お母さんの顔色は、益々悪くなった。


「それだけは……どうか、それだけは……」

「別に私としてはどちらでも良いのだ。ガキまで殺せとは命令されてない。貴様の首さえあればな」

「…………」

「お母……さん……」


 別に、私は死んでも構わなかった。

 お母さんはずっと私を守ってくれてきた。

 だから、今は私が、なんとかしてお母さんを守りたい。

 なのに、体が動かない……。


「……私がおとなしく死ねば、いいのね?」

「そうだ。私は貴様らと違って忙しい。無駄話も尽きたか、殺させてもらう」

「…………」

「逃げ、て……お母、さん……」


 お母さんはまだ動けるはず。

 赤魔法で筋力を上げれば逃げられるはずなのに……。

 なのに、お母さんは立ち上がって、男に近付くだけ……。

 そっちじゃない……。

 ダメ、逃げて……。

 私なんかのために……死のうとしないで……!


 立ち上がろうと腕を地面に立てる。

 だけれどすぐにふらついて倒れてしまう。

 なんで私は……なんで立てないの……!


「お母さ――!!」

「さらばだ、姫よ」


 綺麗な一閃と共に、一つの首が宙を舞った。

 絶たれた体から飛び出す血が一瞬だけ雨のように降り、残った血肉と血塗れの金髪が地に落ちる。

 飛んだ首は男の腕に収まり、髪の毛を引っつかんでそのまま持ち去ろうと踵を返した――。


「――アァァァァァアア――ーッ!!!!!」


 怒りに任せて叫んだ。

 先程まで動こうともしなかった足で立ち上がり、地を踏みしめる。

 両手には炎を灯し、涙を流しながら男を睨みつけた。


「……なんだ?」

「殺すっ!! 絶対にっ……殺すっ!!!」

「……面倒な」


 男が血を払って剣を仕舞い、首を掻いた。

 その動作で私の怒りは有頂天となる。

 全力で赤魔法を使う。

 地を蹴れば、刹那には男の眼前に私は居て、炎の拳で殴り付ける――!


「ふんっ」

「あぐっ!!?」


 拳が届く前に、ちょっと気合を出したような声で放たれた膝蹴りに、私の体はくの字に曲がった。

 たった1撃で、私はまた地にひれ伏してしまう。


「……ハァ。情けだ、小娘。殺さないでおいてやる」

「あ……ぐ、うっ……!」

「ここでせいぜい苦しんで死ね。さらばだ」


 捨て台詞を吐いて、男は去って行った。

 私は痛む腹を抱えながら泣いた。

 自分の弱さをが嫌で。

 お母さんを守れなかった自分が嫌で。

 夜が明けても、私は泣き続けていた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ